初恋のお姉さんと ①
「とにかく、帰りなさい。あれだけ俺に見せつけていたキスシーンの数々を、俺は個人的に忘れられんからな。高久くんはゆかちゃんの旦那になるんだろ? だったら、強くなれ! そして気持ち切り替えて明日は来なさい。いいな?」
「はい、お疲れさまでした……ぐずっ」
だ、大丈夫のはず。俺とゆかりなさんは結婚すると誓い合った。今はお互いに戦いたい時なんだ。そうに違いない。だけど、今頃ゆかりなさんとチヒロはどんなことを話しているのか気になる。そもそもどんな関係?
「いや~あれで良かった? 高久を騙すとか、ちょっとヒヤヒヤしたよ。それにしてもこうやって話すのは何年ぶりだろうね?」
「チヒロ君は高久よりも芝居が上手いよ……あのね、ずっと謝りたかったの。だけど、わたしが高久の妹になって、それから今の関係になるまでは他の男子が視界に入ることなんて無くて、だからごめんね」
「うん。でも俺も悪かったよ。少なくとも高久と知り合うまでは、キミと話をしていたのに急によそよそしくしてしまったからね」
「そうだね。今は受験勉強で大変かもしれないけど、あのね、頼みがあるの……いい?」
「――それがキミと高久の為になるならその役になるよ。でも俺は好きな人がいるし、裏切りたくないんだ。だから、偽者でもいいならやるよ? 春までならね。3年になったら、キミは高久の傍にいてやってね」
「うんっ! ありがと」
俺は結局、街に出てゆかりなさんとチヒロをス〇ーカーする勇気はなく、家の中で大人しく……なんてことも出来ないので、歩き慣れ過ぎた道を何の当てもなく歩いていた。
「あれっ? 君って、高久くん?」
んん? どこの誰だ。聞いたことあるような無いような女性の声じゃないか。こ、これは世に聞く逆ナンパ? モテ期が最高潮になったのか! モテ期と引き換えに彼女を失いそうなのにそれはあんまりだろう。
「も、もしかして、泣いていたりする? い、痛くもしないし、変な誘いでもないんだけど……とりあえず顔を上げてもらえるかな?」
「うぅぅ……な、何ですか? 一体どこのどなt」
「忘れちゃったの? 初恋相手の失恋相手ってそんなにも記憶から消したいのかな?」
おや? この声、この優しい香りはお姉さまなのかな……?
「お、お久しぶりです。えと、柴乃さん?」
「うん。去年の夏以来かな? どう? 彼女さんとの交際は」
「……ぅ」
「あ、あれ? もしかして泣いてた? ど、どうしたの? 話、聞くよ。カフェ行こう?」
「はい……」
今は誰かに甘えたくなっていたのかもしれない。もちろん、ゆかりなさんに限ってという疑いは自分には無い。だけど、彼女が誰かと一緒にいるとか付き合うとか、そんなのはやっぱり嫌で……今は放心状態にならざるを得なかった。




