あれっ? 初めましてじゃない……
新規パン仲間はどうして女子ばかりなのか、サトルからは一切説明がない。野郎ばかりでパンを食することに飽きたのだろうか。それとも進路に余裕のあるメンバーが仲間入りしているとでもいうのか?
「あ、高久さん! お久しぶりですね」
「んん? あれっ? 君は確かマリカさんだよね。同じクラスだったっけ?」
「そうです。マリカです! そしてクラスは違いますよ。でも3年になったら多分同じクラスになると思います。高久さんは進学コースじゃないですよね? だとしたら私も違うので一緒になれます」
マリカさんといえば、ゆかりなさんのわがままに付き合わされて俺の目を隠してくれた女子だ。確か某イケメンと付き合う予定だったはず。しかしそれは聞いてはいけない。
「え、えーと……もしかしてパンですか?」
「ですです! 実は私もパンが好きなんです。ゆかりなと一緒に食べなくなってからは、ずっとぼっちでした」
「それは何というかすみません……」
「いえいえ。それで、あの子とはその後正式に付き合っているんですよね?」
「何と言いますか……今はあの~……一時的に距離があったりしまして、もちろん別れていませんよ?」
「……そうですか。じゃあ、機会はあり得るのかもですね」
何やら嬉しそうにしているのは何故だろうか。マリカさんのことは良く知らないけど、まさかパン仲間として再び交流することになるとは思わなかった。サトルに近づくためなら応援するが、単なるパン好きかもしれないし何とも言えない。
「そ、そういえばマリカさんの名前をまともに聞いてなかった気がするけど、聞いてもいい?」
「そうですね。パン仲間の後輩として教えないと、ですね。垣根マリカです。サトルさんは名字呼びしていますけど、高久さんはこれまで通りに呼んでくださいね。その方がドキドキします」
「へっ?」
「……っと、ゆかりなに声をかけてきますね。高久さん、来週の集いからよろしくお願いしますね!」
「う、うん」
マリカさんか。優しい感じのイメージだったけど、そのまんまだ。クラスが違うから普段は全く接点が無かったし、ゆかりなさんを通じての声かけだったから何だか不思議だ。
俺もゆかりなさんに声をかけたい。だけど、彼女は俺に成長を望んでいる。俺から声をかけていいものだろうか。家に帰れば顔を合わせる……なんてこともない今、何だか距離が遠くなってしまった。
「うぅ……ゆかりなさん。俺は頑張ります」