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2-4

 家に戻って夫と娘に商品を預けた話をした。


「わたしって代打だったみたい」


 若干の寂しさをにじませたその言葉に、しかし、娘も夫も嬉しそうな反応だった。


「大丈夫よ、代打だって、作品が認められたからじゃない」

「そうだよ、代打でホームランをうつ選手だっているんだから」


 夫の言葉に思わず笑ってしまう。


「それ、牧野さんも同じせりふ言ってたわ」


 夫は照れくさそうに顔を手のひらで覆った。


「そっか。男はけっきょく野球好きだからな」





 翌朝、作品が店頭に並ぶ日だ。

 雅子は朝から緊張して水しかのどを通らなかった。


 夫と娘を送り出してから身支度をし、東光ハンドのある池袋へ向かった。

 雅子の家は板橋なので、埼京線に乗ってすぐだ。


 ついたのは一〇時の開店の三〇分も前だったが、気にならなかった。


 四五分をすぎると、ぽつぽつと客が集まってくる。一番乗りしたい人たちなのかそれとも早く来すぎて待つしかない人たちなのかわからなかったが、自分一人で待っているよりは気がまぎれた。


(もしかしたらこの中にハンドメイドフェアを目当てにきてくれた人がいるかもしれないわ)


 やがて警備員がドアの前のチェーンを外した。店員が看板を持って出てくる。店頭用のワゴンも出てきた。


 雅子は腕の時計をみた。


 あと一分。


 半開きだったシャッターが全開になる。店の中が輝いて見えた。


「おはようございます、東光ハンド、ただいま開店です」


 緑のエプロンをつけた店員が頭を下げた。店の中に立つ店員もみな頭を下げる。

 その中を意気揚々と待っていた客たちが通り過ぎていった。


 雅子は客たちがすべて入ってから、おずおずと店内に入った。


 牧野はフェアはいつも一階エスカレーター前でやっていると言った。それは雅子も知っている。ハンドは雅子の作品作りの上でも重要な材料仕入れ先だ。いつも一階のフェアは楽しいものだった。


 そして今日、ついに自分の作品が。


「あ、あら……」


 店内に入って雅子は困惑した。


 一階のフェアスペースにあるのは恐竜グッズだった。

 右を見ても左を見ても、奥も手前もたくさんの恐竜たちだ。


「え? どういうこと……」


 別なフロアだったのだろうか。ハンドのアクセサリー材料売場は八階だ。もしかしたらそこでやっているのだろうか。


 雅子はエレベータに飛び乗り八階を目指した。


 八階は雅子もいきつけのフロアだ。ここでさまざまな素材や材料を買い込む。一時間いても飽きないフロアだったのだが。


「やってないわ……」


 雅子は一階に戻った。入り口付近の案内スタッフに近づく。


「いらっしゃいませ」


 元気のいい若い店員が雅子に声をかけた。


「あの、」


 雅子は持っていたバッグのとってをぎゅっと握りしめながら言った。


「ハンドメイドフェアは、何階でやってるのでしょうか?」

「ハンドメイドフェアでございますか?」


 若い店員はさっと自分の手元のタブレットを操作する。短い待ち時間の間に心臓が破裂しそうだった。


「お待たせしました、お客様。あいにく今の期間、ハンドメイドフェアというものは開催しておりません。念のため、他の店も調べましたが、今はどこでもやっていないようです」


 床がぐらぐらと揺れた気がした。


「あの、でもだって、あ、そ、そうだ」


 雅子はバッグの中から財布をとりだした。中に牧野の名刺が入っている。


「こ、この人は? 牧野さんって方がハンドメイドフェアをやるとおっしゃっていたんですが」


 若い店員は名刺を見て、それから隣の少し年輩の女性にもそれを見せた。

 やがて若い店員に変わって年輩の店員が雅子に丁寧に言った。


「お客様。この名刺は当社のものではありません。電話番号はこの池袋店のもので住所もそうですが、当社には戦略販売部というものはありませんし、このロゴは名刺には使いません」

「え……っ」

「この名刺は偽物です」

「そんな」




 雅子はどうやって家に帰ってきたかよく覚えてなかった。


 名刺の件を詳しく聞かせてほしいという店員をさえぎって、店を出たことは覚えている。だが、そのあとどうやって池袋駅にまで行ったのか、どうやって電車に乗ったのか、どうやって家まで歩いてきたのかまったく思えていなかった。


 気がついたら自室の机の前に座っていた。


 スマホを取り出し、震える指でタップする。牧野からのメールに「どういうことですか?」とメールをしたが、帰ってきたのは宛て先が見つからない、というエラーメールだけだった。


 引き出しから今回出さなかった残りの作品を取り出してみる。


 牧野に渡したのは厳選した一〇作品だ。それの残りの作品は、色あせ、古ぼけ、つまらないものに見えた。


「わあああっ!」


 雅子はその作品を引き出しごと床に叩きつけた。


 それから激しく泣き出した。


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