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四
翌日の夜。
執事喫茶のドアに「Cloused」の看板をかけて五分もしないうちに。
文果と雅子さんが駆けつけてきた。
「あ、あの、ほんとですか? ほんとにわたしのアクセサリーが戻ってきたんですか?」
ドアを開けるなり雅子さんが叫んだ。その雅子さんを一部の隙もないエスコートで、冬真がテーブルにつかせる。文果もはあはあいいながら椅子に座った。
春海が部屋の照明を半分くらいに落とす。薄暗くなった店内を、テーブルに置いたランプがぽつ、ぽつ、と照らした。
こうした間接照明は人の気分を落ち着かせる効果があると、以前夏月から聞いたことがある。
店内には静かにチェロの演奏が流れている。低音のゆったりとした曲だ。
秋実がベルガモットの香り高いアールグレイの紅茶を二人にサービスした。
見ているうちに文果も雅子さんも落ち着いてきたようだった。
二人が紅茶を飲んでほうっとため息をついたところを見計らって、夏月が手に小箱を持って現れた。
「あ、……!」
雅子さんがのどの奥でうめくように声をあげた。それは雅子さんがアクセサリー一〇点を入れて詐欺師の牧野に渡した箱だ。
「どうぞ、中を確かめてみてください」
夏月がテーブルに置いたその箱を開けると、落とした照明の中でもはっきりと透き通ったアクセサリーたちが見えた。
「ああ……ああ……!」
雅子さんは作品をひとつひとつ手にとって確かめた。
「全部、ある。全部、わたしの……!」
雅子さんがこだわった黄色い紫陽花のアクセサリーもあった。
雅子さんの目から涙がぽろぽろこぼれる。
「ありがとうございますっ! ありがとうございます!」
雅子さんは箱を抱えて何度も夏月に頭を下げた。
「すごい、どうやって取り戻したんですか」
文果も涙のにじんだ目で夏月を見上げた。
「いえ、地味な作業ですよ。ネットで根気よく検索したんです」
「そうなんですか」
「やはりオークションにかけられそうになってました。販売される前にネットの管理者に連絡して押さえたんです」
「それじゃあ犯人はーーー」
「残念ながらそこまでは。ネットの管理者も所在地まではわからなかったようです」
「そうだったんですかあ」
文果はさかんに感心している
。
「犯人を捕まえられずに申し訳ありませんでした」
頭を下げる夏月に雅子さんはものすごい勢いで首を振った。
「いいえ、いいえ、とんでもありません! この子たちを取り返してくださっただけで感謝してます!」
「そうですか?」
「はい、そもそもわたしの無知と思い上がりからこんなことになったんです、ほんとにご面倒をおかけして申し訳ありませんでした」
雅子さんは泣き笑いの顔だ。夏月は静かに笑いかけた。
「雅子さんは、今後も作品を作り続けられるのですか?」
「ええーーーはい、」
雅子さんはゆるく首を振った。
「作品は作ります。でもきっと前ほどのペースではないと思います」
「でも作品を作って人とつながったり認められたりするのが楽しかったんじゃないんですか」
自身もパティシエとして愛される作品を作り続ける秋実が少し不満げな口調で言った。
「ええ、そうなんですけど……。でもこんどのことで娘や夫がどんなに私を心配していたわってくれたか……いつもわたしのそばにいて力になってくれたのはやっぱり家族なんです。人様とのつながりも素晴らしいんですけど、わたしは家族のつながりをもっと大事にしたいと思います」
「ママ……!」
文果が感動でいっぱいの目で雅子さんを見上げている。
「ほんとよ、文果。いろいろありがとう」
「そんなの、当然じゃない。あたしママの作品大好きなんだもの!」
「ありがとう。文果のその一言が、一番嬉しいのよ」
文果は雅子さんに抱きついた。その肩を雅子さんが優しく撫でる。
ああ、いいなあ。
私は一〇歳の時に亡くしてしまった実母を思った。時季子さんも確かに素敵な母親だが、おりにふれ、こうして母親を思い出す。
それは仕方がないことよね。




