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04  関風空透は没頭する


 『04_ 関風 空透(せきかぜ そらと)は没頭する』 2016/10/7



 狭い空間に幾何学的なオブジェが所せましと並んでいる超常現象研究所。

 その中央に置かれた椅子に僕は座り、小さな薄型テレビを直視する。

 『東京都内に住む高校生の16歳の女性は先月26日、高校からの帰宅途中に行方が分からなくなっているという事故で、現場付近の駐車場から遺体が見つかりました。現場近くから中継です』

 テレビから少し急ぎ気味の男性の声が聞こえてきて、その声は少し間を置いて聞こえてくる。

 画面が切り替わり、奥がブルーシートで覆われた駐車場が目に入る。

 

 

 ―――は? この駐車場妙に思い当たるんですが……

 前に使った自動販売機そっくりだし……ブルーシートの奥にあるオレンジ色のアパートも知っている。

 思わずテーブルを挟んで椅子に座っている博士のほうに向くと、僕と同じくテレビ画面に目を向けていて。

 そう、まさかこの街が現場だ。それもどうして警察とかテレビのリポーターとかに気付かなかったのか、ってくらいに近い……



 ズームアウトされて行き女性のリポーターの顔が見えると同時に、はきはきとした声が聞こえてくる。

 『はい。つい先ほどに行方不明の高校生と視られる遺体が発見されました。見つかったのは、駐車場の右奥に駐車してあった車の側です。近隣住民から異臭がするとの報告を受け駆けつけた警官が発見しました。遺体は黒いビニール袋に包まれており損傷が激しいとの事で、警察は現在詳しい状況を確認中とのことです。行方不明になっているのは浅浜女子高校の一年生弓削弥生さんです。弓削さんは先月の26日に高校からの帰宅途中に行方が分からなくなっていたという事です』



 帰宅中に失踪してビニール袋に包んでって……つまり誘拐殺人事件って事?

 いやいやいや、コンビニ強盗さえ起きたことがないこの浅浜町で? しかも今もそんな凶悪犯がこの近くをうろついているかもって事?

 そう思うと身の毛がよだつんですが……


 画面が近所の住民の反応に切り替わると同時に興味が無くなったのか博士は作業を再開した。

 


 博士は何の予兆もなく、いつものニヤリとした笑みを浮かべて言った。

 「サイコパスって知ってるかな、助手君」

 いきなりそんなことを聞いてきいたので反応に困る。

 いや、確か前どっかの記事でそんなことを取り上げていた気が……? 

 「……珍しい精神的障害の持ち主をさす言葉でしたっけ。反社会的な」

 「うむ、ではそれに当てはまる人をどうやって見分けると思う?」

 博士はpcのモニタを閉じて腕を組み、にやけ顔でこちらを伺った。

 「他人に対する感情で見分けるとかですか? 確か良心が無いとか聞いた事あるんですが」

 「うむ、実は見分ける方法なんてないんだよ。なぜなら社交性がある、それによく感情がないってか言われているけど、当の本人は自覚しているから感情豊かに振舞うって知っていたかい? それで他人と同じ様にと装っているから見分けるのはほぼ不可能、なんだよね。だからサイコパスが絡んだ事件はいつ身の回りに起きても不思議じゃあないんだよ? まあ事件の犯人がそれかは分からないけれどね」

 そう博士が話を切り上げると、嵐が過ぎ去っていった後のように部屋は静寂に包まれる。

 彼との話はいつもこんな感じだ。

 博士が突然幼い子供のように話を吹っかけてきて、僕が無理矢理返答する。そしてその後会話に飽きたのかさっきみたいに切り上げる。

 因みに話の内容は……自慢げに語っているが、犯人さえ捕まえてくれれば正直どうでもいいわけだ。




 その後20分くらいツイッターを見て、帰宅する。

 さっき通りかかった公園の時計は6時を指していた。日の暮れた秋の大気は容赦なく肌に突き刺さる。

 古びたアパートのドアの前まで来ると、逃げるように鍵を差し込み室内へ入った。 

 


 ひとまず自分の狭い部屋に入るが、この時部屋の電気は付けてはならない。趣味のオカルトネタを最大限に楽しむためだ(臨場感があるから)。

 次に暖房をつける。部屋が冷えていれば手がかじかんでpcのキーボードも打てないからね。

 最後にいつも持ち歩いているノートpcとヘッドホンを装備して、家にため込んである携帯食を口に押し込んだ。



 オカルトネタがSNS上で流行しだしたのは数か月前からだ。

 今では『オカルト』ハッシュタグのついたツイートは毎秒物凄い数が投稿されて、ツイッターでトレンドをほぼその類のネタが占領してるってわけなんだけど。

 そして、そのツイートを漁って面白そうなのがあったら詳しく調べてみる。これが今のマイブームだ。

 ―――ひとまずキーワードを陰謀論で検索してみるといかにもな内容のツイートがモニタに表示された。

 スクロールしていくと、災害兵器やAI、宇宙科学、裏組織とかのハッシュタグが付いたツイートが目立つ。

 ……なんかイマイチピンとこない話題ばっかりだ。

 いや、オカルトだから仕方ないんだけどね。信憑性に欠けるっていうのがこの『陰謀論』ネタにはつきものだし。

 沢山の嘘っぱちの情報からレア、と言うかリアルっぽいのを探すのが僕の中のオカルトマニアってものだし。

 まあ、僕はこの空前のオカルトブームに乗っかったにわかなんですけどね。

 と、スクロールしていると、画像付きのツイートが目に留まる。

 


 文字制限により画像にまで文字が続いている。

 「ん、この画像どっかで見た……? ような様な気がするんだけど」

 なになに? 内容は……『東北海原子力発電所の作業員とみられる男性が、カメラに向かって何かを訴えかけている動画が、二年前に動画投稿サイトにアップされた。だがその動画には音声が入っておらず何を訴えていたかが全く分からない。これをマスコミは原子力発電所内の清掃作業に不満があり、それを世間に訴えかけようとした、と報道した。その後、動画は運営側から何の前触れもなく削除され、瞬く間にこの話題は忘れ去られたが、私は政府などの大きな力が関わっていて何らかの圧力があったのでは、と読んでいる』。

 あ、確かに! 某動画投稿サイトで昔話題になってた動画だ。

 ニュース番組が取り上げた後から結構話題になったんだっけ。

 しかも運営側からアカウントごと突然削除されたから、陰謀論がかなり騒がれてたんだよね。

 確か、他にも亡霊説とか潜入諜報員説、未来人・宇宙人の警告説とかまであった気がする。

 でも、あんなに当時騒がれていたのに僕もすっかり忘れてたよ。オカルトマニアとして恥ずかしい……

 


 そんな事を思っていたら、メッセージを受け取ったと通知が来た。

 新規メッセージはネット上で知り合ったオカルトマニアの集まりであるトークグループだった。

 つまりこのトークグルも僕の情報源ってわけ。

 「えーと、『例の動画投稿サイトに面白い物がランクインしてるWWW』か。んー、UFOとかかな? 心霊映像なら大歓迎なわけだけど」

 ご親切にURLが貼っつけてあったから、とりあえずクリックしてみる。

 すると画面には、真っ黒いサムネイルの動画が表示される。

 


 タイトルは『かなりヤバめの動画を見つけた件』って。うん、タイトルに『ヤバい』とかあるのって大抵しょうもない内容な事が多いんですが……

 「というか、こういうのって良く動画投稿者が使う『重大発表』って言っときながら、凄くどうでもいい事報告するタイトル詐欺と同じだと思うんだよね」

 そんな言葉をこぼしながら、でも、やっぱり好奇心に任せて僕はマウスカーソルを再生ボタンに運んだ。


 

 ――――そしていつもの様に左クリックをした。

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