01 関風空透は繰り返す 02 調紅葉は変化を目にする
『01_関風 空透は繰り返す』 2016/10/7
「東京湾の埋め立て地の巨大な電波塔って知りませんか?」
僕は改札から出て来た紺色のコートを羽織った男に尋ねる。
するとその男は数秒くらい悩んでからこう答える。
「いや、東京湾には電波塔はないと思うけど。聞いた事もないし」
「そうですか……ありがとうございます」
そう僕がお礼を言うと、その男は「ああ」と返答して歩き去って行く。
……もう同じ質問を何十回もしているんだけど、全て同じ答えが返ってきた。
右手に握っている銀色のカウンターを除くと、『99』と表示されている。
同じ事を100回も繰り返すのは今日で初めてだ。
ここ浅浜の高層ビル街の会社員は仕事への熱意のあまり、東京湾の埋め立て地に堂々と建つ≪電波塔≫に気付いてないのかな?
港区の新橋駅の壁にもたれて、通勤ラッシュで改札を出入りする人を眺めながら、脳内で疑問を投げかける。
いや、そんな事はあり得ないはず。
あんな不気味なオーラを放つ巨大な電波塔を無視するなんて、普通なら絶対に無理だ。
それに辺り一帯の高層ビルが勤め口なら、嫌でもガラス窓から目に付くはずだし。
じゃあ僕が幻覚を見ているのか?―――それもあり得ない。確証はないけど……
そうやって頭の中で自問自答を繰り返していると、横からカツカツと足音がしてくる。
「助手君。聞き込み調査は終わったのかな?」
真横から高い男の声で上機嫌に僕を助手君と呼ぶ。
「終わりましたが……博士、結果は全てダメでしたよ」
横に目をやると、僕が博士と呼んでいる(呼ばされている)中背の男がいた。
博士は僕がそう言うのを分かっていたように頷く。
「私も中央区で聞き込みをしたが、結果は『知らない』だったよ。そうなると……」
博士は芝居を効かせて羽織っている白衣をなびかせる様に腕を組む。
―――と同時にポケットから紙切れのような物が一枚落ちる。
「ん?博士、何かポケットから落ちましたよ?」
拾い上げると、それは紙切れじゃなくて長方形の厚紙……じゃなくて名刺?
内容はと言うと『超常現象研究所 所長 倉敷 迅』って博士の本名が表記されてて……って、え?
まさか、博士はこの名刺を使って超常現象研究家と自信満々で語るのか……?
そう悟り、この名刺を差し出された時の相手の顔を思い浮かべると……冷汗が止まらない。
「あの、博士、これ使うんですか……?」
僕が博士にその名刺を渡しながら聞くと、ドヤ顔で返してくる。
「ウム、社会人のマナーだからね。あ、心配しなくてもちゃんと助手君のも作っといたから」
博士はポケットから名刺をつかみ取り、僕に見せつける。
『超常現象研究所 研究員 関風 空透』って書いているけど、一生涯それを使うことはないと思うから、後で燃やそう。
……それに博士、社会人のマナーも大事ですが、一般の人この名刺を差し出した瞬間、不審な目で見られるのは確定ですよ……
確かに今オカルトブームの波で幽霊とか魔法とかよく言われてますが……
いくらオカルトブームだからって、騒いでるのは中高生か一部のオカルトマニアですから。
そう心の中で唱えた後、ため息をつく。
「で、そうなると、何なんですか?」
僕がさっきの話の続きを催促すると、博士はニヤリと微笑み口を開く。
* * *
『02_調 紅葉は変化を目にする』 2016/10/7
薄暗い部屋でpcのモニタの光が私の顔を青白く照らす。
亜麻色のカーテンで閉め切られたその部屋には光は一切入らず、光源はこのモニタだけ。
はたから見れば、マジの引きこもり少女に見えるような、そんな空間。
そこで私、調紅葉はいつも使っている検索エンジンのホームページを開く。
次に、入力バーをクリックしてそこに、『掲示板ポータル』と入力する。
すると検索結果の一番上に『自由掲示板ポータル』という表示が映る。
私が一年前に使い始めたマイナーな掲示板だ。
まあここ一ヶ月ツイッターやってて、全く来てなかったんだけどね。
私はそのサイトの表示文字をクリックする。
画面に縦並びにスレッドタイトルが表示され、私はマウスのホイールを中指で素早く手前に回した。
そうして、興味のあるを探しているところなんだけど……
「殆どが嫌韓嫌中のタイトルっていう件について……」
まあ確かに、最近歴史認識の違いとかで周辺国とはもめていたけど、明らかに殆どのそれが偏見と差別ていった感じで。
一体どれ程現代社会の日本人はストレスを抱えているのか……やれやれ。
一ヶ月前まではもっとまともなスレが多かったけど、今では、目の前のモニタに写っているタイトルを見る限り、もうその面影は全く無い。
試しに一際偏見が酷いタイトルをクリックしてみたんだけど、下にスクロールをするとそのタイトルよりも、更に人間性を疑うコメントが現れる。
……どうしてここまで理性を疑っちゃう、低レベルの書き込みが出来るのかなあ。
一瞬ネトウヨ系掲示板と見間違えるほどの思考回路の低さが窺えたけど、まさか社会人が書き込みをしているのかな……?
いやいやいや、こんなゴミみたいな書き込みを二十過ぎた人がするわけない!
そう、これらのコメントは30過ぎた右翼ドウテイニートがしたもの! ……と信じたい。
思考を停止してモニタの左上の戻る、をクリックした。
またさっきのタイトルが縦並びする画面に戻ったんだけど、折角のレスのやる気も失せちゃったよ……
と、私は右上の×印を押して閉じようと思った矢先、あるタイトルが目にまった。
そのタイトルによく目を通すと、そこには。
『NASA災害兵器を打ち上げる』
今ツイッターで祭り状態のオカルトネタだった。
そのオカルトスレッドは他の民度の低い書き込みの中に、ポツンとたった11コメントで点在している。
私はあまりにも他のがゴミ過ぎるから相乗効果? で自然とそれに引き込まれて、クリックしてみたんだけど。
1 名前:本当にあった怖い名無し
9月30日にアメリカ航空宇宙局NASAが観測衛星をケネディ宇宙センターで打ち上げる。
既にNASAの公式発表では、電磁波を利用し空間の織物の情報を取得するのを目的とした観測衛星としての運用と発言。
だが実際打ち上げられたのは人工衛星と称された災害兵器であり、その衛星に搭載された電磁波照射置による、地層や岩盤への強力な電磁波の照射こそが真の目的である。
地層や岩盤に強力な電磁波を照射する事により、人工的に地震を起こす事は既に可能だ。
大震災が起き甚大な被害が出る前に、我々はこれを阻止しなければならない。
2 名前:本当にあった怖い名無し
糖質か
3 名前:本当にあった怖い名無し
また3.11のような人工地震が起こる
イルミナティは常に日本を監視している
その証拠に日本はイルミナティが建国したアメリカの言いなりになっている
4 名前:本当にあった怖い名無し
>>3
陰謀論者馬鹿すぎwwwwwwwww
どうせ9.11は自作自演だったとか普段からほざいてんだろ?www
5 名前:本当にあった怖い名無し
ワレワレハオマエタチヲカンシシテイル
6 名前:本当にあった怖い名無し
確かhaarpも電磁波で人工地震起こしてるとか聞いた
7 名前:本当にあった怖い名無し
>>6
ハープって少し前バラエティー番組に出て来てたやつだろ?
8 名前:本当にあった怖い名無し
haarpはアメリカのオーロラ観測器だし地震起こすほどの電磁波は照射は無理
9 名前:本当にあった怖い名無し
陰謀論なんて妄想癖の奴が考えたただの幻想
電磁波なんかで地震とかの災害は起こせないでFA
10 名前:本当にあった怖い名無し
惲I#・Zコツ1$遐ヌTラ4・唖$・ラ? アクキW,カイdユッ・ニ
11 名前:本当にあった怖い名無し
>>9
海底で核爆発を起こせば地震も津波も起こせる
たった11レス……オカルトブームなツイッターとは違ってほとんど相手にされてないっていうね……
しかも、結構オカルト否定派のが多いのね。ってあれ?
11番のレスが文字化けしてる。
なんて書き込んだんだろう。否定的なコメントかな?
―――なんとなく気になるし解読してみよっかな……
いや、でも前にどこかの掲示板で『文字化けしたコメント直したら呪殺ってめっちゃかかれてたんだが』とか言うのがあったから……やっぱやめよっかな……
とそんなことを考えているうちに、私の指は好奇心という本能によって、その文字化けをコピーし解読サイトを検索に掛けていた。
そのサイトをクリックすると殺風景なページに切り替わる。
でもなんか、解読って無性にわくわくするよね。〝解読〟って言葉の響き的な事かもしれないけど。
まるでハッカーになった気分ていうか……
私は一ミリも知らぬハッカーと言う言葉を頭の中で想像する。
出てきたのは数年前にテレビで放送された、秋葉原が舞台のタイムトラベルアニメの、スーパーハッカーだった……
と言うところで、自分があほに思えてきたのでその想像を止める。
確かにあのゲームは面白かったし、アニメなんて毎週放送された話を5回は繰り返して観ていた程好きなSf作品だったし。
だけどこんな、たかがレスの文字化け解読で、舞い上がっている自分が酷く恥ずかしくてたまらないんですが……
もうさっさと解読してしまおうと、入力欄にさっきっコピーしたのを貼り付ける。
そして私はデコードと記入されたボタンをクリックした。