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00 仮面の女は語り掛ける

 

 『仮面の女は語り掛ける』 ―――――/―――/――



 「突然ですがあなたは、黒魔術って知ってますか?」

 全面コンクリートの薄暗い部屋に若い女の声が響く。

 それは真ん中で縦に白と黒に分かれた猫の仮面をつけて、暗い照明の光ががそれに当たり反射する。

 仮面の女は三脚付きの黒いビデオカメラに向かい、後ろのコンクリートの壁にもたれて、続けて言う。

 「最近、インターネットの広告によく乗ってる奴ですよ。まあ、その広告を見てもらったら分かるんですが、黒魔術に使う道具とかアクセサリーを通販で売ってるんですよ。そしてその広告をクリックしたら、如何にもなサイトが出て来るんですよ。どうです?あなたはどう思います?こういうの興味ありますか?」

 仮面の女はもたれていた背中をコンクリートの壁から離す。

 そしてビデオカメラにまっすぐ向けていた顔を少し下げ、仮面の女はおもむろに腕を組んで淡々と話を続ける。



 「残念ながら、こういうオカルト的な事を言うと、馬鹿にされてしまうのがほとんどです。まあ仕方がないのでしょう。黒魔術とは、科学の力で文明を築いてきた人間を全否定する魔法・魔術・呪いの内の一つなのですから。そして、この黒魔術を信じるという行為は、私たちの世界を否定する事と同じです。なぜ世界を否定する事になるのか。それは今の私たちの世界が、今までの歴史によって成り立っているからです。そしてその歴史とは、常に科学とともに前へ進んできたからです」

 そこまで言って、仮面の女は落ち着けるように少し肩を脱力させる。

 そして次の言葉はさっきの話よりも、はっきりとした口調で言う。



 「と、このように専門知識の上で話さずとも、黒魔術などのオカルトを簡単に否定する事が出来ます。ですがこれも残念なことに、科学とは未だこの世界を3%しか解明できていません。そう考えたら、科学って本当にちっぽけだって思えてきませんか?確実にその3%で黒魔術……オカルトは存在しない、と言い切れますか?……少し話がそれてしまいましたね。ですから、その広告をもし、ひまっだったら少しだけでも覗いてみてください。もしかしたら、それを駆使して願い事を叶えられるかもしれませんよ?」

 


 仮面の女は一通り喋り終え、ビデオカメラを止めるために録画ボタンに手を伸ばす。

 その時に、仮面の女は囁き声とも呼べる声量でつぶやく。


 『あなた達には――――』


 仮面の女が言い終わる前に、ビデオカメラの録画が切れた。

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