休日
ヂリリリリリ......
「ん?、朝か」
昨日は試験を行なった日。今日には結果が決まり、合格なら明日から高校生活だ。
「リヒト〜、ご飯よ」
「はーーい、今行く」
7時か、昨日の夜も食べたけど、母の料理はやはり最高だ。イシュタルトの料理も不味くはないけど...母の料理には劣る。
「母さん、今日は俺の、外に出かけてくる」
「わかったわ、昼食はどするの?」
「昼食は食べてくる。でも、夕飯前には帰ってくるつもり」
「わかったわ。気をつけてね」
「はーい」
...よし、朝ごはんも食べたし出かけるか。
...やっぱり2年ぶりに見てみると街並みが少し変わってるな。最近は研究者たちが異世界に行く方法を考えてるってニュースでも、やってたし少しづつ町が便利になっていくのかな。
まぁでも、妖精女王ユルグルの【転移】以外で異世界に行くなんて正直言って出来るとは思えない。
プゥーーーーーーー
ん?なんだこのサイレンは、始めて聞いたな。
「おい、聞いたか。向うのデパートで魔物が現れたって」
「嘘だろ!!それって結構ヤバくね」
「今、勇者がデパートに向かっているらしいぞ」
「ホントか!?。それなら安心だ」
「あぁ、兎に角デパートから離れようぜ」
「そうだな」
隣で2人組の青年が喋っていた。
...なるほど、魔物か.....そう言えば、この世界に紛れ込んでくる魔物ってどんな魔物なんだろう...。
これ程、騒ぎを起こしているという事は、クラーケンやグリフォン位のレベルかな...こっそり行って見るか。
オルトロスの異能【限界突破】で走れば意外と早くに着いたな。
デパートに着くと。既に一般人の避難は完了しており勇者も現場に到着していた。
「今思えば異能も魔物も俺の配下が俺を探しにきたことが原因なんだよな。なんか申し訳なくなってきた。」
リヒトが独り言を小さな声で言っていると...
「まぁ確かにそうですけど...我々が来なくともいずれは、魔物がやってきましたよ」
「へ?」
リヒトが振り返るとそこにはアイリスがいた。
「うわぁ、ビックリした。いつからいたんだよ」
「先ほどです。主様と会えなくて寂しかったです」
たった数日でこれだ。まぁ、今はそんな事よりも...
「お前らが来なくても、この世界に魔物たちはやって来たのか?」
「はい、【転移】異能は確かに希少性が高いですけど、使い手は少なからずいますしね。特に、ユルグルと同じ妖精族には【転移】の異能を使えるものがいます」
「でもさ、ユルグル位に異能の能力が高くて始めて次元を渡ることができるだろ。【転移】を持っているからって、世界間を渡るなんて不可能だろ」
「確かに個人では不可能でしょう。しかし、異能を重ね効力を上げれば不可能ではありません。私の予想では【転移】の異能を持つ妖精族250名程でこちらの世界に来ることができます。妖精族は自由を愛する種族なので、いずれこちらの世界にも来ると思われます」
「へぇーーそうなのか。...てか、妖精族250名分の異能を1人で使いこなしていたのか。逆に驚いたよ」
2人で会話していると窓ガラスが割れ勇者がそこから吹っ飛んできた。
「マジか、どんだけ強い魔物だよ」
「主様、いざという時は私が盾になります」
「はぁ~、いつも言っているだろ。守ってくれることは嬉しいが命がけでしなくていい」
「で、ですが...」
そう言っていると割れた窓ガラスから魔物が現れた。どうやら勇者を追ってきたようだ。
ヤバいな...まぁ天災の存在が俺の横にいるし冷静になれば問題ないか...
「主様、きます!!」
「あぁ...て、おい何だよアイツ」
「....オーガキングですね」
「いや...アイツはきっとオーガキングの姿をした別の魔物だ」
「なるほど、その可能性はありますね。でなければ、あの雑魚に苦戦するなんてありえませんもの」
そう2人で必死に思い込もうとするが...
「クソ..オーガキングめ」勇者がそう言った。
「「..........」」
「あ、主様」
「言うな」
まさか、オーガより少し強いオーガキングに苦戦しているだなんて...はぁ、くだらん茶番だったな。もういいや。
「アイリス、倒してあげて。俺は、まだ街を見たいし」
「かしこまりました」
次はどこに行こうかな...中学校に行ってみるか。葵先生にも戻って来たこ報告しときたいし。
* * * *
主様と折角デートできると思ったのに。
アイリスがそんな事を思っていると....
「おい君、逃げたまえ。ここは危険だ。私が時間を稼ぐその間に」
何を言っているのかしら。この程度の魔物に逃げろだなんて...
そう思うとアイリスは前に出てきて右手をそっと前に出した。
すると、オーガキングは吹っ飛んだ。
「グワァ―――」
悲痛な叫び声が響く。
ちょっと押したぐらいで大袈裟な魔物だわ。
「もういいわ、死になさい」
そう言うと今度はオーガキングのお腹に穴が空いた。
ふぅ、終わったわね。さぁ早く主様の元に戻らなくては...
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「はい?何か用ですか」
「君は一体何者なんだ...」
「何が言いたいのですか?」
「とぼけないで下さい。あれ程の魔物を一瞬で倒すなんて普通できるわけがない」
はぁ、早く主様の元に行きたいのに..
「貴方のお陰で既に、あの魔物は弱っていました。私は止めを刺したにすぎません」
オーガキングは、ほぼ無傷だったし苦しい言い訳かしら...
「なるほど..それならば納得できる」
「.....」
アイリスは少し...いやかなり呆れていた。しかし、これは好都合だ。
「流石は勇者様です。では、私はこれで...」
これ以上ないくらいの笑みを見せアイリスはその場を立ち去った。
「ちょっと待ってくれ。まだ、話は終わっていな」
しかし、アイリスは歩みを止めなかった。追いかけようとする勇者だったが怪我をしており満足に動くことが出来なかった。
* * * *
1人残された勇者は先ほどのアイリスの笑顔を思い出していた。
「....美しい..」
そう言った勇者の顔は紅くなっていた。
「おい、高御堂..無事か?」
そう、先ほどオークキングと戦っていた勇者は高御堂だった。
「先輩...怪我はしましたが無事です」
「遅れてすまない。...っておい、これってオーガキングじゃないか」
「そうですけど...」
だからどうしたんですか?と言わんばかりの表情の高御堂。
「お前、知らないのか?オーガキングはSSランクの異能を持つ勇者と同等の魔物だぞ」
「へ?」
「だからSSランクの異能を持つ勇者と同等の魔物だって」
高御堂はあの魔物がオーガキングであることは知っていたが、そこまでの危険度の魔物とは知らなかったのだ。
「う、嘘ですよね。だったら何で自分はオーガキングを倒せたんでしょうか?」
「そりゃあ、お前の【身体強化】が実はSランク異能ではなくSSランクの異能だったんだろう」
「SSランク!!」
高御堂はめちゃくちゃ驚いていた。それもそのはず、SランクとSSランクとは天と地ほど差がありSSランクの勇者は世界に27人しかいない。
それ程凄い存在に自分がなったと思うと高御堂は興奮する。
「も、もしかして九魔王に勝てるかも..」
調子に乗っていた高御堂がつぶやいた。
「ん?何か言ったか?」
「いえ、なんでもありません」
「そうか...。そう言えば明日からまた学校だったな。学校生活は楽しいか?」
「ん~どうでしょう。友人と喋ることは楽しいのですが。異能のレベルはやはり低いです」
「それは仕方のないことだろ」
「まぁそうなんですけど...」
「それは兎も角、緊急時以外では勇者であることは隠せよ」
「わかってますよ。先輩」
「あっ、そうだ今度の土曜日に支部長から報告があるらしいから支部に集合だとよ」
「了解です」
「それじゃあ、お前は支部に行って手当してもらえ」
勇者の働いている支部には普通の病院よりも治療が優れている。何故なら治癒の異能を持つ勇者が沢山いるからだ。
先輩勇者に言われ高御堂は支部に向かった。
1人現場に残った先輩勇者...表情は険しいものになっていた。
「ん?まてよ...これって本当に高御堂が倒したのか?」
オーガキングは腹に穴が空いて死んでいる。
確かに高御堂の【身体強化】異能での強力なパンチ力なら可能だ。しかし、高御堂の【身体強化】での強みはスピードだ。
オーガキングの身体に穴を空けるなんて不可能なはず...
「これは、高御堂を問い詰める必要がありそうだな」
先輩勇者は1人そう思っていた。