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第12話    残るには用事が足りない

 ”神掌”の後ろ側をくぐるように出たところで、ロッゾがサイロンにそっと話しかけた。



「あのよォ、この空気、アレだからよォ。


俺、ここに残るわ。 司祭様も残れよ。」



「すみません、僕も残ろうと思ってました・・・。」



 そして、2人は顔を見合わせる。



「悪気はないんだろうが、トドメ刺すことはないよなァ・・・。」


「刺したことにも気づいてないでしょうね、マリオさん・・・。」




「フォローするとは思えねェが、何かしらあることを祈ろう。」



「どちらに転んでも、今日は帰りたくないです・・・。」



 2人はうなずき合って、後ろから出てきたマリオにちょうど床に立たせてもらったところの鈴谷の前に立ちはだかった。


 鈴谷が正面から2人を見る。



「神様ァ! 俺は傀儡師としてッ!! 細部の確認をォ!! 急ぎ行わなければッ!! ならない!!」


 ロッゾがなぜか叫ぶ。



「すみません! 僕も司祭としてッ!! 明日からのォ!! ご説明を!! したいと思いますッ!!」


 サイロンもなぜか叫ぶ。


 2人はそれぞれ鈴谷の肩に手を、バシィンと打ち付けるように置いた。



「だからァ!! 神様ァ!! 俺はここにッ!! 残らなければッ!! ならない!!」


 不思議な笑顔でロッゾが叫ぶ。


 気持ち恐怖を感じる鈴谷。



「あ、あーッ!! だからァ!! 僕もここにッ!! 残らなければッ!! なりません!!」


 気持ちの微塵もなさそうな笑顔でサイロンが叫ぶ。


 不思議な恐怖を感じる鈴谷。



「んッんー! 夜が遅いってェのに!! 女の子一人で帰すのはァ!! いかがなものかッ!!」


「すみません!! 僕も帰れれば!! ああッ!! これは困ったなッ!! とても!!」



 2人の不思議な叫びあいに、ロッテが静かな声で言った。



「んー・・。 アタシも残ろっか?」





 鈴谷の目の前の2人は、何か力いっぱい悔しそうな顔で天を仰ぐ。




(なるほど、ロッテさんとマリオさんを――――――)


 何かを察する鈴谷。 顔も向けず、マリオの尻を叩く。




「何かありましたか?」






 何か力いっぱい悔しそうな感じで地に顔を向ける、2人と鈴谷。







「んッんー! 夜が遅いってェのに!! 女の子一人で帰すのはァ!! いかがなものかッ!!」


「すみません!! 僕も帰れれば!! ああッ!! これは困ったなッ!! とても!!」



 まるで先程のことが無かったかのように、平然と繰り返す2人。


 鈴谷がマリオのケツを叩く。



「ん、だから残ろっかって。」


「何でしょうか、少し痛いのですが。」







 力いっぱい天と地を往復する3つの顔。










「んッんんァあああッッ! 夜がァァア遅いってェのにィィイイッッ!! 女のォォオ子ォオオ一人でェェェエエ帰すのはァアアアんんッッ!! いィィィイかがなァものかァァァアアアッッッ!!」


「すぅううみませぇぇぇええんッッ!! 僕もぉぉお帰れれれれれれぇぇぇええばぁああッッ!! うるぁぁああああッ!! これはぁあああ困ったぬぅぅううあああああんんッッ!! とぅううううおぅううてぇぇええええむぅぅおおおおッッ!!」



 まるで先程のことが無かったかのように、力いっぱい繰り返す2人。


 鈴谷がマリオのケツを殴る。



「はー? 残るって言ってるし。」


「いや、そうか。


私が送って行こう。」



 マリオが尻をさすりながら言う。



 小さくガッツポーズをとる鈴谷と2人。





「え・・・そんな、悪いですマリオさん。」



 ガッツポーズが解かれ、指をわなわなと震わせる2人と鈴谷。



「そうか。」


 それだけ言うマリオ。


 やたら床を踏みしめる鈴谷と2人。



「それに、アタシも、残りますし。」



「そう・・・かッッ!?」


 2人と鈴谷に迫力のある顔を向けられて、たじろぐマリオ。



「いや!? やはり送って行こう!?」



「そんな、悪いです・・・。」



「そんなことはない! 一刻も早く私が送って行こう!」



「・・・それに、今は・・・。


ちょっと、一人に、なりたいかなって・・・。」



「そうか。



いや!? 夜道は危険だ!? 今既に、何か危ない!?」



「そんな、やっぱり悪いです・・・。」


「そんなことはない! 何か危険だ! 私に送って行かせてくれ!!」



「そんなに、心配してくれるのでしたら・・・。」


「ああ危険が心配だ!! ここで送って行かなければ取り返しのつかないことになってしまうようだ!!」



「ええと、それじゃお願いします。」


「しっかりと送らせてもらおう!! 私が!! 夜道に気を付けなくてよいように!!」






 鈴谷の無言の圧力と2人の表情筋の出しうる全てを余すところなく使った威圧により、マリオはたじたじになりながらも、ロッテを守るように建屋の扉へ急ぐ。


「じゃ、先に帰るね。


・・・神様、またね。」



 鈴谷は満面の笑顔で手を振る2人を従えて、頷いてみせる。


 マリオとロッテは軽く会釈し、扉から出て行った。







 しばらく出て行った扉に手を振り続けた2人が、どちらからともなく脱力し座り込む。


「「はぁぁああ~~~。」」



 慰労の気持ちを込めて2人の肩に手を置く鈴谷。



「そもそも、なんでこんな気を使わなきゃならねェんだよォ。


変なこと言い出したの自分だろォに。」



「すみません、神様のことを気に入っているようでしたからね・・・。



ここについてきた手前、引くに引けなかったんじゃないかと思うんですが。」


「それにしたってオメー、神の声が聞こえるはないだろうよ?」



(いえ・・・、本当に意思が通じていたのではないかと思うのですが。)


「そうですよね、戦士として神力が他よりちょっと使えるからって、そんな簡単にはいかないですよね。」



 2人の気を抜いたようにへらへら話している内容を、鈴谷は疑問に思うが特に異論を挟むようなことはしなかった。



(ロッゾさんとサイロンさんは信じてなさそうですから、言っても仕方ないですものね。


そもそも、自分から言えないですし。)



「おう、神様もあんがとなァ。


巻き込んじまったようだが、まぁ、先に出た2人もあと少ししたら小道に入るだろうし、そうしたら帰ればいいぜ。」



「え、すみません、帰るんですか?」



「当たり前だろォ、こちとら連日徹夜に近いんだ、クタクタよォ。」



「いや、でも、細部のチェックが必要だから残ったんですよね!?」



 サイロンの質問にロッゾは少し考えたあと、ああ、と思い当たったように口を開いた。


「あんなのテキトーに言っただけだぜェ?」



「ええ!?」



「んなチェックなんて、そもそも何するんだよォ。


俺の仕事だぜェ、問題あるわけねェし、問題あったらすぐ気づくっての。



ま、何かあったらすぐ来るし、心配いらねェぜ。


今日は宿戻ってメシ食って寝るわ。 髭もいいかげん何とかしたいしよ。」


 ロッゾは大きく伸びをしながら言った。 ドワーフの彼は体を目一杯ストレッチしても、サイロンの肩に届くかどうかといったところだ。 今の鈴谷よりも、手足がどうやら少し短いのだろう。



「すみません、そうしたら、僕はどうしたらいいでしょうか?」


 サイロンがおろおろして言う。



「あァ?」


「いえ、あのですね、今このタイミングで家に帰ると、ロッテと鉢合わせしちゃうわけでして。


ロッゾさんの細部確認と、僕の明日からの説明が終わるには・・・、



まだ早すぎるんじゃないかな・・・と・・・。」



「あー・・・。


なら、草葉の大通り亭で一緒にメシにするか?


俺の宿あそこの2階だしよ。」



「いえ、それもどうかと・・・。」


「いや、そうするぞ。


早く髭を何とかしてェんだ俺は。」



「ええー・・・。」


「大丈夫だ、場所変えただけってことにすればいい。


何なら神様連れてきちまえよ、そうすりゃ問題ないだろォ?」



「いえ、家に帰れば食事の用意があると思うので・・・。」


「草葉の大通り亭で、細部のチェックと明日からの打ち合わせだ、決まりだ!


早く髭を何とかせにゃいかん!



ほら、出る準備するぞ、向こう側を片付けろ司祭様。」


 話も聞かずにロッゾが立ち上がり、蝋燭台をもって歩き出した。



「ええー・・・。


すみません神様・・・、何だかそんな感じなので、今片づけてきますので・・・。」


 サイロンが諦めたように、壁にかかっている長い棒を持ち出した。 先に鉤状になった金属が嵌っている。



「扉のあたりでお待ちください。 灯り消してまいりますので。」


 言うなり、近くの壁の蝋燭台に、長い棒の鉤を押し当てて火を消した。 この作業をぐるりと壁沿いに一人で回ってくるようだ。



(なるほど、灯りをつけるのも消すのも、そのようにしているのですね。)


 などと鈴谷は思いながら、先ほどロッテとマリオが出て行った扉に向かう。 先ほど跳ねた時に掴んだ要領で、つま先立ちに近い形でぴょこぴょこ歩く。 これならば一人でも移動ができそうだ。



(何とも、色々と分からないことが多いですが、少しずつ覚えていきましょう。


歩き方も、ここのことも。 皆さんのことも。 神様と呼ばれているようですから、悪いようにはされないでしょうし。)



 ぴょこぴょこ歩きでこの先に向かう鈴谷は、この後さらに怒涛の混乱に巻き込まれることをまだ知らない。

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