第11話 起動には説明が足りない
(あの何かは、ロッテさんの質問に反応していました・・・。
この体になる前に語りかけてきた意識と同じものだとすれば、一緒にこちらに来ているのでしょうか?)
鈴谷はロッテを見ながらそんなことを考える。
”神掌”の中心で、4名に見られながら。
(いや、この”神掌”の台座が、何かのカギになっていたのでしょうね。
優先権がどうのこうの、あたりまでは認識できましたが・・・。 あの後の何かが流れ込んでくる衝撃は、もう・・・。)
思い出そうとするだけで吐き気がする、光の圧迫感。
(いったい何がおきたのだか・・・。)
ぐったりと前のめりに、孔雀に体を預けてみる。
(いろいろありすぎて疲れます・・・。)
「おィ、大丈夫だったんじゃねェのか・・・? どこか悪いのか?」
ロッゾが注意深く鈴谷に声をかけた。
慌てて鈴谷は体を起こし、首を横に振って見せる。
(ああ、大丈夫ですよ! ちょっと気を抜いてしまっただけですから。)
「あ。」
「・・・すみません、今度は何ともありませんか?」
ロッゾとサイロンの不思議なリアクションに戸惑う鈴谷。
(え、と、なんでしょうか――――――あ。)
鈴谷にも2人の間抜けな顔の理由が心当たった。 体を起こす際に思わず掴んでいた取っ手。
孔雀の咥える巻物を、また両手でつかんでいたのだ。
しかし、一瞬はしっかりと握ったのにもかかわらず、先ほどの衝撃はもうなかった。
(いやぁ、気を抜きすぎていましたね。 危ない危ない。)
何事もないことにホッとしながら、添えるだけにしていた手を離す。
「おォ、だ、大丈夫なんだな?」
「ちょ、気を付けてよ神様ー。 危ないよー。」
ばつが悪いような思いで、ロッテとロッゾに頷く鈴谷。
「よし、大丈夫なら・・・、サイロン、”指”は右手だったよな?」
「すみません、そのはずですが・・・。」
「よし・・・。
神様よォ、右側だけ掴んで”指”動かしてみようや。 この羽飾りみたいなのがそこから使える”指”になってるからよ。
神様なら、神力ほとんどなくても動かせるはずだ。」
なにかロッゾが指示してきたが、何のことかわからない鈴谷。
(”指”? 右側だけ掴んだらいいのですか?)
とりあえずはいの精神で、右側だけ掴んでみる。
(それで、羽飾りが”指”になっている・・・でしたね?)
右手をしっかり掴んでいるので、自然と孔雀の左側後方の羽飾りを見る。
確かにひときわ大きい羽飾りがいくつかあったが、指のように動く気配はない。
(”指”は右手の指で何か操作するんでしょうか?
・・・一向に動く気配がないですが、分かりやすい説明書みたいのないですかね・・・。
もうちょっと、詳しくやり方を教えてくださいよ。)
<【指の操作方法】について情報の開示要求を行います・・・チェック。>
<【指の操作方法】について情報の開示要求の返答あり・・・チェック。>
<【指の操作方法】について。 ――――――それぞれ専用の起動式を書いた媒体を用意し、コマンドの入力を行うことで操作が可能。>
(おおッ!? 何かがまたきた――――――操作方法を調べてくれた、のでしょうか。)
それぞれ専用のそれぞれ専用の起動式を書いた媒体を用意し、コマンドの入力。
何のことだかさっぱりだが、何かが丁寧に教えてくれようとしたのは分かる。
(ええと、なんとかして媒体にコマンド入力するんですね・・・。
よく分からないんですが、できるんでしょうか?)
<指の操作希望を確認しました。>
<起動式に必要な力を保有している力から行使しますか?>
(え、できちゃう、感じですか?)
<起動式に必要な力を測定します・・・チェック。>
<起動式に必要な力を測定しました。>
<起動式に必要な力は保有している力で賄うことが可能です。>
<起動式に必要な力を保有している力から行使しますか?>
(・・・できちゃう感じですね。
なんだかよく分かりませんが、ありがとうございます、是非やってください。)
<力の行使許可を受諾しました。>
<起動式に必要な力を保有している力から行使します・・・チェック。>
<式の起動を確認しました。>
「おォ、なんだか時間かかったけど、できたじゃねェか。」
孔雀の羽のうち、ひときわ大きい5枚が淡く青白い光を放っている。
「これでとりあえずは”指”が使えるなァ。
同じ要領で左側掴めば”神掌”が使えるわけだが、時間かかってたし今回はやめとこうか。」
ロッゾがため息をつきながら、そんなことを言った。
そのまま、マリオの方へ行き、蝋燭台を受け取る。
「”指”より負担が大きいですからね、その様子では同時行使は難しいでしょう・・・。
すみません、こんなに無力な神だとは思ってもみませんでした。」
サイロンもなんだかしょんぼりとしながらそんなことを言う。
(・・・なんでしょう、説明少ない中、なんとかやってみせましたのに・・・。
ものすごい期待外れだったような感じではないですか。
まぁ、何かに手伝ってもらってできただけですし、どうやってできたのかよく分からないままですし。
的を射た評価なのでしょうが・・・。)
2人のしょんぼりがっかり感に、打ちひしがれる鈴谷を見てロッテが声をかける。
「えー、神様頑張ったじゃん。
大丈夫だからね、しょんぼりしないでね?」
そういいながら、光る飾り羽1枚に手を添える。 そして両手で引っこ抜いた。
(何してるのロッテさん!?)
<行動に対する説明要求を行います・・・チェック。>
<行動に対する説明要求の返答あり・・・チェック。>
<行動に対する説明。――――――神の意思を把握する補助に指を利用する。>
何かが鈴谷に伝えたのとほぼ同時に、バッと鈴谷にロッテが振り返る。
「今、神様、ロッテに聞いたよね!?
なんかよく分からない言葉で、これどうする気か、ロッテに聞いたよね!?」
ロッテはまた跳ねるように興奮している。
(何かが、やはり、ロッテさんに聞いているんですね!)
「神様! この”指”を使うとね、戦士は神様の気持ちがちょっとだけ分かるんだよ?
お話しするのにすごく便利でしょ、だからここに神様を連れてきたんだよー!」
引っこ抜いた羽、”指”を持って飛びつきそうな勢いで鈴谷の前までくるロッテを見て、鈴谷も興奮気味になる。
(うん! うん! 何言ってるかよく分かりませんが、意思が通じる手段があってうれしいです!)
鈴谷はロッテに頷いて見せる。
「ロッテ、ほんと、そういうのいいから。
”指”すらこんな感じの神様では、語りかけなんかできるわけないから。」
サイロンが呆れたように言う。
「もしかすると神力を想像以上にお持ちだったかもしれないけれど、さっきの神の対話で全部使っちゃったんだよ、きっと。
神の対話も何かの間違いだよ、きっと。」
「ちょ! なんで信じてくれないの!?」
ロッテが意外なほどびっくりしてサイロンを見る。
鈴谷もつられて一緒にサイロンを見た。
(ロッテさんには何か通じていますよ!?)
「だってよォ、”指”だってやっと使えるかってとこだぞ?
神力が底つきかけてんだよ、間違いなく。
これ、明日から大変だぞ・・・。」
ロッゾも疲れたように言う。 鈴谷を見て、まぁなんとかして見せるからな、と自身の胸を叩いてみせた。
(なぜ、お二人はロッテさんに意思が通じたことを分かってくれないのでしょう・・・。)
「なー! ほんとに神様が言ってるんだって!」
ロッテが怒り気味に2人に抗議するが、サイロンもロッゾもまるで相手にしないといわんばかりだった。
「すみません、マリオさん、神様が下りるのを手伝ってもらえますか?
今日は何かやり取りするよりも、休んで明日以降に備えてもらった方がよさそうですから。」
「そうだな。 残念だが、神力が全くなくなってしまっては、依代ごと砕けてしまいかねない。
だが、現界で見た光、先ほどの”神掌”との接触でみた一瞬の光は、間違いがなかった。
あれらはとても、名もなき無力な神のものではない。」
「そうなんだよなァ。
不機嫌な時の迫力とかも、とても無力な神には思えないんだが・・・、少なくとも今は回復に努めてもらって、”指”と”神掌”くらいは普通に使えるようになってもらわんとだな。」
「ね、だからロッテもそれ戻しなさい。」
「うー。」
「今の神様は、”指”使ってるのも苦しいはずなんだ。 早く休ませてあげようね。」
「・・・うん、分かった。
でも、声聞こえたのはマジだかんね?」
「ロッテだけに聞こえるのは不思議なことだ。」
マリオが肯定とも否定とも言えないことを言いつつ、鈴谷に手を伸ばす。
「お疲れでしょう、今日はもうお休みになってください。」
(これは、マリオさんも半信半疑、でしょうね・・・。)
右手を台座から放すと、”指”の光が消えた。
ロッゾの持つ蝋燭の灯りを頼りに、マリオにつかまって下りながら、鈴谷はロッテを見やる。
飾り羽をゆっくり台座に戻しているロッテは、鈴谷からはこの暗がりでは表情までは窺い知れないが、”指”の光があった際に照らされていたときに見た顔をしているのだろう。
(今にも、泣きそうでしたね――――――)
鈴谷はお腹の辺りが締め付けられるような気がした。
そして、何もしてあげられそうになく、そのままマリオに連れられて”神掌”を出た。
彼女の声を信じる者が、ここにはいない。