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第10話    希望と頷きには一致が足りない

「すみません、その巻物に手を添える感じではなく・・・。


こう、ぐっと! 握ってください。」


 サイロンがそんなことを鈴谷に言った。


 とりあえずはいの精神で、言われた通り鈴谷が握りを強くすると――――――



 鈴谷は、ほんの一瞬で、思わず手を離す。



(――――――ッッッ!? な、なんです、か・・・今の、は!?)


 この一瞬に、自分の意識がどうにかなりそうであったのだ。






 握った瞬間に感じたのは、光。


<L358AZタイプロングリPボカ32ポートよりアクセスを確認。 情報レベル・・・チェック。>

<情報レベル確認しました。>

<固有情報登録しました。>

<L358AZタイプロングリPボカ32ポートの優先権保持者についての開示要求を行います・・・チェック。>



<L358AZタイプロングリPボカ32ポートの優先権保持者についての開示要求の返答あり・・・チェック。>

<L358AZタイプロングリPボカ32ポートの優先権保持者について。 ――――――優先権の保持者03よりなし。 01および02は本人の照会要求以外に開示することはない。 03は以下の通り。>



 光が、迸る。



<L358AZタイプロングリPボカ32ポートの優先権03-08040への登録要求を行います・・・チェック。>



<L358AZタイプロングリPボカ32ポートの優先権03-08040への登録要求の返答あり・・・チェック。>

<L358AZタイプロングリPボカ32ポートの優先権03-08040への登録について。 ――――――登録を承認。並びに登録完了を通知。>

<L358AZタイプロングリPボカ32ポートの優先権を取得しました。>


<L358AZタイプロングリPボカ32ポートを利用し、アクセス開始要求を行います・・・チェック。>


<L358AZタイプロングリPボカ32ポートの優先権を確認。 L358AZタイプロングリPボカ32ポートを利用しアクセス開始。>



 光に、飲み込まれる。



(手を離さなければ、・・・あのまま光に、焼き消されていた・・・ような・・・。)


 鈴谷は、意識がしっかりしていて、朦朧としていて、すっきりして、気分が悪い、明確に混乱していた。






「すみません、おそらく急激に神の対話をされましたね!?」


 おろおろとしたサイロンの声を、鈴谷は落ち着いて余裕なく聞く。



「もしかすると、語りかけられたのでしょうか・・・。

こんなことって・・・依代は大丈夫みたいですが・・・。」


「あァン・・・?」


 サイロンのつぶやきのような独り言に、ロッゾが苛立つような声を上げた。



「ああ、すみません、依代は問題あるわけないですよね・・・。」



「・・・あ、当たり前だろ。 それより何したンだよ?」



「その、ですね、この”神掌”をこちらの御神に捧げるための儀式、と言うところでしょうか。


これにより”神掌”の力をご自由にお使いいただけるようになったのですが、いかんせん神力がほとんどない状態で急激な負担があったようですから・・・。」



「あー・・・、全然分かんねェよ。」



「・・・ええと、冷えた水だと思って呷ったら白湯だった、みたいな衝撃があったのではないでしょうか。


人の身ではとても耐えられないのですけれど・・・。」



 ロッゾは髭をゴリゴリさすりながら答えた。


「イメージの話をしてるんじゃねェよ。 この”神掌”は依代を作るときに見てるからな、そんな負担が出るようなもんじゃねェのは知ってるんだ。



分からねェのは、神の対話ってとこだ。 ・・・そんなことは”神掌”の使い初めにはねェし、そもそもそんな機能もねェぞ。」



「すみません、僕だってこんなことになるとは思いもしなかったんです。


この”神掌”の外には干渉できるはずもないし・・・。 ”指”だってそのままなんですから。」



「それも分かってるよ・・・。

今、一瞬だったが、神の対話っていう、起こりえないことがあったんだろ?



あァ・・・。 つまりはだ、無事なのかどうかだけなんだがよ、聞きたいのは。」




「・・・すみません、僕にも、分からないんです。」



 この2人の話に、ロッテが顔色を変える。


「え? ちょ、大丈夫なん?」



 ロッゾは髭をさらに激しくさする。



「見た感じ、ビックリしただけっぽいがなァ。 こんな反応があるはずがねェんだ。



そもそも、まだ神力を使っちゃいないだろうから、何も起こらねェはずなんだ。」



「え、だって、神様、一瞬青く、バッて光ったじゃん!

それでビクッて手放してたじゃん!


え、マジやばなの!? 大丈夫なん!?」



「サイロンの言ったように、分からんよ。」


「え・・・。」



「そもそも神力がほとんどないンだ、一瞬とはいえ、使えるはずがねェ降臨並みの力を出してんだぞォ?」



「うん・・・、僕が降臨させたのは、名もなき無力な神だ。


あんな衝撃には耐えられないかもしれない・・・。」



 2人の真剣な表情に、ロッテが慌てたように壁から立ち上がる。


 そして、鈴谷の座る孔雀に駆け寄り、下から覗き込むようにして声をかけた。


「ねぇ!? 神様!! 大丈夫なん!?」




 それを見た鈴谷は、まだ余韻はあるものの少しは落ち着いてきた意識で、ロッテの顔を見る。



(・・・いや、大丈夫ではないですが・・・今は無事みたいですよ。)


 鈴谷がそれを考えた時だった。

 自分の中に何か伝わってきた。



<体調等に関する情報開示要求を受信しました。 情報を開示しますか?>





(え?)


「あ、こっち見た! ねぇ!? 大丈夫なん!?」


<引き続き体調等に関する情報開示要求を受信しました。 情報を開示しますか?>




(な、なんですか・・・、自分の意識に直接語りかけてくる・・・?)



「こっち見てるのに! 神様!! ねぇ!?」



(ああ、ええと、情報の開示、は、希望します、で、いいでしょうか?


このような感じでやりとりしていましたよね、たしか・・・。)



「ダメだ、固まってるよー!」


 直接語りかけてくる何かに返事したつもりだったが、鈴谷の思いはロッテにまで伝わっていない様子だ。


 サイロン達も近くに来てこちらを窺っている。



「顔動かしたよなァ。


神様、無事か? さっきの神様のままか?」



(ええと、大丈夫ですよ・・・。 さっきから自分は自分のままですよ・・・。)


 ロッゾの声に、頷いて見せながら答える鈴谷。


<体調等に関する情報開示希望を確認。回答の送信を行います・・・チェック。>

<回答先の受信を確認しました。>


「わ! 大丈夫だって! さっきと一緒だって言ってる!」



 それに答えたのはロッテだった。 暗かった表情が、ぱぁっと明るくなる。


 が、鈴谷はそれよりも、答えてきた何かについて思う。



(え、ロッテさんへの希望の確認のタイミングが、今?)



「あァ、今頷いたもんなァ。 とりあえず良かったぜ。」



 ロッゾがホッとしたかのような表情でロッテに言ったが、それに彼女が興奮して反論する。


「違うの! 言ってるのアタシに!」



「あー、そうだったなァー。 ロッテちゃんが可哀そうだから話しかけてくれるんだっけなァー。」


「違うんだって! さっきのは冗談だったけど、今はホントに言ってくれたんだって!」


「はいはい、冗談に付き合ってる場合じゃねェんだわ。」



「なんか、チェックとか、よく分かんない言葉が心に直接聞こえてきたんだって!」



(おおッ!? 時間差でやはりロッテさんには伝わっている!?)



「大丈夫、さっきと一緒って感じの意味なのは、分かったの!」


 ロッテは興奮して力説する。



「うん、ロッテ、今そういうことやってる場合じゃないからね?」


「ちょ! サイロンまで!?」


 サイロンの声は冷ややかだった。 そして鈴谷のことをしっかりと観察している様子だ。



(情報の開示や、送信受信はサイロンさんには分かっていない・・・?)


「司祭である僕がやりとりできないのに、ロッテができるわけないじゃないか・・・。


神よ、ご無事でしたか。 急な神の対話にはビックリしました。

依代や”神掌”に異常は見られないようでしたが、先ほどの対話は神のご意志でしたか?」


 あくまで静かに尋ねてくるサイロン。



(・・・先ほどの対話、というのは何のことでしょう・・・?)


 鈴谷は首をかしげようとするが、その方向に首が動かないのでそのままだった。




「・・・すみません、ご、ご無事、ですよね?」


 サイロンがちょっと困ったように再度尋ねてくる。


 サイロンに向かって頷きながら、鈴谷は考える。



(サイロンさんやロッゾさんの問いかけには、あの何かは反応していない・・・?)



 今のところ、反応があったのはロッテへの一度きり。


 ロッテに顔を向け、さらに思考する。



 あの光の奔流の衝撃は、もはやない。

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