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新藤真悠は殺さない  作者: さいこ
出会いはアーモンドの香り
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プロローグ ~悪い例~

「犯人は、あなたです!」


 探偵は声高に言い放ち、部屋の端の方で怯えたような表情をした夫人を指差した。その瞳は自信に満ちて厳しく、夫人の他に居合わせた者達は、安堵の息すら飲み込んだ。


「ちがう……私じゃない! 第一、どうやって私が彼を殺したというの!?」


 ヒステリックな声が、関係者を集めた屋敷の広間にこだまする。探偵の強い言葉によって屋敷の広間に漂った凛とした冷たい緊張感。触れれば切れそうなそれは、夫人の金切り声によってかき散らされた。集められていた刑事や被害者の関係者たちも、金縛りが解けたように少し遅れてざわめき出す。


「おい、どういうことだ?」

「きちんと説明してくれよ」


 探偵はまあまあと皆の興奮を落ち着けさせるジェスチャーをした。その仕草すら、集められている者たちにはもどかしかった。探偵はコホンと咳払いをすると、取り乱す夫人も、ざわつく関係者たちも気にしていないかのように、淡々と話を続けた。


「犯人は、ご主人に青酸カリを盛って、毒殺しました。もちろん、彼が亡くなる直前に食べたリンゴに毒が仕込まれていたのです」


 探偵がここまで話した内容は、ここにいる者なら誰でも聞いていたことだった。しかし、この事件の謎はその方法であった。


「しかし、婦人はリンゴを半分に切って、その半分をご主人に、半分を自分で食べています」

 刑事が探偵の演説に口をはさんだ。


「ええ、その通りです」

 探偵は、その指摘を待っていたとばかりに刑事に向き直り、さらに演説を続ける。


「被害者はあなたの切ったリンゴを食べた後に亡くなりましたが、同じリンゴを食べたあなたは生きている。この点が今回最も不思議な点だった」


 探偵はここにいる関係者の皆に確認するように、ゆっくり言葉を続けていく。その場にいる誰もが、探偵の演説のペースに飲み込まれていく。


「ここまでの話が正しいとすると、夫人は半分に切ったリンゴの片側にだけ毒を盛ったことになる」

 そうでしょう、と確認するように探偵は関係者たちに視線を向けた。


「果たしてそんなことはできるのだろうか? 一見すれば、まるで不可能な犯行に思える。しかし、そこにはあるトリックが隠されていた」


 探偵はゆっくりと部屋の中を歩き回りながら、悠然と推理を語った……。

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