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とうばつ

 彼女の体には、事あるごとに「キリトリセン」が現れた。

 それは戦いが十数年にもわたり、私が20、彼女が25になって、男女の関係になってからも断続的に続いた。


 そのたびに私は頭を振ってその考えを振り払う。

 まだだ。まだ、私は彼女を完璧なオブジェとして作り上げる自信は無い。

 愛する彼女を完璧なオブジェとして完成させられる確信が得られるまで、私は彼女を切り刻む気は無かった。


 そのころには私の剣の腕もかなりのものになり、いつの間にか「芸術的なまでに鋭い切り口でモンスターを斬り裂く勇者」として、名声も得ている。

 それも当然だ。

 まさしく私は芸術を追い求め、満足のいくオブジェを作り上げるために剣の腕を磨いてきたのだから。



 そしてとうとう、私たちは『伝説の魔王』の目前へと迫る。

 魔王を倒してしまえば、剣の腕を磨きながらの旅などと言う生活からは無縁になるだろう。

 つまり、魔王を倒した瞬間こそが、私の芸術の最高到達点だ。


 私は、魔王を倒すことが出来たら、愛する彼女をオブジェにしようと心に決めていた。

 ミヒロは絶対に素晴らしいオブジェになる。それは確信だった。


「出てきな! 魔王!」


 いつもながらの気の強そうな声で、ミヒロが叫ぶ。

 その声に答え深い地下迷宮の底、暗闇がこごったような玉座の上に、周囲の闇よりなお暗い、光をも飲み込んでしまうような、闇の()()が姿を現した。


 闇の少女。

 その姿は初めて出会ったミヒロの姿よりも美しく、初めて倒したモンスターよりも衝撃的で、私は一目で恋に落ちた。


「やっと現れましたね、勇者ワタル。わたくしはあなたをずっと待っておりました。……あなたが初めて私のしもべで……オブジェを作り上げたあの日から……」


 不思議そうにこちらを見るミヒロを無視して、私は一歩足を踏み出す。

 それに合わせる様に真っ黒な衣服を脱ぎ捨てた魔王は、その白い肌を私に誇示するように胸を反らし、私を見下ろした。


 その肌。


 大理石のように艶やかな肌に薄く青白い「キリトリセン」が縦横に走る。

 私は目を輝かせ、旅の間に手に入れた勇者の剣を構えると、一気に階段を駆け上った。


「……魔王ぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


「……勇者ワタル!!!!」


 私たちは心が通じあっていた。


 魔王は世界で最もむごたらしく、歴史に残るような美しい死を欲し、私は自分の心を満足させる芸術的なオブジェを望んだ。

 ただ切り取るだけでは芸術にならない。

 魔王はその美しい肢体を惜しげもなく披露しながら、持ち得る限りの力と技を使い、私の剣に抵抗する。

 それを躱し、ギリギリの生死の狭間で命の炎を燃やしながら、私は寸分たがわず「キリトリセン」を刻んでいった。


 魔王の闇の爪が私の脇腹をえぐり、私の剣が魔王の最後の「キリトリセン」を切り離す。

 血を吐き、振り返った私の視界の中で、満足げに笑った魔王の体がビチャビチャと湿った音をたてて崩れ落ち、世界最高の美の結晶であるオブジェに姿を変えた。


「完璧だ……」


 この短時間で、自分の愛のすべてを捧げ尽くした私は、魔王の姿を目に焼き付ける。

 意識が痛みに遠のき、そして、私の世界は暗転した。

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