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たびだち

 それからしばらくの間は私は村の英雄であり、自分自身もあの()()()()の出来栄えに満足していたので、平和な日々が過ぎて行った。


 しかし、どこかの宗教団体が騒ぎ出した「伝説の魔王の復活」とやらがかねてからの天候不順、不景気、食糧不足により人里に現れ始めたモンスターの被害などと相まって、王様までもがその不穏な噂に傾倒しだすと、世の中の空気は一変した。


 穏やかだった村の人々も日々の生活に汲々として、少しずつ、私たちの生活も息が詰まるようなものになってゆく。


 そんな生活の中、私はあのオブジェの事ばかり夢想して暮らすようになっていた。



 そして、あの日。

 いつものようにオブジェを夢想しながら薪を拾い集めてきた私が村に入ると、広場には立派な鎧に身を包んだ騎士様が立っておられた。


 騎士様は兜の面貌をあげ、立派なひげを誇示するように反らすと、懐から取り出した羊皮紙を開き、声高らかに読み上げる。


「神はおっしゃられた! 魔王の復活を阻止する伝説の勇者の生まれ変わりが、この地方に現れていると! この村に、魔王を倒し、世界を平和に導く勇者はおらぬか?!」


 こんな辺境の村に勇者など居るわけがない。

 私は薪を抱え直すと家へと向かう。


 その姿を見咎めた鍛冶屋の息子のタケシが、私に駆け寄り、腕をつかんで騎士様の前まで引きずった。


「騎士様! この粉ひきの息子ワタルが、きっと勇者です!」


 周囲の大人たちから「おぉ!」と驚きと納得の声が上がる。

 あのオブジェを作った……いや、モンスターを倒した一度きりの戦いを根拠に、私は勇者候補として王城へ向かう事になる。

 痩せていて、頭もそれほど良くなく、見た目も立派ではない私を、村の人たちは「村の誇りだ」「鼻が高い」と喜んで送り出してくれた。


 私は自分自身に何の期待もしていなかったが、だからこそ、こんな自分がお世話になった両親や村の人々に喜んでもらえることがあるのならば、勇者と言う仕事もやってみようと言う気になっていた。

 それに、どうやら勇者はモンスターと戦うものらしい。


 と言う事は、もしかしたら、あのオブジェをもう一度作れるかもしれない。


 私はそんな欲望にも駆られ、騎士様の馬に乗せてもらって、生まれて初めて村を出た。


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