表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
‘あ・り・す’  作者: みやしん
■Channel 5 Marduk:
34/52

■Scene 33 忘却【Oblivion】

 誰かが泣いている。

 小さな声で多分女の子であろう。

 断続的に聞こえてくる。泣き叫んではいない。

 気をそらせば判らなくなる程度の声だ。他に何も無いためその子の声はずっと耳元に届いている。

〈誰が泣いているんだろう?〉

 辺りを見回してみた。

 公園の真ん中に大きな木がある。そこに寄り添うように女の子が居た。

 泣き声はあの子が発しているようだ。真っ赤なコートに短めのスカート、素足にキャラクター物のスニーカーを履いている。

 コートの袖で何度も何度も涙をぬぐうが、それでも後から後から涙はあふれてくる。

 迷子だろうか? はぐれたのだろうか?

 風景をよく見ると夜の公園のようだ。他に遊んでいる子供の姿はない。

 街灯が女の子の足下を照らしていた。

 ともかく、彼女のそばに居てあげよう、そう思って近づこうとしたとき、女の子の前に一人の女性が現れた。

「ママ!」

 女の子は泣くのを一端止めて、目の前の女性に叫んだ。

〈そうか、ママなんだ……〉

「ねえ、パパは?」

「……もう、パパはね」

 女性はそれ以上言葉をつなげることができなかったようだ。

 だが目の前でその答えを待つ女の子の表情に、黙っていることもできなくなったのだろう。

「パパはね、まだ帰ってこれないのよ」

「いつ帰ってくるの?」

「……いい子にしていたらすぐに帰ってくるわ」

「ホント!」

「……ええ」

 涙をぬぐい笑顔を浮かべる女の子と対照的に作り笑いを浮かべる女性。

 やがてその女性は女の子の手を引いて歩き出した。

 そして公園の出入り口に達したとき、女の子はくるりとこちらを向いたのである。

「……お姉ちゃんはどうなの?」

〈どう……どうって何が?〉

 それを問い返そうと思ったとき、感覚が戻った。

 足の裏が大地を踏みしめ、ふくらはぎと太股に体重を感じその場に座り込みそうになる。

 膝に力を入れてバランスを取ることで倒れるのは防いだ物の、どこか安定しない。

 上半身を起こすと背中に何かが当たった。

 それがうまい具合に背もたれとなり自分を支えてくれる。

 大きく深呼吸してゆっくり瞬きをして、彼女は自分の周りを見た。

 公園だ……多分今まで自分が見ていたあの公園。

 そしてそれは自分がよく知っているものだ。

 もたれかかっているのがあの大木だとしたら、ここは慧香町の幹ヶ原池公園。

 華蓮は深呼吸した。

 なぜ自分がここに居るのか? それを考えてみる。

 疑問に思うこともない。自分は慧香町に住んでおり、ここは慧香高校に通う生徒で有ればよく利用する公園ではないか。

 だが違う。

 華蓮は右手を持ち上げ手のひらを上にするとゆっくりと指を開いていった。

 そこにあるのは薄いピンク色の小さな水晶だった。

 間違いない、自分はまたチャンネルを越え慧香町に帰ってきたのだ。

 ネルガルの流砂の中、タローマティとの闘いを終え……彼女の記憶がニニブに旅立った直後、こらえきれない悲しさに押しつぶされそうになりそして足下にチャンネルが開いた。

〈……ここに草薙くんは居るのかな〉

 タローマティと闘う直前、目の前に現れた剛史は甲冑を着込んでいた。

 ニニブの二つの橋を越えるときに見た、ネボに迷い込んだタルウィが着ていたものと同じもの、そして同じ剣。

 彼は草薙剛史ではなくマルドゥックの戦士・タルウィなのだろうか? タルウィに戻ってしまったのだろうか?

 華蓮は水晶を握り直し、それをシャツの胸ポケットに入れた。

 服装は慧香学園の夏服に戻っていた。ベストはつけているがネクタイはベストのポケットの中だ。

〈一端家に帰ってみよう〉

 もし元の世界に戻っているのなら、そこに自分の存在があるのなら、両親と姉の顔を見ておきたかった。

 いつまたあそこに戻るか判らないし。

 ……戻るのだろうか?

 それを考えると華蓮の表情は少し暗くなった。

 もたれていた木から背を起こし自分の足がきちんと動くのか、つま先を動かしてみる。

 身体に疲れは無いようだ。時間がよく判らないが急いだ方がいいだろう。

 一応門限は一〇時まで。栄子の家に泊まるとき以外そんな遅くに帰ったこともない。

 ふと気配を感じ公園の奥を見ると、そこに人影があった。

 どことなく見覚えがあるそれ、長身、ストレートの長髪……

 栄子!

 華蓮はきびすを返し公園の奥に向かった。幹ヶ原池のある方向だ。

 その池の前にたたずんでいる後ろ姿は間違えるはずがない。やや長めのスカートだが慧香高校の制服に身をくるんだ、

「栄子!」

 北川栄子だった。こちらの栄子に逢うのも久しぶりだ、自然と笑顔になって彼女に近づく。

 相手も名前を呼ばれゆっくりと振り向くと華蓮を見た。

「……誰だ、おまえ?」

 華蓮の足は自然とゆっくりになっていた。

 振り返った顔は確かに栄子なのだが、雰囲気が異なる。

「……栄子、だよね」

「ああ。確かにあたしは北川栄子だけど……あんただれだ?」

 まさかこの世界に美咲華蓮という存在は無くなったのだろうか?

 とその時、栄子の近くに明らかに不良と判る男子学生が一人近づいてきた。

「どうしたんすか、栄子さん」

「いや、コイツがいきなりあたしの名前を呼んだからさ」

「知り合いっすか?」

「イヤ……」

 その男は目つきを鋭くし華蓮を見る。

 ややあって、

「ああ、コイツは栄子さんの学校の水泳部に居る人魚姫ってウワサの……」

「へえアンタが。こんなに小さいヤツとは思わなかったよ」

 栄子は腰に手を当ててじっと華蓮を観察している。

「それで、人魚姫があたしに何のようだい?」

「栄子……わたしを忘れたの?」

「おいおい姉ちゃん」

 割り込んできたのは男の方だ。

「いくらアンタが有名人だって、うちの姉さんを呼び捨てにするなんざちょっと度胸が良すぎないか?」

「あなたは黙ってて!」

 華蓮は男に向かってぴしゃりと言ってのけた。その様子に驚いたのはむしろ栄子だった。

「わたし華蓮よ。中学の頃から水泳部で一緒だったでしょう?」

「水泳部? ずいぶんと昔の話しだ。でもあたしは中学以降まともにプールに通ったことも無くてね。アンタが一方的に知ってるだけじゃないか? あたしも有名人だからね」

「慧香の栄子さん?」

「知ってるならあんまりあたしに近づかない方がいいよ。特にアンタみたいな有名人はね」

「それとも……」

 華蓮は躊躇した。

 だが、その場を立ち去ろうとする栄子の背中に言ったのだ。

「飛び魚の娘?」

 栄子の足が止まった。

 そして振り向いた彼女の瞳には華蓮が身体を引いてしまうほどの圧力があったのだ。

 彼女は大股に華蓮に近づくと、襟首をつかんで持ち上げた。

「いまなんて言った!」

「くっ……何度でも言えるよ、飛び魚の娘って」

「てめえ!」

 栄子の腕に力が入る。手が襟を巻き込んで華蓮の首を締め付けていた。

「……栄子は、水泳が……すきなんでしょ、だから、わたしと……」

「おまえなんか知らないって言っているだろう!」

「ウソよ、あなたは栄子だもん、わたしの友達の!」

「だまれ、あたしにおまえみたいないい子チャンのお友達なんかいねえんだよ!」

「栄子、思い出してよ!」

「うるせぇ!」

 その直後、みぞおちに何か重い衝撃を感じた。

 胸から背中に突き抜けてしまうような何か、心臓が大きく一回鼓動して胸が詰まって、目の前が真っ暗になった。

 華蓮の意識はそこでとぎれていた。


  §


 目の前によく知った風景があった。

 とはいっても華蓮にとっては、数ヶ月、数年ぶりとも思える懐かしいそれだ。

 自宅の自分の部屋。やや木目調の天井に少し視線をずらせばサイズの異なる二つの蛍光灯をぶら下げた照明。

 自分が寝かされているのは小柄な華蓮にとって大きなベットだ。

 そのすぐ横に……

「気がついたかい?」

 自分のことを見つめる女性が一人。美咲三姉妹の真ん中で美咲家では冷静の見本と言われる百合だった。

「百合姉ぇ……」

「まったく、あんたの無茶にもほとほとあきれるね」

 口では乱暴な事を言っておきながらどうやら華蓮をずっと見ていてくれたらしい。

 意識を取り戻しほっとしたのか大きなため息をついた。

 普段の百合は冷静その者。バラエティ番組を家族で見ていても皆が大笑いする中一人静かにうなづいている。

 その頭の良さから父親の遺伝子を強く引き継いでいると言われている才女だが、決して冷たいというわけではない。

 現に華蓮が風邪を引き熱を出すと率先して看病するのはいつも百合だ。敬一郎や蘭では錯乱してしまい看病どころではなくなるし蓮美は他に家事を行わなければならない。

 百合は文句一つ言うこと無く時には徹夜までして華蓮を看病する。そのことを恩着せがましくも言わない。

 水泳を始めるまで身体が弱かった華蓮は、自分のことを差し置いて側で様子を見てくれる百合の姿に励まされた。

 体力に自信がついた今では、

『ねえねえ。百合姉ぇが病気になったら、わたしがきちんと看病するからね』

『華蓮に看病されるとなったらわたしもおしまいだよ』

 そう呟きながらどこかうれしそうだった。

 華蓮はゆっくりと身体を起こした。服装は制服から彼女お気に入りのネコ模様パジャマに着替えてある。

 起きあがるとき少しだが腹部に痛みが走り、それが表情に表れた。

「まだ痛むのか?」

「……ここわたしの部屋だよね」

「あんたの部屋以外どこに寝かせるんだよ」

 百合はいつになく心配そうに華蓮を見ている。

「ひょっとしたら頭を打ったのか?」

「わたし、どうしたの?」

「覚えてないのか? あの北川栄子に殴られているところを警官が見つけたんだよ。あんたが気を失っているからって連絡が入ったからわたしとママで病院まで迎えに行ったんだ」

「……そう」

 そうか、おなかを殴られたとき気を失ったのだろう。

「頭とかおなかとか特に異常がなさそうだったから、家までおぶって帰ってきたんだけど……入院した方が良かったか?」

「ううん、大丈夫だと思う」

「そうか。ところで何でまたあんなのに殴られたんだ?」

「栄子の事?」

 華蓮が栄子の名前を呼び捨てにしたので、百合は少し驚いていた。

「お、おう。なんだ、おまえたち知り合いなのか?」

「判らない。わたしは知っているけど、栄子は多分知らなかったんだと思う」

「なあやっぱり病院に戻ろうか。少し様子が変だぞ」

「大丈夫だよ……ねえ、栄子って評判良くないの?」

「良くないかって……そりゃ確かに親父は有名な水泳選手だけどさ。あの学校だってそのコネで入ったって話だけど」

 そうではない、華蓮は言おうと思ったが止めた。

 彼女はきちんと自分の実力であの高校に進学した。それは一緒に勉強した自分だからよく判る。

 だがこの世界では、自分と栄子のつながりが何も無いのだろう。

 中学二年生のあの時、自分たちは勝負していないのだ。

 結局そのまま水泳をせずに過ごした栄子。

 慧香中の栄子さんがそのまま高校生になったに違いない。

 だから自分のことも知らないのだ。

「しかし、その北川もいよいよ終わりだな」

「どういうこと?」

 百合の言葉の意味が判らず華蓮は聞き返した。

「……そりゃあと一回でも暴力問題を起こしたら退学だって言われていたんだ。その相手が慧香の人魚姫となればいくら学校でも理事会でも無視できないだろう?」

「栄子、退学になっちゃうの?」

「自業自得じゃないか」

「でも……わたしが殴られたのはきっとわたしに責任があるんだよ!」

「なんだよ。まさかあんたからケンカ売ったわけじゃないだろうね?」

 殴りかかったわけではない。しかし自分は彼女が一番嫌いな飛び魚の娘という肩書きを言ったのだ。

「ま、何にしてもあんたが気絶して病院に担ぎ込まれたのは事実なんだ。事情説明のために明日は学校に来てくれって先生から連絡があったよ」

 華蓮が机の上のカレンダーを見ると八月である。まだ、夏休み中と言うことだ。

「後でママが晩ご飯持ってきてくれるってさ。あんたのすきなエビドリアだって。それまでもう少し休んだら?」

「うん……そうする」

 華蓮の様子を心配しつつも百合は部屋を出ていこうとした。

 だが、うなだれている華蓮を見て、

「なあ、本当に大丈夫かい?」

「大丈夫だよ……」

「そういえば、あんた寝言でマルドゥックとかって言っていたけど」

 百合の言葉に頭をあげまっすぐ彼女の顔を見た。

「華蓮、その言葉の意味を知っているのかい?」

「ゆ、百合姉ぇこそ、その言葉知っているの?」

 まさか、あの世界がここまで浸食しているのかと華蓮は息をのんだが、

「わたしにとっちゃあんたがこの単語を知っていることの方が不思議だね。マルドゥックってのは古代バビロニアで木星を意味する言葉だよ」

「木星?」

 それは華蓮にとっても意外な答えだった。

「……じゃあネルガルは?」

「それは火星だ」

「ニニブとネボ、イシュタルは?」

「ニニブは土星、ネボは水星、イシュタルは金星」

「……シャマシュは?」

「『太陽』だよ。華蓮さあ、いつの間にそんなオカルトに詳しくなったんだい」

 呆ける華蓮を残し百合は苦笑いを浮かべて部屋の外に出た。


  §


 それからしばらくして、部屋の扉がノックされた。

 この部屋の鍵がふだん使われていないことは家族で承知のことだ。すぐさま扉が開きトレイにグラタン皿とサラダボールとオレンジジュースが入ったコップを乗せて、母親の蓮美が入ってきた。

「どう、華蓮。様子は?」

「うん、大丈夫よ」

 華蓮にとって久しぶりに見る母親の蓮美は、いつも通りの童顔だった。

 容態の事は百合から聞いたのだろう、必要以上に心配することなくいつもの笑顔で対応している。

「別に、お部屋に持ってきてくれなくても下に食べにいったのに」

「いいのよ。あなたが寝込んだときとかこうやって持ってくるのが当たり前でしょ」

 そう言ってトレイを机の上に置こうとしたが……それを目で追っていた華蓮は一冊の本を見つけ、それに手を伸ばした。

 タイトルは『眠れる森の少女』……

「あら、それね。ニセ華蓮が居るって東京に遠征にいったお友達が買ってきてくれた本って」

 そうだ、マルドゥックのカズミが話していた‘あ・り・す’の伝説のうちのひとつと、同じタイトルである。

 購入してきた人物は栄子では無いらしいが、入手経路は変わらないようだ。

「もうそれ読んだのかしら?」

「ううん、まだだけど……」

「じゃあ、読み終わったらママにも見せてね」

 蓮美はそう言って部屋を出て行こうとした。

「ねえママ」

 それを華蓮が呼び止めた。

「栄子は悪くないんだよ……わたしが酷いこと言ったから」

「なら、明日ちゃんと先生に説明するのよ」

「うん」

 華蓮の返事に蓮美は笑顔で答えて部屋を出た。

 目の前には本当に久しぶりの……華蓮にとって普通の食事が有るのだが、それに手をつけながらも彼女は『眠れる森の少女』を読んだのだ。

 こんなに真剣に本を読んだのは、中学時代にハマった『赤毛のアン』以来かもしれない。

 ただ、お話を楽しむというより何かを確認するのが目的だ。

 残念なことにその話しはカズミから聞いた物とは全く違っていた。

 主人公の華恋は一五歳の時に病気で入院し、一時退院はあるもののすっと退屈な病院生活を続けていた。

 彼女にとって総合病院の個室、二三七号室だけが世界の全てでアリ、友人はカゴの中のセキセイインコだけ。

 刺激の全くない生活を続けているうちに、彼女は窓の外にいつまでも続く森をイメージし始める。ところがそれは、いつの間にか彼女にとって本当の事となり、自分の病室の周りはいつ果てるともしれぬ深い森になってしまった。

 どこにも出口が無く、歩いても歩いても見えるのは森ばかり。やがて歩き疲れた彼女は、森の中で眠りについてしまう。

 どれくらい眠っただろうか気がつくと森の中、たった一カ所人が通れる程度の隙間があった。

 そこから自分を呼ぶ声が聞こえる。

 その声に誘われるままに外に出たとき、彼女は目を覚ます。

 深い森を巡っている幻想のあいだ彼女は死の淵をさまよっていたのだ。

 だが、母親の呼び声が彼女の意識を今に止めたのである――

 話しそのものは短くわかりやすいが、やはりカズミの話しとは接点は無かった。

 タイトルだけの偶然だろうか。それにしては主人公の姿といい名前といい自分に似すぎている。

 久しぶりの食事を終え、腹も満足になると急に眠気が襲ってきた。

 心も身体も疲れているのだろう、華蓮はあくびをすると、ベットに入ってリモコンで部屋の照明を落とした。

 トレイは明日、下に持っていこう……そう思っている間に眠りの世界に入っていた。


  §


 誰かが泣いている。

 小さな声で多分女の子であろう。

 断続的に聞こえてくる。泣き叫んではいない。

 気をそらせば判らなくなる程度の声だ。他に何も無いためその子の声はずっと耳元に届いている。

〈誰が泣いているんだろう?〉

 辺りを見回してみた。

 そばで一人の少女が泣いていた。

 年の頃なら華蓮と同じくらいかもしれない。顔はよく見えないが童顔の自分に比べれば、見た目は年齢相応に見えた。

 彼女は何かを追いかけていた。

 盛んに手足を動かして走っていた。

 逃げているのではない。その証拠に彼女は振り返らず、目の前に腕をつき出して凝視している。

 何を追っているのか、それは判らない。

 ただ、その姿は剛史を追い求めて世界をさまよう自分に重なって見えた。

『‘あ・り・す’』

 声がする。その少女の声ではない。

 自分に投げかけられた声であることは確かだ。なぜならそこには自分しか居ないからだ。

『あなたは‘あ・り・す’という言葉の意味を考えた事がある?』

 どこかで投げかけられた質問……今の自分には答えられない。ただ、

「わたしは‘あ・り・す’ではないわ、美咲華蓮よ」

 その声に向かってそう答えたとき、目が覚めた。

 机の上のデジタルは朝の七時を示している。

〈どこにいてもそう簡単には休ませてくれないのね〉

 華蓮はため息をつくと小声で笑った。


■Scene 34 追悼【Mourn】に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ