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‘あ・り・す’  作者: みやしん
■Channel 4 Nergal:
30/52

■Scene 29 謁見【Audience】

 タローマティの乗ってきた馬車は車輪の横幅が非常に広い。

 車軸部分は普通の幅だが車輪にすだれのような物が巻き付けてあり、土の上だけでなく砂漠も走行できるという。

「それでも流砂に近づくとウィチュアでも渡れなくなるの。できれば砂漠は避けたいのよね」

 タローマティはそう説明した。

 ウィチュアとはこぶなしのラクダもどきの事だ。

 華蓮は膝を合わせわりに行儀よくタローマティの話しを聞いていた。

 夕食後、華蓮たちの野営地にほろ馬車でやってきたのはネルガルの戦士、タローマティだった。

 小柄で童顔、燃えるような赤い髪をポニーテイルにしている。

 最初に出逢ったのは華蓮とマナフだが、音を聞きつけたであろうエーコとカズミ、そして最後にトールがその場に集まった。

 口を開く前にヴァ・ルオラに手をかけたのがエーコだった。

「貴様、ここに何をしに来た!」

 エーコは預言者の祠での戦闘のことを思い出しているのだろう。もちろん、華蓮もマナフも覚えている事である。

 タローマティはそれに慌てることなくゆっくりと言葉をつないだ。

「敵意はないわ。あなた達と闘おうと思っていない」

「信じられるか!」

「信じる信じないはあなたたちの自由だけど、今日のわたしはネルガルの‘あ・り・す’様のご命令でここに来ているの。ネボの‘あ・り・す’様ご一行をお迎えするようにと」

 彼女はそう言う。

 相手が剣士であれば帯剣していない姿で敵対の意志なしと考えてよいのだろうが、預言者の祠で出逢ったときも確か素手だった。

 こうなると判断は‘あ・り・す’に一任されるわけだが……

「いいわ。アレに乗せてもらいましょう」

 と毎度の事ながら非常にあっさりとタローマティの提案を受け入れた。

 その返事をある程度予想していたのかエーコは声を荒げることもない。

 ただ、珍しくトールだけが小首を傾げた。

「よろしいのですか?」

「……断る筋合いのものでもないでしょ。こっちはネルガルの‘あ・り・す’に逢いに行くんだし同じ事をして向こうが断ったらこっちだってキレるかもね」

 華蓮はタローマティを見た。

「と言うわけでお世話になるわ。こちらは五人だけどその馬車に乗れるの?」

「大丈夫よ。中は広いから」

 結局……というか、いつもの事なのだが華蓮の一声で馬車での移動となったのである。

 ちなみにこの世界ではラクダもどきであるウィチュアが馬代わりなので、馬車でも何となく言葉は通じるのだが、本当はウィチャリカという名前が正しいらしい。

 もしくはただ単に舟と呼ばれるようだ。

 ジプシーのそれのように中は想像以上に広く二階層になっており、上の階層では仮眠を取ることができるという。

 ただ、馬車の足はそれなりに速いので、華蓮たちの時間単位で四時間もすればネルガルの街に着くそうだ。

 内部に腰掛けるシートは無く、箱に柔らかいわら状のものを敷いた椅子があるだけだ。

 背もたれもあるが揺れもあいまって気が休まるものでもない。疲れたら二階にあがって横になるのが普通らしい。

 先頭側にタローマティ、そこから少し距離をあけて華蓮たちが座っていた。

 一寝入りはできる時間があるのだが、華蓮が休まない以上エーコもマナフも寝ようとしない。

 つられてカズミも起きており、トールだけが半分寝ていた。

 華蓮はタローマティから差し出されたドライフルーツを食べていた。

 リンゴに近い物を干したらしい。

「一つ聞きたいんだけど」

 華蓮は干しリンゴをかみ砕きながら聞く。

「なんなりと」

「ネルガルの街には混浴でない砂風呂ってあるのかしら?」

「コンヨク?」

「ええと、そのつまり一人で誰にも見られずに入れるお風呂」

「ああ、なるほど。あるわよ、‘あ・り・す’様の神殿の中に禊用の物があるわ」

「エーコたちが使えるのは無いかしら?」

「そうね……神殿の来賓用のなら今使われてないから‘あ・り・す’様たち専用になるわね」

 タローマティはそう言って小さく笑った。

「……余裕? 何を聞いてくるかと思えば砂風呂の心配なんて。もしかしたらこれが罠でこの舟は街には行かないとか心配しないの?」

 腰をあげそうになったのはエーコである。とうの華蓮は少し考えて、

「あ、なるほどね。そういう事も考えられるわ」

「姫!」

「ふふふ……あなたたちの女王様はとても寛容なのね」

「無礼者!」

 とまたヴァ・ルオラに手をかけるエーコだが、片手をあげて華蓮が止める。

「あなたがそんな誰にでも判るような罠を仕組むとは考えなかっただけよ」

「……それはどうも」

「それにこの干しリンゴも美味しいわ。エーコも食べたら?」

「それはティクって果物よ。ネルガルにはネボほど果物は無いから貴重なの」

「そうなんだ」

 と華蓮とタローマティの会話は比較的スムーズなのだが、それを取り巻くエーコとマナフと、そしてカズミの表情はどこかこわばっていた。特にエーコの不満顔は誰の目から見てもよくわかる。

 気にくわないのである。

 あの時、自分に傷を負わせたこともあるのだがなによりネボの‘あ・り・す’様――すなわち、華蓮への態度が慣れ慣れしいのだ。

 確かに世界が異なるかもしれないが、自分たちの女王に対してあまりにも礼儀を欠いていないか。

 この際、つい最近まで自分が華蓮に対して横柄な態度を取っていた事は棚にあげている。

 これ以上何か失礼があったら華蓮の制止を振り切って、この場で切り捨ててやろうかと思っているくらいだ。

「……そちらのウサギさんはだいぶ眠たそうだけど」

 タローマティはティクを入れた箱をエーコの前に差し出しながら聞いた。当然それを取り上げようとしないエーコ、それに従うマナフとカズミといった構図で、トールはどこか眠そうだった。

 トールを除けば男性はマナフだけだ。それが気恥ずかしいのか視線は伏し目がちである。特にタローマティを見ないようにしている。

「トール、寝てくれば?」

「いえ、わたしは‘あ・り・す’様にお仕えする者ですから。おそばを離れるわけにはいきません」

「無理しない方がいいわよ。まだ時間もかかるんだし」

「あら、そのウサギさんがネボの‘あ・り・す’のトールなの?」

 タローマティがティクをトールに差し出した。彼はそれを素直に受け取った。

「そう。なかなか生意気なんだ」

「そんな事はありませんよ」

「……そういえば、他の世界の‘あ・り・す’にもトールって居るんだよね。ネルガルにも居るのかしら?」

「居るけど……今はわたしよ」

 華蓮とエーコが声を上げる中、トールだけがうなづいた。

「やはりですな」

「……あれ、でもトールって得体のしれない何かがなるんじゃないの?」

「失敬な。‘あ・り・す’様はどういう目でわたしを見ておられるのですか」

「ふふっ。別に‘あ・り・す’様にお仕えする者だから人でも構わないわよ。‘あ・り・す’が選べばそれで問題ないの」

「わたし、選んだ覚え無いわよ」

「前の‘あ・り・す’様にお選び頂いたんですよ」

 華蓮はトールをじっと見て指をくわえて見せた。

「わたしもトールを選び直そうかな」

「な、何という……」

「ウソよ。今更変えられないでしょ。でもニニブにはトールらしい人は居なかったわね」

「何をおっしゃいます……あなた様をお導きになったお二人がニニブの‘あ・り・す’様のトールですよ」

「アミとユミが?」

「ニニブでのトールは来訪者の道標となる大切なお役ですから」

 意外なものだと思う華蓮だが、残るマルドゥックはどうなのだろう。

 いつものようにカズミに質問しようとすると、

「そちらはマルドゥックの方ね」

 タローマティが再度ティクを差し出しながらカズミにそうつぶやいた。

「なぜ、マルドゥックの方が一緒なの?」

「彼女はニニブで一人取り残されていたの。わたしたちと一緒ならいずれマルドゥックに着くから」

「なるほど……」

 タローマティは微笑んでいた。その微笑みが今までのそれと違うことに華蓮は気がつかない。

「でも、その衣装は婢[はしため]のものね」

「ハシタメ?」

「‘あ・り・す’様はご存じないかもしれないけど、戦場で兵士の疲れを癒して差し上げる女の人のことよ。ねえ、そこの人」

 カズミは差し出されているティクを断るとふせめがちにうなづいた。

「色々と大変でしょう。その服を洗うヒマもなく」

「いえ、そんな……」

「そして一人生き残るなんて……運がいいのやら悪いのやら」

 なぜかカズミの表情が硬い。華蓮は二人の間に入ろうとした。

「生き残ったのは運がいい証拠だよ」

「‘あ・り・す’様も人がいいわね。敵でしょう、マルドゥックは?」

「敵かもしれないけどまだ‘あ・り・す’に逢ってみないと判らないし」

「姉さん」

 幌の向こうから兵士の声がする。タローマティは腰を上げ一端外にでたが、すぐさま戻って来た。

「……砂嵐があるみたい。少し揺れるわ」

「あの兵隊さん、あなたの弟さん?」

「そうよ……そう言えば‘あ・り・す’様にはご兄弟は居るのかしら?」

 華蓮は少し考えた。

「ネボには居ないけど、わたしの世界には姉が二人いるわ」

「そう……それは残念ね」

 タローマティの言う意味が今ひとつ判らなかった。

「残念ってどういうこと?」

「一緒になるとしたら仮の兄弟を見つけなければいけないでしょ」

 より一層困惑の表情を見せる華蓮。その解説役はトールである。

「この世界では実の兄妹が結婚するのが普通なのです」

 その声はエーコにも聞こえたのか華蓮と二人そろって声を上げたが、タローマティはそれに慣れているのか静かに微笑んでいた。

「何かおかしいかしら?」

「え、ええと」

 風習の違いと言いながら、どこか理解できないものを感じている。それを口に出すのもためらわれた。

「二人別れて生まれ出た血だから一緒になる価値があるんじゃない」

「それじゃ、あなたはあの弟さんと?」

「ううん、わたしは兄と……タルウィと一緒になるの」

「タルウィ?」

「あら。名前を知らなかったの……あなたの知っている草薙剛史の本当の名前よ」

「それは知っているけど……草薙くん?」

「……反応いいわね。そう言う顔は好きよ」

「でも、彼はあなたのお兄さんでは……」

「違うわ。でもわたしはタルウィを兄と決めたの。だから必ず一緒になる」

 剛史をタルウィと呼ばれても今ひとつピンと来ない。

 ニニブの橋でハルワタートの恋の相手がタルウィであること、それが多分のちの草薙剛史になっていることは理解できているが……彼の事を話すタローマティの表情が違う事に華蓮は気がついていた。

 兄であろうと無かろうとタローマティはタルウィ……草薙剛史を好きなのだろう。

 ただ、その時のタローマティは華蓮ではなくじっとカズミの顔を見ていた。


  §


「ここがネルガルの街……」

 華蓮は辺りをぐるりと見回してそうつぶやいた。

 結局舟の中では一睡もすることができず、適度な緊張感を迎えたまま時間が過ぎていった。

 トールだけは華蓮に身体を預けて寝ていたようだし、エーコも旅疲れだろうかたまに瞳を閉じて身体をふらつかせていた。

 舟が止まったとき……空の色は変化しなかったものの、今までとは違いいくつもの建物が建ち並ぶ風景と出逢えた。

 ネルガルの街である。

 ネボのように緑豊かとは言えないが、街全体を取り囲むように防砂のための樹が植えられている。

 ほとんどの家が煉瓦と木材でできているところをみると、あれが材料になっているのだろう。

 ただ、人の姿は少ない。

 ひときわ大きな建物に続く大通りに出ても、すれ違う人々はまばらだった。

 それに商店と思われる店もあいていたりいなかったりで統一感がない。

 つまり、これが個人主義の極みというところなのだろう。

 あいている店には人が集い、閉まっている店には立ち止まりもしない。多分開店時間に合わせて並んでいるんだろう……華蓮は学校の近所にあった、なぜか午後四時開店の餃子専門店を思い出した。

 部活がある日はいいのだが無いときは店先並ぶの禁止だったため、本屋などで時間をつぶしていた。考えれば元の世界でも店の都合に合わせて生活している。

 それでもネルガルほど極端では無かった。

 大通りの終点が‘あ・り・す’の施設らしい。

 華蓮たちに割り当てられた来賓用の施設の作りはそれなりに立派であったが、設備そのものは荒野の宿泊施設とほぼ変わらない。

「‘あ・り・す’様の都合でこのあとすぐに謁見だけどかまわない?」

 部屋を案内しながらタローマティはそう聞いた。本当なら自分も含めみんなを一寝入りさせたいところだが、ネルガルの‘あ・り・す’の要求なら聞かざるえないだろう。

 華蓮は渋々答えた。

「しょうがないわね」

「では、ネボの‘あ・り・す’様は禊を済ませて。終わったらその他の方とあの部屋に集まって」

 タローマティの指さしたのは、中央の大きな部屋に続く回廊の脇にたてられた、小さなテラスだった。

 壁という概念が薄いのか、『部屋』が密閉されていないことが多い。

「それとマルドゥックの人は謁見の必要ないはずね。別室で待機していてもらえるかしら?」

「判りました」

 カズミは頭を下げておとなしく従う。

 華蓮は言われるままに『禊の部屋』に向かった。

 その部屋は一応四方が壁に囲まれており、内部は段差のある石段の間に砂風呂用の流砂が流れていた。

 禊と言われても何をどうすれば良いのか判らない。

 思い浮かんだのは滝に打たれる修行と時代劇でみる、井戸水を全身に浴びながらお願いする風景だ。

 しかし目の前の砂を見ているとどれも違うような気がする。

〈全部脱がないとだめなのかな〉

 と思いつつも、またショーツだけ残して服を脱ぎ全身に砂を浴びた。

 感触はやはり水のようだ。肌が傷つけられることもなく靴下の中に入り込んだ砂のような痛さもない。

 まさかホントに水菜のかなと口に含んだが、細かくとも砂の感触しかしない。

〈これでいいのかしら〉

 そう思いながら服を着た。さすがに着衣を洗濯することはなかった。

 身支度を済ませて禊の間を出ると、そこに一人の女の子がじっと華蓮を見ていた。

 どこかで見た顔だ。

「……わたしに何かようなの?」

 今にも泣きそうな表情だったのでしゃがみ込むと視線の高さを合わせた。

「逢っちゃダメだよ」

「え?」

「‘あ・り・す’に逢ってはだめ……」

 その意味を聞き返そうとしたが、遠くで自分を呼ぶトールの声を聞きそちらの方を向いた一瞬、その姿は消えていた。


  §


 ネルガルという世界そのものが装飾に興味が無いのかもしれない。

 ‘あ・り・す’の謁見の間にでても、広くてきちんとした屋根がついているだけで何一つ飾り立てていない。

 広い分だけ閑散としているイメージを感じた。

 半径一〇〇エグタ(約二三メートル)の円形ホール、天井の高さは一五エグタ(約三.四メートル)というところか。

 木造である。

 ただ、ここの樹は年輪が深く刻まれないようだ。つるつるした表面は金属のように見えた。

 煉瓦は土台に使われている程度。何となく建物その者が華奢に感じるが、華蓮の疑問に答えるのはトールの役目である。

「ネルガルの建材に使われるティクピアンという木は薬品加工したあとに乾燥させるとチタンほどの堅さになります。酸やアルカリの腐食にも強く、当然砂程度ではびくともしないのですよ」

「便利なものね」

「ただティクピアンは非常に成長が遅いのです。健在として使用できるまでに一〇〇年近くかかります。ですから人々は煉瓦を代用品にしているのです」

 つまり木材をふんだんに使用しているここは、ネルガルの中でも贅沢な建物ということだろう。

 華蓮は改めて正面を見る。

 ホールのほぼ中央に白い布で囲まれた部屋がある。

 そこに僅かに人影が見えることから、そこに居るのがネルガルの‘あ・り・す’なのだろう。

 この世界のトールであるタローマティがしずしずと中央に進み、一礼してベールの中に入った。

〈それなりに礼儀正しいのね〉

 その世界の支配者に使えるのだから礼法にも通じて当たり前だと思うのだが、自分と同じような童顔にそれが行えていることが不思議だった。

 ややあって、タローマティがベールから出てきた。

「ネボの‘あ・り・す’様。わが女王様がお逢いになるそうです。お一人でこちらに」

 華蓮はエーコとマナフ、そしてトールに目配せすると足音をたてないようにするするとベールに近づいた。

 揺らめく人影を映す白い布の前で一礼してみせる。

「……ネボの‘あ・り・す’です」

「中へ」

 僅かに声が聞こえてきた。

 そばに控えていたタローマティを見ると小さくうなづいた。

 華蓮もうなづいてベールを僅かに開くと中に入った。

 内部はもう一枚ベールがあり二重構造となっている。

 一枚目を開いたときに中が見えないようになっているのだが、ここまで姿を見せないものだろうか……それに比べてネボの‘あ・り・す’はその存在がオープンすぎると思う。

 ベール越しにせよもう少し近づいた方がいいだろう、そう思って足を進めると、右足のつま先が何かをはじいた。

 視線を落とすとそこにあったのは、

〈水晶?〉

 拾い上げたそれは真っ赤な色の水晶だった。

 大きさは華蓮の持っているそれとほぼ同じである。

〈ここの‘あ・り・す’の物?〉

 華蓮はベールを見た。

「あの……水晶が」

 だが、中から反応はない。

「ええと、ここに水晶が落ちてますよ」

 とさらに足を踏み込んだときだ。

 華蓮の目の前が真っ赤になった。

 それとともに耳をつんざくような音と振動が伝わってきた。

 何かが爆発したのだと気がつくのにやや時間がかかる。

 身体は爆風をよけるため無意識のうちに両耳を手でふさぎ、その場にしゃがみ込んでいた。

「姫!」

 外でエーコの声が聞こえる、他にも近づいている足音が聞こえた。

 華蓮はゆっくりと目を開き目の前を見る。

 爆炎がはれるとそこに‘あ・り・す’を覆い隠すベールは無く……

「ひぃ」

 華蓮は悲鳴を上げた。

 それ以外の何もできない。

 そこに‘あ・り・す’はいた。多分‘あ・り・す’だったらしい人物である。

 華蓮に向けて右手を伸ばして何かを訴えようとする身体……ただそれは顔はおろか、年齢性別を判定することができないような、炭化状態だったのだ。

「‘あ・り・す’様!」

 ベールに飛び込んできたタローマティが声を上げる。

「タローマティ……」

「こ、これは……」

 何もしゃべることができない華蓮、タローマティは彼女の右手の赤い水晶を見た。

「まさか、あなたが‘あ・り・す’様を」

「違う、違うわ!」

「ネルガルの水晶ほしさに……」

「違うの!」

 叫ぶ、叫んでも自分が何をしているのか判らない。

 ただ振りほどこうとした赤い水晶は、華蓮の右手から離れることは無かった。


■Scene 30 報復【Retaliation】に続く

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