■Scene 23 虚実【False】
〈どういうこと、トール!〉
どこに居るとも判らぬトールに向け華蓮はありったけの声を発した。
ハルワタートの呟いた一言、それは以前、預言者の祠で聞かされた『‘あ・り・す’の伝説』である。
あの時トールは結局その内容を一言もしゃべらなかった。
それが、‘あ・り・す’は必ず彼女の恋する男に命を奪われるだったのだ。
どこに居るともしれないトールに向けた言葉に、返事は無かった。
〈答えなさい、どういう事なの!〉
『‘あ・り・す’様……その伝説の真意を得るために今、橋を渡っているのです』
つまりその意味を今知れと言うのだろうか。
たぶん彼は何を聞いても答えてくれないだろう。虚実を告げない代わりに彼は伝えない真実もある。
華蓮はゆっくり瞬きをしハルワタートの記憶を見つめた。
§
時は静かに流れているように見えた。
明確な暦や正確な時計を持たないネボの世界では、華蓮の元いた世界ほど時間は重要ではない。
一年中作物は取れるし納税制度はあるものの、神殿は毎日のように‘あ・り・す’に献上する農作物であふれている。
午前の閣議でいかに腐らせずに献上品を備蓄するか頭を悩ませるほどだった。
まったく平和というわけでもなくそれなりに犯罪もある。
しかし主要都市といいながらその面積は慧香町一丁目と二丁目を合わせた程度であり、たとえば泥棒ひとつでもすぐさま犯人は捕まるしそのウワサが広まるのに数時間とかからない。
そんななかハルワタートの仕事と言えば閣議の決定と午後の謁見であり、数々の娯楽施設に慣れきった華蓮には『退屈地獄』に思える光景だった。
ただ……タルウィの存在だけがその平和な世界から浮いていた。
マルドゥックの傷ついた兵士長が‘あ・り・す’の神殿の中に居る……そんなウワサはすでに国中に知れ渡っている。
その兵士の実力がかなりのものであること、そして彼が記憶をなくしていることも周知の事実であり、衛兵たちもいつも以上に神経をとがらせていた。
なぜ追放なり処刑をしないのか? そんな提案が一度だけ議会に取り上げられたが、
「相手はけが人です」
ハルワタートの一言で全てが却下され、その言動もネボの‘あ・り・す’様は心優しきお方という評判を高める結果となったのだ。
だが、ハルワタートの言葉が真意では無いことを華蓮は見抜いていた。
幾分年齢が上とはいえ、同一人物である。
日をおかずタルウィの元に訪れる彼女の姿と、竜虎でかき氷を食べる剛史と自分を重ねていたのかもしれない。
その日も夜、燐光が揺らめく夜空の下にハルワタートはタルウィの部屋に訪れていた。
「……お加減はどうですか?」
じっと燐光を見つめていたタルウィはゆっくりと彼女の方を向いた。
「ずっと気になっていたのですが、あの光は何ですか?」
「ネボではあれを燐光と呼んでいます」
「りんこうですか」
「はい。ネボの世界の命の輝きです。マルドゥックには昼しか存在しないと聞きましたが、夜は怖くありませんか?」
「……俺には何も判らない、思い出せないのです」
「そうですか」
何かを思い出そうとしてそれが出来ない苛立ちだろうか、タルウィは握り拳を自分の膝に叩き付けていた。
何度も何度もたたき続ける彼の右手に、ハルワタートがそっと手を添えた。
〈……あ、手が〉
そう、ハルワタートはタルウィの手に触れている。
剛史と竜虎の前で指切りしようとしたときは、まるで感電したようにしびれたのにあの二人にはそれがない。
「ハルワタート……」
「記憶を取り戻さないのには何か意味があるのかもしれません」
「意味、ですか?」
彼女は優しくうなづいた。
「闘いの日々に疲れているのかもしれません。今だけ穏やかに過ごした方がよいという事でしょう」
「……でも、俺には戦士であったという記憶もない。なぜ休まねばならないのかその意味が判らないのです」
「意味を考えさせないために記憶が封じ込まれているのかもしれないですよ」
タルウィはうつむき、彼の手に触れているハルワタートの手を左手でそっと包んだ。
「あなたの手はとても柔らかく温かい。俺の全てを包んでくれるようだ」
「それはあなたもおなじですよ、タルウィ」
重なる手をそっと振りほどきハルワタートは彼の部屋を後にした。
その様子をじっと見ていた人物がいた。
アールマティだった。
§
タルウィの部屋――どうやらネボの世界の感覚では、あれでも監禁部屋になるらしいそこから真っ暗な執務室に戻ったハルワタートは、ただじっと窓の外の風景を見ていた。
燐光は明かりとして不十分な光量しかなく、窓からそれが見えていても彼女の全身をくまなく照らすことは無かった。
もっとも、ハルワタートにしてみれば今は闇が自分を隠してくれることを望むのだ。
だが、そこに。
「姫」
小声である。たぶん、ハルワタートにしか届かないであろう最低限度の音量だ。
しかし呼びかけられた本人は、それに答えることなく夜空を見ていた。
「姫」
再度の呼びかけにも答えない。じれたのだろう、声の主は思いきってハルワタートのそばに近づいて、
「姫!」
やや大きめの声を発した。それに驚くことなくハルワタートはゆっくりとうなづいてみせる。
小さく笑ってさえいた。
「……聞こえているわ。アールマティでしょ」
「姫、どういうことです、護衛も付けることなくあの兵士と逢うなど!」
「そうね……もし、彼の記憶が途中で戻ったら、わたしはどうなるのかしらね」
「それが判っていながら何故です?」
「前にも言わなかったかしら……わたしの命ってそんなに尊いものなのかしら?」
「‘あ・り・す’様……」
ハルワタートはアールマティの前に自分の右手を差し出した。
「さっきね、わたし初めて男の人の手を握ったの。見た目がごつごつしているからもっと堅いかと思ったけど、柔らかくてそして温かかった」
アールマティは無言である。
「わたしは思うの、わたしの意味って何だろうって」
「意味だなんて……」
「なぜ、わたしは男の人を好きになってはいけないんだろう、好きになった男の人に命を奪われるんだろう……そう考え始めると自分の立場なんてもうどうでもいいと思うの」
「……‘あ・り・す’様」
「‘あ・り・す’が世界を治める者の代名詞だと言うけど本当にそうなのかしら。わたしに化せられた運命も選択も、何一つわたしの意志が反映されない。‘あ・り・す’なんて何の意味があるのかしら」
普段見せることのない真剣な眼差し、ハルワタートの言葉を制しようとしたアールマティが言葉を返すことが出来ないほどだった。
「……あなたもわたしの事を名前では呼んでくれないんでしょう」
「もちろんです」
「なぜ?」
「それは」
「わたしが‘あ・り・す’だからなんて答えはもう聞き飽きたの」
「ですが、‘あ・り・す’様は‘あ・り・す’様ですから」
「……もう休むわ」
ハルワタートはそう言って執務室から出ようとした。
その背中にアールマティが声をかけた。
「姫……わたしは姫を寵愛しています、ですがそれは‘あ・り・す’様というお立場ではございません」
ハルワタートは足を止め、その続きを待っていた。
「‘あ・り・す’様ご本人です」
「ありがとう」
とその時。
「‘あ・り・す’様!」
ハルワタートとアールマティの間に一人の衛兵が滑り込んできた。
「どうしました、‘あ・り・す’様の御前ですよ」
「チャンネルが……中庭に、チャンネルが開こうとしていますっ!」
目を見開いたのはアールマティだった。ハルワタートは目を細めたが、小さくうなづいただけだったのだ。
そしてちらりと、華蓮の方を見たように思えた。
まさかとは思ったが、三人は急ぎ足に執務室を出たのである。
§
衛兵の言うチャンネル――それは華蓮が何回か世界を越えるために利用している亜空間のような物だ。
ただ、彼女はいつもその中心に居るためにそれがどんな形をしているか判らなかった。
直径の異なるいくつもの光の同心円、それが角度を付けて回転していた。闇の中、リングの光が庭の草木を照らしているのだが、それを直視してもまぶしさは感じない。
チャンネルの周りは衛兵がぐるりと取り囲んでいた。
最前列に白いローブを頭からかぶった者が数名低い声で何かを呟いている。
『ネボの魔法部隊ですよ』
トールの声だ。華蓮は何も言わずにその様子をじっと見ていた。
『チャンネルを消そうとしているのです』
〈……それが開くと?〉
『多分、マルドゥックの部隊がなだれ込んで来るでしょう』
しかし、チャンネルの輝きは収まる気配は無かった。
それどころかより輝きを増していた。
衛兵長らしき男が声を上げた。魔法部隊は衛兵に抱えられてチャンネルから離れ革の鎧に身を固めた衛兵が腰から剣を引き抜いてチャンネルにその切っ先を向けた。
衛兵に囲まれハルワタートがいた。彼女をさらにかばうようにアールマティが立っていた。
「姫、ここは危険です!」
ハルワタートは応えない。
そのうち、光の輪の動きが止まりその場で白く輝いたのだ。
すぐ後に闇が支配する。
視界がはっきりすると燐光に照らされたフード姿の男が一人だけそこに居た。
〈あ、あの男……〉
華蓮の見覚えのある男、剛史を連れ去り自分をこの世界に引き込んだあのサルワである。
目つきはあの時よりも鋭く見える。枯れ木のような手足は変わらない。
「……これはこれは、ネボの‘あ・り・す’様」
「マルドゥックの兵士が何の用です!」
これはアールマティだ。
「こんな夜中に単身乗り込むとは……」
「わたしが欲しいのはこの城に人質としてとらわれているタルウィだけです」
サルワはそう言ってハルワタートに向かって手を伸ばした。
「タルウィを返して頂ければわたしは何もしない……わたしが一人でここに訪れたのもその証です」
「それを信じろと言うのですか?」
「信じていただく以外ないでしょう。我らがマルドゥックの‘あ・り・す’様にこの世界を襲う意思はありません」
サルワはそういって微笑んだように見えたが、彼のやせすぎた顔はその言葉の信憑性を失わせるに十分だった。
アールマティは女官から受け取った杖を彼にかざそうとした。
だが、それをハルワタートが止めた。
「……タルウィを返せと」
「先ほどから申している通り。まさか、すでにタルウィは?」
「判っているのでしょう? 彼がまだ生きていることは」
「でしょうな……あなたは生き残った兵士の命を絶つことなどできない、心優しきお方」
「無礼者!」
踏み込んだのはアールマティだ。しかしハルワタートが再度とめた。
多分、女王に指示されたであろう女官がひとり、甲冑をはずしたままのタルウィをつれてきたのだ。
「彼はこの通り無事です」
「姫、どういうおつもりです!」
「おお、タルウィ」
サルワは懐かしさを含んだ感嘆の声をあげて両手をタルウィの前に差し出した。
だが、タルウィの反応は……
「……あなたは誰だ?」
「わたしを忘れたというのか? 魔法師団の突撃部隊隊長であるわたしを」
「突撃部隊?」
「そうだ、そしておまえは‘あ・り・す’様直轄の騎士部隊隊長、タルウィなのだぞ」
だが、それを聞いてもタルウィは目を閉じて首を左右に振るばかりだった。
「……ネボの‘あ・り・す’よ、彼にいったい何をしたのだ!」
「姫を疑うとはなんと言うこと! マルドゥックの仕掛けた戦闘で負傷し、記憶をなくしたこの兵士を丁重に看護されたのは誰とお思いか!」
「ほう……それではタルウィの看護はそこの姫が自ら行ったとでも」
サルワの目がさらに細くなった。
その目は感心ではなくあざけりに近いものであることは華蓮から見ても判った。
〈相変わらずイヤなヤツ〉
ハルワタートはそっと目を閉じた。
「……この兵士はそちらにお返しします。記憶は戻っておりませんが」
「ハルワタート」
タルウィは驚いて彼女を見ていた。
「記憶はあなたの世界に帰ってからゆっくりと戻せば良いのです」
「……俺は、あの男の世界に帰るべきなのだろうか?」
「元の世界に戻れば回復も早いでしょう」
それは女王として立派な言葉である。
だが何か違う――華蓮はそう思う。
何かを躊躇していたタルウィであったが、彼も彼が元の世界に帰ることでこの世界が闘いに巻き込まれることが避けられる事に気がついたのかもしれない。
サルワを見ると彼に向かって一歩を踏み出そうとした。
〈本当にそれでいいの?〉
ハルワタートに向けて放った独り言……のつもりだったのだが、彼女はまるで華蓮に答えるようにこちらを見たのだ。
「……夢を見たの」
誰にも聞こえないような小声である。現に、アールマティには聞こえていなかったようだ。
「これから起こること、すべてを。何度も何度も克明に」
〈ハルワタート、あなた、わたしと……〉
「わたしに女王の資格はないわ。だから……」
ハルワタートが見守るタルウィの背中、そしてサルワがもう一度笑を浮かべた。
「……作戦は成功だよ、タルウィ」
とまどうタルウィの目の前にサルワは両手の手のひらを突き出した。
「あれで彼は記憶を取り戻すの」
〈記憶?〉
「そして……わたしは彼の手で……」
まるで他人事のようにつぶやくハルワタート、その事態を前にしながら華蓮にできるのは見ているだけだった。
二人の男の様子に気がついたのはアールマティである。とっさに二人の間に割り込もうとしたが、
「戒めの封印よ、とけタルウィ!」
サルワの手のひらから碧色の光がもれそしてタルウィの額に放電した。
タルウィは小さなうめき声を上げてその場にしゃがみ込んだ。
放電は続く、頭だけを包んでいたそれはやがて彼の全身を囲んだ。
アールマティは小声で呪文をつぶやき、杖を振りかざすとそこから水滴が凍り付いて矢となり、タルウィに向かって飛んだがそのすべてが碧の光に阻まれてしまう。
さらに強くなる光、女官や兵士は‘あ・り・す’を守ろうと近づこうとしたが、金縛りにあったかのように動くことができない。
「姫!」
それはアールマティも同じようだ。ただ立ちつくしてほんのわずか、手の届かない位置にあるハルワタートに向かって叫んだ。
しかし、当の女王は……とても静かな表情でタルウィの姿を見ていた。
〈なぜ逃げないの? 動けないの?〉
「……運命だから」
ハルワタートのつぶやきの直後……タルウィを取り囲んでいた光はやんだ。
彼はゆっくりと身体を起こして、そしてハルワタートを見たのだ。
その瞳は……記憶を失っていた頃の曖昧な輝きではなく、数千の兵士を束ねる突撃隊長の鋭い眼光だった。
「……ネボの‘あ・り・す’」
「ええ、そうよ」
タルウィの問いかけに静かにうなづく。ハルワタートの瞳も一点の曇りもなく瞬きも忘れて彼の事を見ていた。
サルワにもタルウィの記憶が戻ったことが判ったのだろう。今度は右腕を空に向かって差し出した。
「さあタルウィ……『最期の選択』が起きる前に!」
〈最期の選択?〉
サルワの手がまた光ったかと思うと上空に現れたのは新たなるチャンネルである。
しかし、それはサルワが現れたときのそれと比べると非常に小さい物だった。
しかもそれが発生していた時間もほんのわずか。幾重もの光輪が瞬いたかと思うと、その空間から飛び出した何かがタルウィの目の前に落ちてきた。
巨大な剣であった。
長さはタルウィの背丈ほど、剣の幅は三〇センチもあろうか。一番厚い部分で一〇センチに達するであろう。
かなりの体力自慢でなければ持ち上げることすら不可能に思えた。
タルウィはそれをいとも簡単に引き抜いて、そして切っ先をハルワタートに向かって構えたのだ。
「‘あ・り・す’……」
「さあ、その剣でわたしの胸を突きなさい。でなければ、わたしは……」
と、その時。
燐光がわずかに揺らいだかと思うとその光が全天に広がったのだ。
昼が訪れたのではない。空は目を開くことが不可能なほど真っ白に輝いて、青・緑・黄色そして赤の四条のレーザー光線のような光が渦巻いてハルワタートを包んでいた。
「姫、おやめ下さい!」
アールマティの声を無視するようにハルワタートは自らの水晶を天に掲げた。
「急げタルウィ、ヤツは世界を崩壊させるつもりだ!」
〈崩壊?〉
サルワの声に誘われるように、剣を構えるタルウィ。ゆっくりと目を閉じるハルワタート。
「わたしは選択する……」
「姫!」
「タルウィ!」
いくつもの声が響く中タルウィが動いた。
だが、その切っ先はハルワタートではなくサルワに向けられていたのだ。
「……何のつもりだ、タルウィ」
「俺は……ハルワタートを傷つけることはできない」
その言葉にハルワタートの両目は開かれていた。
「何? おまえ記憶が戻らなかったのか?」
「戻っていると思う、でも、ハルワタートは俺を助けてくれたんだ。どうしてこの人が世界を崩壊させる? 俺には判らない!」
「貴様……貴様ともあろう男が、ネボに感化されようとは!」
サルワは懐に手を差し込むと短剣を取り出してハルワタートめがけて投げた。
その早業はすべての動作が瞬きの間に行われたかのように思えた。
金属的な光がハルワタートののど元に吸い込まれるように思えたが、その直前で何かにはじかれた。
巨大な剣を枯れ葉のように回転させた、タルウィの剣である。
「タルウィ! 貴様!」
サルワは言葉を切った。
「‘あ・り・す’様への忠誠を忘れたというのか、ドゥルジの事を忘れたと言うのか!」
「……ドゥルジ……」
その名前を聞いたとたんタルウィの表情がゆがんだ。
「まだ記憶をすべて取り戻していないのだろう。おまえにはドゥルジという婚約者がいるのだ。いま、選択を止めないと……」
「もう遅いのです」
ハルワタートがサルワの言葉を切った。彼女の前に掲げられた両腕の手の中には四色の光を浴びて回転する水晶があった。
「わたしは、選択します……」
「姫!」
アールマティの叫びより早くサルワはハルワタートの元に駆け寄った。
「させぬぞ、ネボの‘あ・り・す’!」
そのとき、時間が止まった。
『……わたしには選択できません』
声だ。ハルワタートの声が、華蓮の耳にだけ飛び込んでいた。
『……わたしには荷が重すぎるのです』
〈あなたが行おうとしている、選択とは何?〉
しかしハルワタートはそれに答えようとしない。
「ハルワタート!」
サルワの攻撃が彼女にのびる、それを避けさせようとタルウィは手を伸ばしたが、ハルワタートと彼の手が触れようとする一瞬、雷のような光が二人を襲ったのだ。
〈……あの時と同じ!〉
そう、竜虎の前で指切りしようとした二人の間に走った電光と。
サーベル状の長剣を握り締めたサルワが水晶にねらいをつける、アールマティは呪文を集結させようとしていた、タルウィはサルワの剣を防ごうと巨大な剣を盾にしていた。
水晶はハルワタートの手を放れ、光を振りまきながら宙を舞う。
そしてそのときの光にタルウィとサルワの目がくらみ……
「姫!」
アールマティの叫び声が聞こえた。
体勢を崩したタルウィの巨大な剣が、ハルワタートの胸を突き抜けていたのだ。
タルウィの手がふるえていた。
誰もがその光景を悪趣味な冗談だと思っただろう。
しかし……ハルワタートの掲げられていた手がゆっくりと降りる様をみて現実に引き込まれる。
〈ハルワタート!〉
『わたしは……これで……解放される』
そして、チャンネルが開いた。
ハルワタートとタルウィを包むように、巨大な光の輪が包んだ。
真っ白だった空は一点を残して元の暗黒になり、二人の足下に闇を作り出したのだ。
二人は何の言葉も発することなくその闇に落ち込んでいった。
「姫、姫!」
アールマティの叫び声だ響く。
それに呼応するようにハルワタートの水晶が天に向かって飛翔する。光りの尾をひくとそれは遙か彼方の山へと飛んだ。
チャンネルが閉じた場所には主を無くしたタルウィの剱だけが残った。
まるで二人の墓標のようなそれ。その剣も緑の光りと高い振動音を響かせるとその場から消えた。岳がけが残った。
■Scene 24 選択【Choice】に続く




