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クエストの結末

 少し、短めです。



「一番近い転移地点ってどこだっけ?」


 私は、一番重要なことを知らなかったことに気付いて尋ねた。


「ここからでしたら、山頂だと思いますわ。……あたしの把握している範囲ではですので、最も近いという確証はないのですけど」

「まあ、山頂なら川の上流に行けばいいから迷う心配もないし良いと思うわ」


 まさか山登りをすることになるとは思わなかったが、反対意見もなくそこを目指すことになった。


「さて、釣竿は誰が持とうか?」


 勿論、私が持つつもりだったが一応聞いた。


「やはり、すだちさんが適任だと思いますわ」

「……じゃあ、遠慮なく」


 私は釣竿を両手で持つと、一度試し振りをしてみた。


「うわああぁぁ!?」


 ……うん。雑音が聞こえること以外は問題ないね。


 私はメアリーの興味を引けていることを確認し、満足気に頷いた。


「よし、行こうか」


 私たちは、山頂目指して歩き始めた。



「……?」


 私は、服の袖を引っ張られる感覚に足を止めた。


「いよ君、何?」


 こんな話し方をするのは彼しかいないと思いながら振り返ると、予想通り裾を掴んでいた。


「……猪」

「?」


 私が首を傾げると、いよ君は言うべきことは言ったというように頷いた。


 ……何を言いたいのか伝わっていないんだけど?

 ……いや、今までのいよ君のセリフのパターンから考えるとそのままの意味の気がする。


「あー、やっぱり」


 視界に映りこんだのは、丸々と肥えた猪だった。


「どうする?」

「メアリーに怪我をさせたら駄目だから、撤退かな?」


 ひゅうが君の言葉に同意しようとした時、猪が突進してきた。


「逃がしてはくれないみたいね」

「……そうみたいだね。とりあえず、メアリーを少し離れたところに待機させておくよ」


 私は猪から距離をとると、ちょうど良い高さの木に釣竿を引っ掛けた。


「結局、倒すしかないのかな?」

「そうだね」


 意見がまとまったところで、ふといよ君を見た。


「……食材」


 ……いよ君、やる気だ。というか食べるのか。

 私は、君が草食だと思っていたよ。……雑食なのかな?


「……」


 ナイフとフォークを構えて近づくその姿に、猪は警戒するように一歩下がった。


「いよ、生のまま食べると、お腹を壊すかもしれないですわ。使うならたいまつの方が良い気がしますわ」


 いよ君は問題ないというようにこくりと頷くと、懐からたいまつを出してなつちゃんに見せた。

 すぐに懐に戻してしまったが、なつちゃんは納得したような表情をしていた。


 ……それでいいの? 自分達の間には言葉は必要ない、みたいなやつなの?

 というか、懐に火のついたたいまつを入れて大丈夫なのだろうか……いよ君、一応河童だったよね?


 誰も突っ込まないことに何ともいえない気持ちになりながら、いよ君を見守る。

 いよ君はいつの間にか持ち替えていた包丁を二刀流の様に構えると、猪に向かって駆け出した。


「……」


 危ないようだったら助けに入ろうと思っていたのだが、その必要はなさそうだ。

 目の前で行われるのは、一方的な殺戮……もとい、解体。



 気が付くと、猪の姿は消え去り代わりに美味しそうな生肉のブロックが完成していた。

 いよ君は達成感からか小さなため息を一つ落とすと、それも懐にしまった。


「そうだ、メアリー!」


 私があわててメアリーの様子を見に行くと、メアリー()問題なくそこに居た。


「あれ、みかんは?」

「……助けて~……」


 どこからか、少し篭ったみかんの声が聞こえてくる。


「……やっぱり、あそこか」


 ……実は、メアリーの口元から釣竿が見えているんだよね。


「メアリー、ぺっ、しなさい」


 私はメアリーに近づくと、出来るだけ優しい声音で言った。


「…………俺は汚物か何かなのか?」


 少し悲しげなみかんの呟きは無視して、メアリーのことをじっと見つめると、彼女は観念したようにみかんを吐き出した。


「……みかん。何個目の胃まで行った?」

「え!? そこまで酷い見た目なのか……?」


 みかんは、とりあえず触りたくないと思うような姿だった。


 というか、メアリーがみかんのことを狙っていたのって、本当に餌にするつもりだったの……?

 そして、牛って共食いするっけ? いや、それ以前に草食じゃなかったの?

 ……あ、これ言ったの今日二回目だ。



 その後は、特筆するべきこともなく転移地点に着いた。


 ……みかんの疲弊具合は異常だったけど。



 私たちは、転移を行いクエスト報告に向かった。

 報酬は、お金と後日届いた絞りたての牛乳だった。

 因みに、漸く釣り糸から開放されたみかんは、


「形状記憶?」


 ……暫く、瓢箪型のままだった。



「「「「「「いただきます!」」」」」」


 今日は、クエストクリアの翌日。牛乳が届いた日。

 私たちは、いよ君が狩った猪をふんだんに使ったなべを囲んでいた。

 因みに、いよ君の物質転移は保存効果まで兼ね備えているようで、お肉は新鮮なままだった。

 いよ君が終始ご機嫌な雰囲気を醸し出していたのが、印象的だった。

 デザートには、報酬の牛乳を用いた牛乳プリンを食べた。


「……」


 それを見た時のみかんの顔色が、大変面白いことになっていたとだけ明記しておこう。


 「クエストに行こう」はこれにて完結です。

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