君の為に
電車が揺れる。
ガタン…ガタタン…
人がいっぱい詰まったその車内は、少しだけどんよりとした空気をしていた。
(月曜日かぁ…)
ため息とともに毎週訪れる憂うつについて考えていた篠宮秋生。
秋生、なんて男性的な名前ではあるが、女子大生を卒業して3年のれっきとした女性である。
つり革に掴まりながら、電車の揺れに体を預ける。
窓の外は慌ただしく景色を変えていく。
(会社ついたら、昨日の残作業とお客さんに確認することまとめて…)
決して要領が良いと言えないが、まじめに仕事に取り組んでいる。
しかし、なんとなく。
なんとなくだけれど、仕事がつまらなくて、別の仕事が向いているのでは、なんてことを考えたりしてしまう。
(結局、どんな仕事でもそうなんだろうけど)
仕事のことは会社についてから考えよう。
そう頭の中で区切りをつけ、目をつぶった。
「……て。お……ください…」
ん…。
誰かに起こされたような気がして、目を開ける。
「よかった、起きてくれたんですね。」
にこりと笑った目の前の青年。
目が大きくて、薄い水色のような銀色のような髪。
すっと通った鼻筋は、アニメのような風貌で…。
(…目の前?)
バッと体を動かし、左を見る。右を見る。
明らかに電車内ではない。
2畳分くらいの木造空間。
ガタン、ガタンと不定期に体が揺れる。
「狭い車内ですが、君の為に行っていることです。ご了承くださいね。」