3 手を差し出す
なんていうか…“凄い場所”。
私がライコウ君に降ろして貰った場所は森の中だった。正確には(アドルフさんが)振り落とされた場所は森の中だった…(私は安全に降ろして貰えた)
「痛た…何するんだよ、ライコウ…」
アドルフさんはライコウ君をじとーと見る。『うじうじ、うじうじ…わしの背中で!うっとーしくてしゃーないわ。そないに罪悪感があるんやったらさっさと嬢ちゃんに白状して土下座でもしろや!』そんなアドルフさんにライコウ君は言った。
アドルフさんが落とされた場所へ向かう。「大丈夫?」と私は倒れていたアドルフさんに手を差し出すと「あ…有難う」と困った様に私の手をとる。
「私なら大丈夫だよ。…わかっているから。……あの時、私の手を掴んで廊下を歩いたのって目立つ為の作戦だったんでしょう?」
そう言った私にアドルフさんは目を見開いた。苦笑いでもう一度「わかるよ」と返す。
「さっき少し話して思ったの。あなたは腹ぐろ…賢い人だなって。それにアドルフさんはよく物事を考えてから喋ってるよね…私なんかと手をつなぐだなんて目立つ様に決まっている。なのに、あなたは集まった皆の前で私を《新生徒会役員》と言ってから、すぐにその場を離れる様にライコウ君を呼び出した。だから、もしかしたら私を皆の前で紹介する作戦なのかなーとは思ったんだけど…違う?」
私はさっきのアドルフさんの悲しそうな顔を見て意図を考えていた。何かある筈だ、何の理由も無く私を生徒会役員にするなど言う筈が無いじゃないか。
「驚いた。正解だよ…」
アドルフさんは本当に驚いた顔をしている。
「…裏があるってわかっているのにどうして何も聞かなかったの?そもそも手を繋いだ時に振り払えば良かったじゃないか…」
「んー、特に言う必要なかったからで……えーと、手を振り払わなかったのは…そんなに強く握ってなかったから無理強いつもりはないのかなと思ったのと…その…」
恥ずかしくて言うのが照れる。
「…嬉しかったからかな。」
「は?」
少し怪訝な顔をしたアドルフさんに私は慌てて付け加える。
「あの、その…アドルフさんがかっこいいから嬉しかったのではなく!……私、友達がいないから手を繋ぐなんて久しぶりだなぁーと思って…」
アドルフさんは暫くぼーっと考えてから「あははっ、君、僕のことかっこいいとかっ…本人に正直に言い過ぎるよ。」と笑った。笑われて恥ずかしくなる…つい、そう思ったから言ってしまった。ひとしきり笑い終わってから、先程とは打って変わって真面目な顔をして聞いてきた。
「もう一つ教えて。どうして黙ってようとしてたのに、結局僕に知ってることを教えてくれたの?」
「ライコウ君が罪悪感があるなら白状しろ、って言ってたから…もし、私なんかの為に罪悪感をもってくれているなら悪いし……」
今まで黙っていたライコウ君が『!?…嬢ちゃん、わしの言葉わかるんか?』と驚く。私は視線をライコウ君に向けて「うん。少しだけ、ね。」と答える。
アドルフさんは私達が会話をしてる中顔を話者へと右へ左へに動かす。……。…………。表情は驚いたままで固まってる。暫くするとはっとした様に私の肩を掴み叫ぶ。
「リリィちゃん!君の魔力はいったい……」
「え?これ魔法なの?」
……。真顔で聞くと、アドルフさんは困った様に説明してくれた。(私、アドルフさんを困らしてばかりだ…)
「召喚獣と人間は人間の言葉で交わることは無い。召喚獣の方は何故か人間の言葉を理解出来るみたいなんだけどね…だから人間は態度や声色から召喚獣を把握するんだ。
召喚獣の言葉を理解するなんて、超高等魔法。魔力を相当消費するんだ…普通ならすぐに魔力が枯渇する。それなのに君からはまだ魔力が通ってる感じがする。リリィちゃんの魔力はいったいどれ位あるんだい?だって、これ程膨大な魔力を持ちながら噂にもならないなんておかしい…」
アドルフさんは驚いている様だけど私はそんなことを言うアドルフさんにもっと驚いている。
「私、魔力すっごく弱いよ。先生も皆も言ってる。」
「違う、もしかしたら無意識に“以心伝心”の方に魔力を使い切っているんじゃないか?…僕もこの力を扱える人を見たこと無かったからあまり言えないけど……」
暫くの間、アドルフさんは黙って考えていたけど…私に向き直った。
「誰かに“以心伝心”のこと言ったの?」
「うん。昔、少しだけど他の子に言ったよ。…『嘘つき』って言われちゃったけど…それからは人に言って無いな。」
「…なのに何で僕に言ったの?」
「…アドルフさんが私のこと心配してくれてるって伝わったから。…だから、…そういうの久しぶり、だったから…」
素直に言う。アドルフさんの方を見るとなんとも言い難い顔をしてから凄く嬉しそうな表情になった。
「ねぇ、リリィちゃん。俺のことはアドルフさんじゃなくてメイソンって呼んでよ!」
いきなりのことで戸惑う。「えと、その…」と困惑してる私を笑顔で見つめるアドルフさん。……私、そんなこと言われるなんて久しぶり過ぎて……。ぐっと覚悟を決めて「メイ、ソン」そっと呟く。1度声に出してしまうと後は簡単ですぐに次の言葉が出る。
「よろしくね、メイソン!」
久しぶりにルビィ以外に笑った。上手く笑えていたか心配だけど、メイソンが笑って返してくれてるから気にしない。