八、片付けとシチューが似合う男?
八、
「へぇ、それじゃあ二人は学園長先生のお孫さんを知っているんだね。」
新聞部の部長はほかの二人の部員の前でお茶を飲んでいた。
ここが、学園長室ということを知っての狼藉だろうか?ここで、無断侵入の上にくつろいでしまうことは雪那だったら生きているのに地獄にいけるという矛盾した事象が発生してしまうくらいなのだ。つまり、このことがばれてしまったら新聞部の部長は危ないのかもしれない。当然、この学校の生徒ということでそのときは雪那が彼女を守るために出動しなくてはいけないので彼も当然のように危険にさらされるということである。
「え、ええ・・・実は・・・彼とお友達でしてね、それで・・」
「そうなんです!あたいたちは彼と友達なんです。」
必死になって説得をしているようだったのだが、これだけでは押しが弱い。もう少し、彼の立場をよくするべきではないかと彼女たちは思った。
「・・・部長、実はですね・・・この学園、来年からは共学制になるそうなんです!」
「え、そうなの?それは初耳・・・」
「それで、彼は・・・その、視察というかなんと言うか・・・たまに、値たちに会いに来ているんです。もちろん、この学園長室で遊んでいたりするんですが・・・あ、そろそろ戻ったほうがいいんじゃないんですか?五時間目になりますよ!」
そういって部長を立ち上がらせる工作員の部員たち。
「・・そうね、私も学生だし・・・その話も詳しく調べておかないと・・・それと、今度雪那君が来たら教えてね。私、お礼がしたいからさ。」
そういって彼女は出て行ったのであった。
「ふぅ、危なかった・・・」
「しかしまぁ、雪那の野郎も節操ねえな。」
「失礼な!誰が節操ないだって?僕のどこが節操ないんだ?」
いつのまにか隣に現れている雪那にさしも驚きもせずに二人はその場に座り込む。
「雪那さん、これからどうするんですか?」
「嘘までついちまったぞ・・・。」
「わかった。最高権力者である私がなんとかしよう。」
いつの間にか現れた学園長に留美子は驚き芹奈は目をまん丸にしていて雪那は異次元にその姿を消したのであった。なぜなら、天井から降りてきたからだ。忍者?
「・・・・いい加減、雪那がこのままでは私も面倒だからな。ここはこの学園を共学制の学園にしよう。もちろん、雪那がいるときだけな。」
そういって再び消えていった生徒会長に三人はため息をついたのであった。そこへ、扉がノックされる。見事なタイミングである。
「・・・氷ですけど?学園長先生はいますか?」
「あ〜氷かよ。勝手に入れ。」
芹奈がそんなことを言ったので氷ははいってきたのであった。
「・・・二人とも、こんなところで何をしているんですか?」
「・・・ええとだな、雪那のお世話・・・じゃなくて、雪那の尻拭いだな。」
そういうと隣の留美子もそれに習うようにして首を上下に振る。
「・・・尻拭い?」
「ええ、雪那さんが新聞部部長を助けたことはいいのですが、少々、調子というサーフボードに乗ってしまったんです。顔つきでほら・・・」
そういって新聞を見せる芹奈と留美子。新聞を見て氷の表情が鋭くなる。
「・・・この学園の生徒会長としてお礼を言いますが、一個人の私の意見ではやめてほしいですね。これでは、ただの行き過ぎた成敗にしか思えません。」
「なるほど・・・そういう見解もあるのかぁ。」
「・・・生徒会の権利として、この新聞を断念するようにと新聞部部長には告げておきます。雪那さん、今後は気をつけてください。」
そういって氷は二人も連れて出て行ったのであった。その後姿があまりにも堂々としていたので雪那は
「かっこいい!あれが漢の背中ってやつか!」と感激していたのであった。
放課後、自室で刀の手入れをしている雪那の耳にノックの音が聞こえる。
「雪那殿、リデリアだ。」
「あ〜リデリアね・・・どうぞ。」
「それでは、失礼・・・」
腰に木刀を装備しているリデリアが雪那の部屋にはいってくる。
「・・・邪魔かと思ったが、入室させてもらう。」
「いいよ、気にしないで。お茶淹れるからそこでまってて。」
雪那は隣の部屋にお茶を淹れに行ったのでリデリアは雪那の部屋をぐるりと見渡していた。
雪那の部屋は畳敷きでとても落ち着いている。壁には『窮み』とかかれた紙が額に入って飾られていたりもするのだが、簡易ベッドの近くにはプラモが飾られている。ちゃっかりそのプラモの手には刀がつけられていたり、部屋の隅には木刀が飾られていたりもする。やはり、そこはその筋の血が流れているのだろう。
「・・・ふむ、やはり雪那殿は拙者と同じような趣味を持っているんだな。」
そう思うとうれしくなるリデリアなのだが、彼女の部屋と雪那の部屋では同じところは畳敷きということだけだろう。彼女の部屋がきれいになるには少々の時間(約半日)を要する。
「さ、もって来たよ。」
「かたじけない。」
茶菓子(これは学園長のおやつである。)とお茶(これも学園長の私費で買ったものである。)を所持して彼は戻ってきた。
ほのぼのとした放課後の時間を終えて、リデリアは雪那になにげなく尋ねた。
「雪那殿、拙者は貴殿が新聞に写っていたところを見たのだが・・・どうやら、この学校に転校することになったらしいな?新聞部の部長が放送室をのっとって五時間目に放送していたぞ。」
それを聞いた雪那は食べていた茶菓子をのどに詰まらせてお目目を白黒・・・この場にリデリアがいて背中をたたいてくれなかったら死んでいたかもしれない。
「・・・本当にそんなことになっていたのか・・・」
「しかし、顔を見せるなどと・・・さすがにそれはやばいのでは?」
「しょうがなかったんだ。つい、調子に乗っちゃって・・・」
「貴殿の性格であろう・・・それより、拙者はこれから買い物に行くのだが・・・ついてきてくれないか?」
今ではどこか言葉がおかしいリデリアなのだが、そこは雪那がなんとかするだろう。
「・・・・わかった、リデリアについていこう。」
立ち上がって財布をぽっけに突っ込んでいる雪那の後姿を見ながらリデリアは微妙に不満そうな顔をするのだった。
「むぅ、雪那殿、ほかの女性には“ちゃん”や“さん”をつけるのに今では拙者を呼び捨てにするのはなぜだ?」
「え・・リデリアはやっぱり“ちゃん”付けで呼んだほうがいいのかな?確か、僕より実は一歳年下で小さいころの知り合いだったから妹感覚だったんだけど・・・まぁ、不満ならきちんと“ちゃん”付けで呼ぶよ。」
「うむ、それがいい。」
どこかえらそうな態度だったのだが、雪那は昔からだったかなと思って考えを打ち切ったのであった。
「リデちゃん、今日は何を作るの?」
街中を二人で歩きながら雪那は隣を歩いているリデリアに話しかける。
「リデちゃん・・・まこと、すばらしい響き・・・このリデリア、生涯に悔い無し!」
感動に打ちひしがれているリデリアの肩をゆすってみるのだが、彼女は顔を真っ赤に染めてなにやらぶつぶつとつぶやいていた。ちょっと危ない人間のできあがり。
「・・・はぁ、なんだか近頃女の子と話す機会は多くなってきた気がするけど、変なやつしか会わないな・・・。」
それは失礼なのだろうが、しょうがないことである。実際、隣は危ない人間である。
「雪那殿、今日はカレーを作ろう!」
「カレー?わかった。」
「材料は愛情にカレー粉だけで十分だ!後は、そこらの草で作る!愛情さえあれば、何でも作れるからな!」
「・・・ほかの具材もきちんと買おうね?」
拳を天に突き上げて歩いているリデリアに対して雪那は地を見下ろしながらそっとため息をついたのであった。
スーパーにやってきた二人は普通にジャガイモやにんじんを買い(途中、リデリアはモザイクがかかった食材を手に雪那の元にやってきた。)帰路についていた。
「雪那殿、今日は拙者の家に学園長殿が来ているそうだ。それで、貴殿も来るようにといわれたのだ。」
「・・・それなら、しょうがないな。」
上は偉い人、自分より下の人は下の人・・そういう関係なので反抗は一族全体に対して宣戦布告であるといっても過言ではない。
「お前のものは俺のもの・・俺のものは俺のもの・・・まぁ、しょうがないことなんだろうなぁ。でも、リデリアの実家は苦手なんだよなぁ。」
「何、拙者の家とはいっても実家のほうではない。気兼ねなく拙者が作る料理を楽しんでいってくれ。」
彼女がどの程度、料理のスキルを持っているかそこはかとなく漠然とした不安を腹に抱えておなかいっぱいである雪那は彼女のスカートの中から短く伸びている竜の尻尾を眺めながら再びため息をついていたのであった。
リデリアの家にやってきた雪那だったのだが、そこがアパートの一室でとても汚いことを知った。
「・・・足の踏む場、ないよね?」
「大丈夫だ。踏んで壊れるものはおいていないからな。落ちているものはごみだけだ。」
そういってのしのしと靴のまま上がっていくリデリアの後を雪那は追いかけたのであった。
「む!これは学園長の手紙・・・雪那殿、貴殿宛のようだ。」
渡された手紙には『我が孫 雪那へ』と書かれていたのであった
「拙者はあちらで料理をしてくるから雪那殿はその手紙を見ているといい。じゃ、後ほどおいしいカレーをともに食そうではないか。」
台所に消えた彼女を見送って雪那は手紙を開ける
『雪那、私はリデリアの家にはじめてきたのだが、汚すぎてはいることができん。私が帰ってくるまでにどんな手段を使ってもかまわないからきれいにしておくように!できていなかったら覚悟してもらおう。』
学園長はどうやらきれい好きだったらしいのだが、リデリアの部屋がここまでひどいと何をしても無駄だと悟ったらしい・・・・
「やれやれ、僕が結局やらないといけないのか・・・」
どこからか取り出したビニール製の手袋を装着し、頭にバンダナ、口にマスクをして彼は早速転がっているプリンの容器に手を伸ばしたのであった。
時間帯はすでに深夜・・・・ようやく片付け終わった部屋を前にして雪那はため息をついていたのであった。
「つ、疲れた・・・」
すべてのごみは仕分けして近くのゴミ捨て場におかれてきたのであった。
「雪那殿、ご苦労・・・」
なべを持って現れたリデリアにちょっとだけ非難のこもった視線を浴びせて雪那はため息をまたついた。
「さ、シチューができたからともに食べようではないか。」
「・・・・もう、なんでもいいよ。」
いつの間にか白くなっているなべの中身を見ながら疲れきっている雪那は半ばやけ食いでなぜか味のしないシチューを必死に口の中に運んでいったのであった。
「・・・ん・・・」
「・・すー・・・」
寝返りをうつと、そこにはリデリアの寝顔があった。その寝顔をまじまじと眺めて雪那はぼーっと考えて体を起こしてみた。どうやらここはリデリアの部屋のようだった。雪那はしばし、部屋の中をきょろきょろしてなぜ、自分がここにいるのか考えたのだった。
「・・・・ああ、そういえばカレーを食べにきたんだったな。」
そういって再び横になって目をつぶったのであった。
「・・・・ふぁ・・・明日もきちんと・・・起きないと・・・な?」
ようやく覚醒し、雪那の背中には冷や汗が・・・・
「ま、まさか・・・一線、越えちゃったか?いや、リデちゃんが・・・そんなことはないな。」
リデリアの顔がある前にはきちんと『立ち入り禁止!』と書かれた刀が床に突き刺さっている。つまり、あちらにはその気はないわけだ。
「よかった。」
そういって雪那は立ち上がって部屋を出ようとしたのだが・・・・そこが自分の部屋だということにようやく気がついた。勘違いをしていたようである。
「・・・・まぁ、リデちゃんの寝顔でも拝んでおこうかな?減るもんじゃないだろうし・・・」
そこにどかりと腰を下ろして雪那はずっとリデリアの寝顔を眺めていたのであった。そして、そのまま目を閉じて・・・寝てしまったのであった。
朝、目を覚ますと縄でぐるぐる巻きにされていることに雪那は気がついたのであった。




