六、ひざ枕が似合う男?
感想、評価随時募集中です!皆さんがどのように思っているのか知りたいです。
六、
言われたとおり、午前八時ほどから彼は公園の噴水近くのベンチに一人、腰を下ろしていた。
「・・・ばあちゃん、普段なら朝五時には眼を覚ましているのに・・・遅いな。」
彼もそれに合わせて起きたつもりなのだが、既にいなかった。やはり、ばあちゃんには適わないかといった感じで雪那は普段どおりに公園にやってきたのである。
「ちょっと、がんばっておきすぎたな。ふぁ・・眠い・・・」
そのまま睡眠モード。彼は眼を瞑って夢のなかで羊を飼い始めたのであった。
羊飼いになった夢を見ていた雪那は枕に顔を擦りつけまくっていたのであった。
「ちょ、ちょっと!」
「ひゃい?」
眼を覚ませばそこには透き通るような肌の壁が広がっていた。雪那は体を起こし、公園にいたことを思い出した。
「あ・・・。」
「・・・・。」
目の前にいたのは氷であった。顔を真っ赤にしているので雪那は怒っているのだろうと勝手に解釈して頭を下げた。
「ごめんなさい!僕が悪かったんです!それでは!!」
いつもより大きく空間を裂いて雪那はそれに飛び込もうとする・・・が、それは全速力で氷に防がれたのであった。
「ちょ、ちょっと・・・悪いですけど、まだ僕は警察に用事はありません!誤解です!誤解なんです!」
「話を・・・聞いて欲しいの!」
「やめてぇ!だ、だれかぁ!襲われるぅ!!」
他の人が見ても別に気にも留めていなかった。どうやら、ふざけあっているようにしか見えていないらしい。
「・・・・・雪那さん!」
とうとう、肩を掴まれて雪那は両手を胸の前で降参の仕草を見せる。
「・・・・わかりました!実際、触って試せて嬉しかったと思いました!初めてですし、嬉しいものは嬉しいんです。世の中、ギブアンドテイクなのは知ってます。僕が警察に行けば全て丸く収まりますね。いきますよ!いけばいいんでしょう!」
そういって雪那は空間を切断し、次の瞬間には警察の前に姿を現していたのであった。
「はい、つきましたよ。じゃ、いきますからね。」
そういって歩き出す雪那の腕を今度はがっちりと抱きしめる氷。
「・・・・!こ、これ以上僕の罪を重くしないでください!胸があたってます!」
まぁ、これもまたはたから見たら見せ付けているようにしか見えない。
「謝りたいんです!」
「謝りたいって・・・何を?」
「追い出したことです!」
「追い出す?何の話ですか?」
進む足を止めたのを確認して氷はようやく雪那を離す。その瞬間に雪那ははしりだそうとして再び氷に腕を抱きしめられる。雪那のフェイントは失敗したのである。
「あたしが・・いえ、生徒会長の私が雪那さんを学園から追い出したことです!」
一気に雪那の表情は暗くなる。
「・・・・・その話はしないでください。もう、僕には関係のない話ですから・・・。」
「そ、そんな・・・じゃ、じゃあ・・・私たちとも・・?」
「当然です。僕はなぜかあなたのことを知っている一、男子生徒です。」
交番から先程の様子を見ていた暇な警官さんは
「お、別れ話か?」と見ていたのであった。彼も暇なのだろう・・・。
「・・・・。」
「それを望んだのはあなたなんです。別に責めるわけじゃありませんが・・・・」
その口調は完璧にすねており、彼女を責めていた。
「・・・所詮僕は、誰かから邪魔だ、出て行けといわれたら姿を消すしかない臆病者なんです!あなたの心配していたとおり、確かに僕は何度か覗こうとしたんですけど・・・そのときは自らの体をロープで縛って耐えたんです!」
一度、それもままならず見に行ったところ彼の代わりに彼の祖母が彼をがんじがらめにして屋上からつるしたりもしたのだが、この際それは知らなくていいことである。
「・・・ま、確かに・・・あなたの言うとおりです!信頼を手に入れたかった・・・僕としてはそれだけなんですけどね。でも、僕はあなたを許すことができません。」
そういって今度は言い返すことのできていない葛籠の手を振り解く。そして、彼はそんな彼らを見ていた警官の所に向かっていったのであった。
「・・・現行犯です。あの人の膝の上で寝ました。捕まえてください。」
「は?」
尋ねられた警官のほうは
「何故、彼氏が彼女の膝の上で寝てはいけないのだろうか?」という疑問にとらわれていた。
「君、悪いけど僕は君たちのような小さな問題に巻き込まれたくないんだ。」
やるなら他でやってくれといわんばかりの警官。
「ほら、外で君の連れが待ってるから出て行ってくれ。ここは新手のデートスポットじゃないんだ。」
「何か、勘違いしていませんか?」
「勘違いをしているも何も・・・君たち、通行の邪魔をしているのに気がついていないのかい?職務の邪魔だから、さっさと出て行ってくれ。」
結局、何をしに来たのかわからない雪那は見ず知らずの男の人の前で空間を切断することもなくでていったのであった。
雪那は歩き、その後ろを氷がついていったのであった。
「・・・・ついてこないでください。」
「・・・・あたし、あなたに許してもらうまでずっとついていきます!」
彼は頭の隅で
「そう?それならずっと許さない・・そうすれば君とずっと一緒にいることができるから・・・。」と考えてばかばかしくなってその考えを頭の隅の焼却炉に放り込んだのだった。そして、最高温度でその考えを燃やす。
「・・・わかりました。そこまでいうのなら・・・・いえ、ついてこれるもんならついてきてください。」
右手を振り下ろし、彼は白衣をなびかせて裂いた空間の中に入ったのであった。このような能力を持つ人は少ないのでまず、ついてはこれない。
だが、世の中例外というものも存在する。
「ってうわぁ!」
そう、使い手の体の一部分を掴み、共に空間に入ればどこまでもついていけるのである。
「・・・放しません。」
そういって短いスカートからのびる長い足で雪那の腰辺りをしっかりホールドした氷は手を首に回して後ろから抱きつくような感じになる。
「ちょっと!女の子がそんな大胆な・・・押し付けないでください!や、やめて・・・・」
「・・・許してくれるまでこのままです。」
公衆トイレの男のところに来たので今のところ人がいないのが救いだろう・・・彼はトイレの中で暴れまくっていた。
「放してぇ!」
「そのまえにあたしを許してください!」
そこへ、子連れのお父さんがやってくる。
「あ・・・・。」
「・・・。」
「し、失礼しました!!」
雪那はさっさと空間を裂いてその場から離脱・・・向かった先は自室であった。
「・・・・僕が悪かったです。いじけすぎましたから降りてください。」
「・・・・本当ですか?あたしのことを許してくれるんですか?」
「許します。さ、早く手遅れになる前に下りてください。約束ですからね?」
雪那はベッドの上に氷を降ろす。降ろされたほうの氷は辺りを見渡し、そこがベッドだということに気がついて意味深な視線を雪那に向けてそのまま自分はベッドに仰向けになって眼を瞑ったのであった。
「・・・はぁ、何やってんだか・・・ほら、起きてください。」
「初めてなので・・・・」
「初めてって何が!」
「・・・・。」
とうとう、黙ってしまった。ごくりと飲み込んだつばの音で雪那は自分の顔を思いっきりなぐって平常時を保っていた。
「・・・お茶、持ってきますから待っててください。」
そういってその場を後にしたのであった。
お茶をついで戻ってきた雪那は服を脱ぎだしている氷に絶句。後ろから別の用事でやってきた彼の母親もそれを見て絶句。
「・・・雪那・・・・。」
「母さん、待って!その危ない刀、しまおう?ね?僕をぶったたこうがたたっ切ろうが・・・事実は変わらないって!あ、そ、そういう意味で言ったわけじゃ・・・・違うの!違うの!僕がやったわけじゃないっていう事実で・・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
夜空に月が浮かんでいるのをぼんやり見ながら雪那はそんな綺麗な夜道を歩いていた。久しぶりにみた修羅の顔・・・最後に見たのは酔っ払って帰ってきた父さんに制裁を食らわしていたときだろうか?実に、自分が未熟なのか理解できる。
「・・・雪那さん、大丈夫?」
「・・・うん。」
心配そうに聞いてくる元凶、氷に対して雪那は死んだような・・・いや、実際にたたっ切られたのは間違いなくて、一度死んでしまったかもしれないのだが・・・返事をする。
「・・・本当に大丈夫?」
「・・・うん。」
「あたしの裸、見た?」
「・・・うん。」
「・・・・雪那さんってエッチ?」
「・・・うん。」
何を言ってもどうやら
「・・・うん。」しか返ってこなさそうなのだった。それに対して氷は何か対策はないものかと考える。
「・・・・雪那さん・・・あの・・」
「・・・うん。」
「学園長が・・・そこに・・・」
そういうと隣に居た雪那はあっという間に姿を消した。
「・・・・いませんよ。冗談です。」
そういうとどこにいたのか再び姿を現す雪那だったが、先程の状況から回復したようであった。その眼には狩られる側の弱者の瞳が覗いている。生き残るにはどうしたらいいか・・・捕食者を撒くにはどうすればよいか・・・全て計算されているようでもあった。
「・・・・あの、雪那さん?」
「何?あ、ばあちゃんがいたら教えてね?」
「嘘ですって。それより・・・あたしの裸、見ましたか?」
「残念ながら、見れなかったよ。」
そうはいっているのだが、未だに自分の祖母を警戒している雪那。甘い言葉とばあちゃんには気をつけないといけないのである。
「・・・・警戒レベル1・・・安全と・・。」
ようやく警戒を解いた雪那であったが・・・そんな雪那に不満そうな顔をする氷。
「・・・・ぶぅ、あたしがんばったのに・・・」
「そうだった!大体、何で服を脱ごうとしたんだ!」
「え、雪那さんって着たままがいいんですか?」
「そういうことじゃなくて・・・・」
どう説明したものかと悩む雪那は困っていた。ここでまた
「名前と顔しか知らない相手でしょ!」といえば間違いなく付きまとわれてしまうだろう。困ったものだと思っていた。
「・・・・とりあえず、友達の部屋では服を脱ぎません!」
「友達って・・・許婚ですよ?」
「そんな、白々しい・・・って、冗談です。冗談!」
泣きそうになる彼女をなだめて雪那は帰りたい一心を抑えて歩き出した。
「・・・・早くあなたの家に行きますよ?」
「え!今日はとまっていくんですか?」
嬉々としている氷に雪那は首を振る。
「とまるわけないじゃないですか!」
「確かに、お泊り道具を持ってきてませんね。」
こういう人だったのかと彼は思いながら答える。氷の人物像が彼の中で崩れる。
「早く帰らないと家の人が心配しますからね。」
氷の大きな家の前にようやく辿り着いた雪那は氷にさようならと告げて帰ろうとした。
「・・・また、会えますよね?」
「さぁ?それはわかりませ・・・大丈夫です、会えますよ。」
また泣き出しそうになっている彼女に対して雪那はそう答えたのであった。勿論、愛想笑いをしながら・・・
何とか、仲直りすることができた雪那だったのだが、話はまだ、これで終わらない。




