五、格式張った許婚制度が似合わなかった男?
五、
目の前に対峙する相手はずっと目を閉じていた。少年はふと、上を見上げた。いつの間にそんな天気になっていたのか、空からは白い雪が降ってくる。
「・・・始め!」
近くにいる老人が手を振り落とす。そして、彼は目の前の少女を見据える。
勝負は一瞬だった。
彼の目の前に相手は倒れ、彼が着ていた白衣を紅に染める。あれから、十年・・・。
雪那は呼び出されたファミレスで居心地悪そうに座っていた。目の前にはいつかのように対峙していた相手の成長した姿があった。
「・・・・。」
「・・・・。」
「雪那、許婚のことで思い出したんだが・・・そういえばお前が許婚を却下したんだったな。」
「う・・・確かに・・・そんな記憶が・・・」
雪那はそういって目の前にいる相手を見ないようにオレンジジュースに口をつけたのであった。氷が完璧に解けてしまったのか知らないが、とても薄い。
相手は眉一つ動かさずに雪那の手元を眺めている。
「・・・・。」
「わざわざ、決闘を申し込み・・・・お前を好いていた相手からお前は逃げたんだったな。」
「・・・そ、そうだったかな?僕は忘れちゃったよ・・・あはは・・。」
命の危険にさらされているような感じがしてならない彼の身としてはどうにかしてごまかさないかぎり、怪我ではすまないかもしれない。
「・・・そういえば、なんで僕は呼び出されたの?」
「簡単じゃ、お前の“元”許婚のリデリアがお前に決闘を申し込みに来たのじゃ。」
「け、決闘って・・・」
「ドラゴン族の娘じゃからなぁ、プライドが許さないんじゃないのか?」
「・・・・。」
それに対しても無反応なのか全くしゃべらないリデリア・D・ハートネス。以前は明るい子だったかな?と考えている雪那だった。
「決闘って・・・大体、今度は何をかけてしようっていうんだろ?」
はて、あの時は何をかけて決闘をしたのかさっぱり思い出せない雪那はおばあさんから小突かれたのであった。
「・・・ばかたれが・・お前が決闘に負けたら当然のように相手の思うままじゃ。」
「じゃ、じゃあ・・・僕が勝ったら?」
「・・・拙者が負けたら腹を切ります・・・・」
ようやく凛とした声が聞かれ、雪那は表情を見るために相手のほうに顔を向ける。
「・・・・腹って・・・別に切らなくても・・・それに、腹を割って話すの間違いじゃ?」
「雪那、お前は馬鹿じゃ。まぁ、なんにせよ・・・雪那はその決闘を受けるのか?」
「できれば受けたくないんだけど・・・」
「リデリア、このように雪那は非常にお前との戦いを求めている。場所は私のほうから用意させてもらうからまた、報告してくれ。」
「わかりました。それでは、拙者は失礼します。」
そういってリデリアは他の二人の会計も終えて先に帰っていったのであった。
「・・・・ばあちゃん、リデリアのこと全然思い出せないんだけど?」
「まぁ、そうじゃろうな。おぬしに負けた後、リデリアはこの地を去り、今まで毎日修行を積んできたそうじゃ。よほど悔しかったのじゃろうな。とりあえず、雪那・・・まぁ、今のおぬしじゃダメじゃろう。」
「確かに・・・。」
雪那はリデリアを切ったときにそれがトラウマになって女の子だけは切ることができなくなったのである。
「でも、それはリデリアに教えないでね?」
「む、何故じゃ?」
「当然、そんなことをしったら見た目がちがちで律儀そうなリデリアは絶対に決闘を続けないだろうからね。」
「おぬし、切り捨てられたらどうする?」
「・・・いや、なんとかするよ。」
それ以上、何もいわずにかれの祖母は首を振ったのであった。勿論、それは雪那が何か考えを持っていると知っているからではなく、その
「なんとかするよ。」がその場しのぎだということを知っていたからである。
そして、決闘当日・・・あの日と違って晴天である。雷でもなって中止にならないかなぁと思いながら決戦の地・・・彼としては来たくなかった女子学園に舞い戻ってきたのであった。場所は屋上。観客付であった。
「・・・・・。」
雪那としては声も出ないくらいである。
「・・・ばあちゃん、この人たちは?」
「うむ、面白い余興があると連絡しておいた。」
氷、瑠美子、芹奈であった。
「・・・・彼女たちは黙っておく様にいっておいたから、応援もしないが・・がんばれ。」
「・・・結果は見えてるけどね。後は何時に、終わるかだよ。」
既に決闘の地に来て精神統一をしている相手に頭を下げて雪那は相手を見据える。
「・・・両者、始め!」
そんな声が聞こえ、決闘は始まったのであった。
「でやぁぁぁあ!!」
先に仕掛けたのはリデリアのほうであった。それを雪那はよける・・・まぁ、彼の場合は元からよけるしかできないのだが・・・無論、ばれないように刀は所持しているがそれは木刀であった。
「はああああ!!」
「おっと!」
雪那の前髪が切断され、空に舞う。あたっていたらしゃれにならないだろう。相手の間合いから離れて気がつけば自分が屋上の隅にいることに気がつく。
「・・・!」
「だぁぁぁぁぁ!!」
相手の刀が迫ってきていたので雪那は屋上から飛び降りた。
「・・・・!!!!」
観客の三人は慌てて雪那の落ちたところから下を見るが、雪那の姿はなかった。
「ふぅ、死ぬかと思った。」
いつの間にか反対側の屋上の隅にいる雪那を見て三人はため息をついたのであった。
「・・・・・雪那殿、真面目にやっておられるのか?」
「も、勿論・・。」
「あの時と違い、一撃で終わらせようとしないのは何故であろうか?」
「それは・・・その、戦い方を変えたというか・・・・」
あなたのせいですとはいえずに雪那は黙り込んでしまった。
相手としては余裕の表れかと勘違いし、再び、雪那に踊りかかる。ぶれるその姿を見極めながら相手の刀のないところに体を割り込ませるようにして逃げ惑う雪那。情けないことこの上ないが、そう簡単に切られてはたまらないのである。しかし、白衣を一寸も切られていないところはさすがというべきだろうか?
「たぁ!やぁ!」
「うわっ!」
全てぎりぎりで交わして隙を見て離れる。前言撤回・・そろそろ危なそうだ。
「む、やはりふざけているのでは?あの日、拙者のプライドをずたずたにしたように・・・。」
「・・・リデリアさんのおかげであの日のことを少しばかり思い出せたような・・。」
決闘をした理由を思い出した雪那。実際のところ、次のようなことがあったのだ。
「雪那、お前の許婚は百年に一度の逸材でな、伝説の存在だ。よかったな。」
「・・・でも、あの人、ちょっと我が儘だよ?自分より、小さい子を虐めてたし・・僕、そういう人は嫌い!」
「それなら、お前が正せばいいじゃないか?あの子は素直に受け入れるぞ。」
「うん!」
そして、小さいころの雪那は勝ったときに倒れているリデリアに
「僕(我が儘な)君が大嫌いだ!」とだけいったのであった。重要な部分を言いそびれていたのである。
「・・・なんとなく、あの時切って正解だったのかな?」
馬鹿らしくなった雪那は何を思ったのか、木刀を相手に投げつける。当然、一直線しか進まないはずの木刀を相手は軽やかなステップでよけ・・・
「うぐっ!!」
唐突に食らった右肩への一撃を気力でカバーし、リデリアは後ろにいるであろう、相手に刀を振り落とす。そのわき腹に、さらに一撃・・・・
「・・・・次元切断流奥義 壱ノ型 武迂眼乱!!」
木刀を腰に差すような仕草を見せて屋上に白衣をなびかせる雪那。相手はその場に膝をついていた。
「・・・そこまで!雪那の勝利・・・」
「くそう!!」
本当に腹を切ろうとしているリデリアだったのだが、手にしている刀、腰に差している刀が二本とも、粉々に砕けたのであった。
「腹を切る前に、僕からあやまりたいことがあるんだ。」
そういって雪那はリデリアに話しかける。
「・・・また、拙者に情けをかけるつもりか?」
「いや、このままあの世に旅立たれてうらまれる前にリデリアさんに言っておかなくちゃいかないことがある。僕はあの時、君に『我が儘なところを直して欲しい』と言ったつもりだった。ただ、それだけだよ。じゃ、僕はこれで・・・ここ、女子学園だから僕のような男がいるといけないんだよね。」
こっちに走ってこようとしていた三人に対して何も言わずに雪那はさっさと空間を切断していなくなったのであった。その場には、きょとんとした表情のリデリアと他の三人、そして、この学園の主が残っていたのであった。
自分の部屋で久しぶりに掃除をしていた彼の耳に母親の声が聞こえる。
「雪那、あなたの友達が遊びに来たわよ?」
「はーい、わかった。」
カズマが久しぶりに遊びに来たのだろうかと思って彼は下に降りたのだが・・・・そこで、眼を疑った。
「・・・葛籠さん、余山さん、柏木さんに・・リデリアさん?」
とても嫌そうな顔をして雪那は空間を凪いだ。そして、そこに飛び込んだのであった。勿論、出て行けといわれて学園から家に帰ってきてその追い出した相手を許してそのまま仲良く遊べるような軽そうな性格をしていない雪那なので顔を見るのも嫌なのである。向かった先は当然、学園長室であった。
「おや、珍しく怒ってるね?どうかしたのかい?」
「どうかしたのって・・・ばあちゃん!何で僕の家を教えたのさ!あの人、僕を追い出した人だよ?」
「ふぅん?あれはお前が自分で出て行ったんじゃなかったのかい?もとから女子高はいやだって言ってたじゃないか?」
「そりゃいったけど、他の女子高ならよかったなって・・とりあえず、友達でもない相手と僕は一緒にいたくないよ。」
そういうとどこかのコンビニで彼女たちが帰るのを待つことにした雪那はさっさと空間を凪ぐ。
「まぁ待ちなさいって、ほれ、この書類を見なさい。」
「ん?」
それは一族全員が持っているいわば、証明書のようなものだった。これには個人的な事も書かれているし、許婚の情報も書かれていたりする。
「・・・許婚の欄がいつの間にか埋まってるって・・・!え、何であの三人とリデリアさんが入っているの?」
許婚予備軍としてあの三人の名前が書き連なっていたのであった。
「一夫多妻じゃないぞ?この中から選べ。」
「・・・・・。」
「学園を守る仕事もあるが、それはお前の親戚たちで補わせる。つまり、お前はこの四人を基本的に守ればいいということじゃ。」
「そんな・・・・大体、あっちのご両親に話はしたの?」
「当然じゃ、どこに表向きは財閥の一族に入ることができるというおいしい話を蹴るものがおろうか・・それに、一度は助けたということも事実じゃ。」
まぁ、芹奈の場合はカンニングを手伝った感じなのだが・・・
「不満か?」
「不満じゃないけど・・・追い出されたってことだし・・・大体、葛籠さんは僕を完璧に嫌ってるじゃないか?」
そういうと学園長はため息をつき、こう告げたのであった。
「・・・明日は日曜日じゃろ?近くの田丸公園にこい。」
そういって姿を消したのであった。




