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四、白ける場所が似合う男

四、

 昼休み、雪那は学園長室のおくの部屋でぐでっとすごしていた。寝不足である。

「・・・・う、う、うん・・・きつい・・・きつい・・・ちょっと気合を入れすぎて見すぎたかな?」

 そういって誰もいないことを確認する。しかし、ここはまだ敵地・・・容易にエロ本などを取り出せば一刀の元に学園長に切り捨てられるに違いない。もちろん、雪那も・・・

「・・・我慢だな。ここは我慢、忍耐、指をくわえるんだ!」

 そうしていると隣の部屋の学園長室の扉をノックする音が聞こえてくる。

「・・・おっと、人が来たようだ・・・でも、誰だろ?」

 静かにしているとその人物は勝手に中に入ってきたらしい。

「・・・・強盗か?」

「・・・雪那君?いるんでしょ?」

 声に聞き覚えがあったのだが、なかなか思い出せない・・・と、そういえば二日前に聞いたことがある声であった。

 ゆっくりと隣の部屋に通じる扉を開けるとそこにいたのは氷であった。

「・・・・あ、葛籠さんですか?学園長に何か用事でも?」

 そういって彼はおぼんと湯飲み茶碗をどこからか取り出してソファーに座るように促す。

「どうぞ、座ってください。今、お茶を入れますから・・・。」

「いえ、結構。私はあなたに用事があります。」

「はぁ、わかりました。」

 そういって雪那もソファーに座ったのであった。

「どういった用件で?」

「この前のお礼を言いに来ました。」

「別に結構ですよ。前にもあれは僕の不手際だといったではありませんか?こちらこそ、早めに犯人の居場所を特定していれば葛籠さんに不快な思いをさせないですんだはずですし、まだまだ、僕がいたら無かったことが原因です。だから、未だにお昼も白ご飯だけなんです。」

 詳しく事情を説明した際に不手際だと伝えたはずだと雪那は思っていたのだった。

「・・・・いえ、私が悪いんですし・・・・でも、男のあなたがここにいることはいけないことだと思っているんです!生徒会長として!雪那君、スケベですよね?」

 お茶を飲んでいた雪那は思いっきり吹いた。

「・・・げほげほ・・生徒会長さんだったんですね・・・げほ、た、確かに僕がここにいることはいけないことです。ですが、さすがにそれは・・・・僕のばあちゃんが承諾してくれるとは到底、思えません。僕のほうでも色々としてみたいことがあるんですけどできないんですよ。これは由々しき事態です!蛇の生殺しなんです!僕だって、彼女がずっといないのに・・・挙句の果てに、僕は学校に行けていないんですよ!」

 理不尽な怒りを氷にぶつける雪那。言ってて日ごろの鬱憤をはきだしたらしい。

「・・・・そうですか、ですが・・・・生徒会長としては男であるあなたの存在自体がやはり、まちがっていると思うんです。」

「・・・わかりました、僕が学園長を探してきますから・・・おとなしくしていてください。」

 そういって雪那は空間を凪いでいなくなった。


 学園町の姿は見えず、困ったことになったものだと屋上でため息をつく雪那。この時間帯は授業をしている時間帯であろう。だが、誰かが屋上にやってきたようだ。

「やばっ!不良生徒か?」

 この学園にそのような輩はいないことをしらないのか、雪那は慌てて空間を凪いでその場から退避したのであった。

 彼は別に今日ぐらい外にいても構わないだろうということで学園外に出たのであった。

「いやぁ、やっぱりあんなことを面と向かって言われたらさすがに傷つくわな。」

 そういって角を曲がろうとして・・・誰かとぶつかりそうになった。

「すみませんって・・・・カズマ!」

「お、雪那か?お前、こんなところで何しているんだ?噂じゃ、あの学園に隠れて住んでるって言ってたぜ?」

 そういってやれやれというしぐさを見せる彼の友達、カズマ。

「・・・・まぁ、確かにそうだけど・・・なんなら、来る?」

「いいのか?」

「うん、別にカズマなら問題ないだろうし・・。」

 彼は空間を凪いで手招きした。

「お、やっぱり雪那は便利だよな。まるでドラ○もんだな。」

「ま、この空間に好き好んで飛び込んでくるのはカズマくらいだよ。」


 今では雪那の部屋となっているところで彼の友達であるカズマはため息をはいていた。

「はぁ、やっぱりお前も大変だな。俺も大変だけどな。」

「うん、ここの生徒会長にばれてね・・・・・まぁ、ばれたっていうよりばあちゃんが話してたんだけどね。僕としてはこのままいってどこにつくかさっぱりわからないよ。」

 そういって雪那はカズマのほうを見てため息をつく。

「しかしまぁ、カズマも綺麗になってもんだよねぇ。」

「ふ、お世辞を言われたって俺は何も出さないぞ?」

 開数あかず 真奈美まなみ。雪那とは小さいころからの付き合いで、男兄弟の仲で育った彼女は何時しかしゃべり口調が男じみたものに変わったのである。まぁ、中身は女の子なのだが・・・。

「でも、お前も女子高にいるんだし、誰かと発展したんじゃないのか?」

「そりゃないよ。大体、この学園にいるとしても、基本的に僕は怪談話のようなものさ。誰かに正体をばらしたり、ばれたりしたら命に関わる。」

「その知った人間がか?」

「いや、僕の命が危ない。」

 そういうと首をすくめるカズマ。

「ま、お互い大変なのはわかったけど・・・・来月、お前の許婚が家に来るっていってたぞ?」

「あ、そうなんだ・・・でも、母さんたちはそんな話してなかったけど?」

「そうだろうな。」

 彼の一族は代々、許婚という制度をとっている。古臭い手かもしれないが、そうしないと色々と大変なことになるのだ。

「あ、思い出したけど・・・僕には許婚がいないんだった。」

「・・・なんでだ?」

「・・・・なんだかさ、手違いで・・・いや、なんでだったかな?」

 これも由々しき事態なのだ。

「ま、お前が元気だったっていうのはいいことだ。雪那、たまには俺に連絡してくれよ?」

「勿論・・・といいたいけど、携帯がとられちゃったからなぁ。」

 ぶつぶついっているとカズマは立ち上がったのだった。

「じゃ、俺は帰るよ。」

「そう?まだいてもいいんだけど?」

「いや、おいとまさせてもらう。」

「わかった。それなら送ってくよ。」

 そういって空間を凪ぐ雪那の横顔を眺めながらしばし考え込むカズマ。

「・・・・まだ、選択の余地はあるってことかな?」

「?」


 カズマもいなくなって独りで寝転がっているといきなり扉が開いた。

「・・・・あ、葛籠さん・・・すみません、まだ学園長を見つけていないんです。」

 そこに立っていたのは氷であった。

「・・・・あの、何か?」

「先ほどの方は誰ですか?」

「はい?ええと、あれは・・・僕の友達ですけど?心配しなくても女の子です。さすがに、男子友達を入れるようなことはしませんよ。」

「・・・そうですか、それなら結構です。それと、このナイフを返しに来ました。」

 そういって一本のナイフを差し出す氷。それをじっくり見てから雪那は呟く。

「・・・いりませんよ。」

「え?」

「・・・そのナイフは確かにあなたを助けた人物が所持していたものです。ですが、それは僕ではない。矛盾しているようですが、そのナイフを僕が貰ってしまうと後々、僕が辛くなってしまうんです。だから、もらえません。」

 丁寧に断って氷に笑いかける雪那。

「・・・よろしければあたしにその理由を教えてもらえないでしょうか。」

「いいですよ・・・僕、やっぱりここを出て行くことに決めました。ま、僕たちの一族には色々あってですね、そろそろ、許婚と会うような時期なんです。ですが、僕の場合は手違いで相手がいないんですよ。僕はおおげさでうぬぼれているかもしれないですけど、女の人から貰ったものは必要以上に大切にする性格なんで、出て行こうとする場所でそんなものを貰いたくないんです。そのナイフを見るたびに思い出しますからね。別にあなたのことを好きだとは思っていません。でも、やっぱり話していたら友人関係であるのはまちがいないと僕は思っているんです・・・荷物を整理したいんで、出て行ってください。」

「でも・・・」

「出て行ってください。」

「そんな・・・」

「・・・・。」

 空間を凪いで作った狭間に相手を押す。向こう側に見えるのは学園長室の廊下であった。

「・・・お騒がせしました。ばあちゃん・・・いえ、学園長には私からいっておきます。」

 空間が閉じ、雪那の前から氷が姿を消したのであった。

「やれやれ、あとは鍵を閉めて終了!」

 学園長室の鍵もかけてこれで誰も入れなくなった密室の完成であった。

「・・やれやれ、お前は本当にそれでいいのかい?」

 気がつけば学園長がソファーに座って雪那を見ていたのであった。

「うん、許婚だって僕にはいないんだからね。自分で彼女くらい探さないとさ・・・。」

「適当に娘を拾ってくればよいではないか?それに、許婚は・・・」

「いや、そうそう落ちてはいないと思うけど?」

「・・・じゃ、余山か柏木を嫁にでも貰ったらどうだ?もしくは、カズマとか言う女は?」

「いや、知り合いであって彼女じゃないんだから・・・ダメダメ。」

 そういって雪那は自分の家に帰る準備を始める。

「ばあちゃん、とめないの?」

「まぁな。許婚がいないのも事実じゃしな。それで、龍の娘っ子とか知り合いはいないのかい?もしくは、思い出せないか?」

「いないいない。とりあえず女の子の知り合いはカズマとかぐらいだし・・・あ、余山さんに連絡入れといてくれないかな?」

「俺の愛を受け取って欲しいと?」

「そうじゃなくて・・・おせわになりましたっていってほしいんだ。」

 実際のところはお世話になっていないのだが、こういうものは気持ちの問題である。

「他の二人は?」

「柏木さんには一緒に勉強ができなくなってごめんと・・・・生徒会長にはなにも言わなくていいよ。追い出したかったんだからね。」

 どこか恨めしい響きを残しながらそんなことをいう雪那だった。

「じゃ、ばあちゃんには悪いけどこの学園からは去らせてもらうよ。今度はまともな仕事を用意してきてね。」


 狭間の空間から校門の前に出ようとして近くに氷がいることに気がついた雪那は慌てて引っ込んだ。そして、そのまま直行で自室の部屋に姿を現す。

「・・・やっぱり、誰も掃除とかはしてくれてないんだな。」

 散らかった部屋を眺めながら雪那はため息をついていた。彼の部屋にはガン○ムのポスターがあったり、古風な虎の置物があったりととても趣味がさまざまであった。

「しかし、久しぶりとはいえ・・・懐かしいなぁ。一ヶ月は経ってるし、うれしいなぁ。」

 そういって彼はベッドに倒れこんでそのまま寝てしまったのであった。勿論、疲れていたこともあるし、面と向かって女の子からいなくなってしまえ!的なことをいわれたのもショックだったのである。


 夢の中では龍に追いかけられまくっていた雪那はようやく眼を覚ました。外は既に真っ暗である。

「・・・・ふぁ、やれやれ・・・ねちゃってたのか・・・」

 そういって荷物を降ろして夕食を食べに下に降りていった。

「・・・余山さんや柏木さんには悪いけど忘れないとな。彼女たちと僕は大体、住む場所だって違うし。」

 うんうんと頷きながら今の時間帯は家にいないだろう家族を探すこともなく彼は一人で食事の準備をする。

 今日の夕飯はハンバーグであった。無論、作ったのは雪那自身であるが・・・

「やっぱり、味は余山さんのほうがうまいな。それに・・・。」

 手に持っているナイフを見て氷のことを思い出す。

「はぁ、なんでこうなるんだ?」

 そして、唐突に鳴り出した電話に首をすくめる雪那。

「・・・・母さんたちかな?」

 電話をとれば相手は学園長・・・なにやらよからぬことが起こりそうな雰囲気に彼は首を振りながら挑んだのであった。


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