表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

二、白飯が似合う男?

二、

 彼がこの女子学園にやってきて一週間が過ぎた・・・誰にも名前を覚えてもらえず、今日も彼は他の生徒が授業をやっている時間帯に屋上で寝転がっていた。

「・・・平和だ・・・あれから一週間も経ったのに・・・女子高に男子生徒がやってくるというこの一般的なギャルゲーの感じなのに未だに女子生徒の名前を知らないどころか相手も僕のことを知らないなんて・・・・一種のいじめではなかろうか?」

 そういって寝返りをうったのであった。別に女子生徒との交友を禁止されているわけではないが(勿論、学園外である。)もとから口先だけのこの雪那は思い切って知らない女子に話しかけることなど出来なかった。遠くから見るだけである。

「・・・・明日は明日の風が吹く・・皆、どうしてるかな?」

 自分がもといた高校の友達の顔を思い出す。あっちの学校での知り合いはほとんど男子生徒しか知らないが、馬鹿をやったりもしたものだと懐かしんでいたりもするのだが・・・

きーんこーんかーんこーん!

「おっと、お昼か・・。」

 そういって彼はいつものように空間を凪ぐと屋上から姿を消す・・・と、同時に誰かが屋上の扉を開ける。

「あれ?誰か今いなかった?」

「気のせいじゃない?」

「あ、それって噂の次元魔でしょう?」

 因みに、怪談話『次元魔』ということで彼の存在は知られていたりもするのだが・・そのことを彼は知らなかったりもする。


 場所は変わって学園長室。彼の祖母は学園長をやっていて恐ろしい人物だと噂されており、この時間帯は誰もこの部屋の前を通ることはない。

「・・・・ばあちゃん、僕・・・さすがに毎日毎日白ご飯は飽きるよ。」

 彼の茶碗の上には何ものっていない白いご飯がのせられている。それにたいして彼のばあちゃんはとあるものを取り出す。

「・・・ほれ、これが欲しいんじゃろ?」

 一枚の皿が取り出され、その皿の上にはおいしそうなハンバーグがおかれていた。それを見て雪那の目の色が変わる。

「ちょ、ちょうだい?」

「そうじゃのう・・・あげてもいいが・・・・交換条件じゃ。」

「う、うん!勿論!僕の白ご飯、あげるから!」

 そういって箸を伸ばす雪那の手に刀が引っ付く。

「・・・・。」

「話も聞けない坊主の手はこれかのう?手癖の悪い人間の末路はどれもろくでもないものじゃ。おぬしも当然、それを知っているだろう?」

「はい、心得てます。」

 そういって箸を引っ込めて床に正座をする雪那。

「うむ、そういう殊勝な心がけがよい人間関係を作っていくのじゃ。」

 主従関係の間違いではないのだろうかと思ったのは心の中の雪那である。

「このハンバーグはのう、今日の四時間目に調理実習があった際にとある生徒が作ったものじゃ。そのこは・・・ストーカーにあっているそうでのう・・」

「りょ、了解!自分はそのストーカーをみじん切りにしてまいりますので、その御手にある神々しきおかずを愚劣な僕にください!」

「うむうむ、物分りのよい孫を持ってわしは満足じゃ。いつでも死ねるわい。」

 そうですか、それならさっさと川を渡ってくださいと思ったのはほかの人である。

「ほれ、味わって食べろ。」

 渡されたハンバーグを何回も何回も鼻で食べ、そしてようやく少量を口の中に入れる。甘口のソースと適度に焼かれている内部が彼の口の中でハーモニーを生み出していた。さめてはいるが、これはうまいと眼の端に涙をためながら雪那はこの幸せを噛み締める。

 一段落ついたのを見計らって学園長は雪那に仕事を告げたのであった。

「・・・この学園の一年生・・・名前は余山よやま 瑠美子るみこ・・・歳はお前さんの一つ下の女の子・・・両親は仕事で海外、今は一人暮らしじゃ。部活にも入っておらず、その時間帯は一人で帰宅・・・・情報によると、ストーカーにあっているのは以前からではなく、ここ数ヶ月の間らしい。日に日にエスカレートしてきており、私からの意見としてはそのストーカーが彼女と接触するだろうな。何をするかわからないから気をつけるように・・・・・そのストーカーの処分はお前に任せる。」

 そういって多忙な学園長先生は消えたのであった。先ほどの話をお皿を未練がましくなめなめしながら聞いていた雪那はうむといって立ち上がった。

「・・・よし、これは千万一隅のチャンス!彼女を現在進行形でストーキングしている奴を捕まえて・・・・」

 そこまでいって雪那の頬がゆるむ。だらしない顔の出来上がりだった。

「・・・・ふりかけを分けてもらおう!ひゃっほう!明日からはふりかけエブリデイだ!!」

 彼もまた、毎日の食事をいかようにしてすませるかという意外というか・・・なんというか・・・そういうサバイバル生活を送っていたりもするのである。


 本日の授業を完全に終えるチャイムが鳴り響き、部活生徒は部活に向かっていった。他の学校よりも授業時間が長いのでそろそろ月がその神々しい姿を現すころであろう。そして、ストーカー被害にあっている瑠美子が下駄箱に現れる。

「旅は道連れ世は情け・・・よっしゃ、お供しますよ。」

 屋上から完璧に校門を抜けるのを確認すると彼は空間を凪ぎ・・・立ち止まった。

「・・・・ん?俺もこのままだとストーカーじゃないのか?」

 彼はその当然の疑問に悩んだが・・・・

「・・・・日々の食卓を楽しく過ごすため・・・それはかけがえのない存在・・・余山さん、ごめんなさい!!悪いけど、僕が興味があるものはふりかけなんだ。」

 そういって彼は闇の空間へと身を躍らせたのであった。


 何事もなく知らされていた家まで残り半分といったところで彼女を監視していた雪那は誰かが彼女に近づいていることに気がつく。その男は手によく切れそうなナイフを持っていた。当然のように雪那は奇襲をかける。敵はあっけなくその場に倒れこんだ。

「・・・これで終わりか・・いや・・・そうじゃないみたいだな。この人は別か?」

 どうやらこれは長い帰路になりそうだと二人目の怪しい人物が瑠美子に迫っている。瑠美子に掴みかかり、瑠美子は悲鳴を出す。

「きゃあ〜」

「へっへっへ!」

「やめろ!この変態野郎!僕のふりかけライフのために・・・消えてもらう!」

「ぐはぁ!!」

 そういって掴みかかっていた男はその場に倒れる。あっさりと・・・

「あ、ちょっとやりすぎたかな?まぁ、僕の食卓を邪魔するような奴は月に代わっておしおきよってね・・さて、余山さん、怪我はありませんか?」

 その場でぽかんと雪那を見ている少女に雪那は片手を出す。

「あの、助けてもらったところ失礼ですが、どちら様でしょうか?」

 学園内ではその存在を知られてはいけないのだが・・・・学園外なら自由だと言われたので正直に告げることにした。

「・・・・あの恐ろしき学園長先生の孫の狭間 雪那です。」

 証明書として学園長と一緒に映っている写真を提示する。その写真は学園長が珍しく笑っており、雪那が引きつった笑いをしている一場面である。

「・・・本当・・・みたいですね?でも、なんで・・・?」

「いえ、実はですね・・・こほん、たまたま、ふりかけが欲しくなってですね?それで、ちょっと歩いていたらあなたが叫び声を出していたところを目撃しまして・・・それで、体当たりをしたんです。まぁ、背後から襲えば大体の敵は倒せます。」

「あの、その右手に持ってる細長いものは・・?」

 彼が右手に持っているのは彼の愛刀『虎雪羅舞こゆきらぶ』である。慌てて仕事道具を次元の狭間に放り投げる。実際はこれでぶったたいたのであるのだが・・・

「き、木の棒です。」

「そうですか・・・助けていただいてありがとうございます。」

「あの、これから警察にいきましょう?」

「・・・そうですね。」

 現行犯の男を引きづりながら(本当は空間に投げ入れて警察に突き出すほうが早い。)雪那は生まれて初めて・・・ではないが、女の子の隣を歩いていたのであった。

「・・・雪那さんでしたっけ?」

「はい。」

 彼は内心

「よっしゃ、獲物がくいついたぜ!」と心踊っていたりもする。

「あの・・・何かお礼をさせてください。」

 彼の心の中は飛び上がらんばかり・・・

「じゃ、お言葉に甘えて・・・・すみませんが、恥ずかしながらあなたの家にあるふりかけを・・・」

 そういうととても不思議そうな顔をする余山にようやく雪那は気づく。これは少し、頭のおかしい人間の言動ではなかろうかと・・・心の中では会議が開かれていたりもする。

「・・・これは由々しき事態だ。たかがふりかけをくれとは・・我々は少しばかり早計ではなかったのか?」

「うむ、しかし・・・一週間の白飯だけ・・・これが我々の神経回路を狂わせたのはまちがいないことだ。」

「そうだな、それに対しては早急に対策を練るべきだったと私は思う。やはり、今回はふりかけでどうだ?」

「馬鹿が・・ここは正義の味方として何も要求するべきではない。あきらめろ。」

「おい!我々は正義の味方ではないぞ!」

「それもそうだな・・・」

 まとまりきれず、結局雪那はため息をついて白衣から一枚の紙を取り出して彼女に渡したのであった。

「・・・これは?」

「お礼は・・・悪いんですけど、この番号に連絡してください。僕にもその・・・都合がありまして、あつかましいですが、何か食べ物を期待してます。」

 雪那にとってそれはとても恥ずかしいことだった。そして、交番が目の前にあることを確認するとさっさとその場からいなくなったのであった。無論、彼が次元の狭間に隠れたのは言うまでもない。

「・・・ふりかけ、惜しかったかな?」

 交番に入ったのを死角から確かめて彼はため息をついた。


 次の日、雪那は再び昼休みに白いお飯を食べていた。

「・・・この白ご飯の上にはサケのふりかけが載ってるぞぉ!サケのふりかけがのってるぞぉ!サケのふりかけが・・・」

 何度も何度も自己暗示をしながら食べていたのであった。今日は学園長が不在であったので、学園長の机を上から下までふりかけなどを求めて探した雪那だったが・・・残念ながら見つけることが出来なかった。

「・・・・ううむ、やっぱり僕には自己暗示は無理かな?」

 おとなしくご飯を食べ終えると彼は近くにあるトイレに行こうと学園長室の扉を開けた。普段は能力を使わずに歩かなければ両の足が飾りとなってしまうから何かがあるときでしか基本的には使用禁止なのである。だが、その日は使うべきだったかもしれない。

「あ・・雪那さん!」

「あ!」

 目の前に女子生徒が立っていたのを見つけると慌てて彼は扉を閉めた。そして、全身から吹き出る嫌な冷や汗をどうやって止めるか・・・いや、どのようにばあちゃんに説明するか考えていた。しかし、今から逃げればまだ大丈夫・・先ほどの一瞬では顔は見られなかったはずだ・・と思っていたのだが・・まぁ、名前を呼ばれたのは気のせいだ。

「あの、雪那さんですよね?」

「ば、ばれTELL!!至急、ばあちゃんに電話を・・いや、そんなことしたら僕が・・・」

 ぱにくる彼の後ろで扉を開ける音がした。

「学園長先生に会いに来てたんですね?忘れ物を渡しにですか?」

「・・・え?あ、そ、そうです・・ええ・・・ばあちゃん、そそっかしいから・・・・」

 背中に寒気を覚えて彼はそこで口をふさぐ。

「あの、余山さんはなんでここに?ばあちゃん、恐れられているんでしょう?」

「そうですけど・・・実は、雪那さんにこれを渡しておいてもらいたくて・・・」

 そういって一つのお皿を取り出す。

「これは・・・ハンバーグ!」

「ええ、そうなんです。本当は昨日作ったはずなんですけどね・・・先生が材料を買い間違えたらしくて・・もう一回、作ることになったんです。」

 渡されたお皿を本当に嬉しそうに受け取った雪那であった。

「あの、味の保障はできませんけど・・・昨日も学園長先生じきじきに私のところに来てもっていったから大丈夫だとおもいます。」

「大丈夫、昨日食べたから・・・・」

「え?」

「・・・・いえ、おばあちゃんが家で、そのようなことをいってましてね・・・あはは・・・」

 愛想笑いを浮かべて雪那は内心、このまま心労で死んでしまうのではないかと思ったのであったが・・・・

「・・・じゃ、ありがたくいただきますね?あ、もうその携帯電話の番号は必要ないですね。好きにして結構です。おっと、そろそろチャイムが鳴りますから教室へ・・」

 そういってちょっとだけ強引に瑠美子を追い出した雪那であった。喜びの舞を踊っていると彼はいつの間にか戻ってきている学園長に対して先ほどの机の謝礼をしたそうである。


小説を書くあたって、自分がとても苦労していることは登場人物の名前だったりします。あたらしい人物の名前を考えるたびに頭を悩まし、思いつかなかったりするんですよ。あと、雪那が使っている能力だって自分が小さいころに「どこでも○アがほしいな。あれがあったら便利だろうに。」と思ったからこうなっちゃいました。やれやれといったところでしょうか?とりあえず、二回目・・・読者の人にどのように移っているかわかりませんが、これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ