第3話 我が家の実態2
“我が家の実態”と兄は言った。
三歳児に言う話ではないのではと思いつつ、真剣な表情の兄を茶化すなんて出来るはずもなく、また今後の私に関わってくる可能性がある為、兄に抱っこされた状態ではあるが居住まいを正すことにした。
兄の話によると我が家は貴族ではないが、父が大手の商会を営んでいる為、それなりには裕福な方であったらしい。
“裕福な方であったらしい”と過去形なことから分かるように、今は裕福ではない。はっきりと言って、我が家の家計は火の車だとか。
……つまり、我が家は貧乏なのですね!?
それにしても、我が家が貧乏だったなんて気付かなかった。
今私達が住んでいる家は結構大きいし、家と言うか屋敷なんて言えるような広さを誇っているというのに、我が家って本当に貧乏なの?
普通貧乏って言ったら、こんなに大きな家には住んでないだろうし。メイドさんも執事さんも雇っている上に、庭師もコックさんも居るんだよ?
仮に兄が言うように、我が家が貧乏だと言うのならば、その原因って何なんだろう?
昔は裕福だったということは何かがあってお金を大量に使ったってことだから、その結果が今に繋がったってことでしょう?
「……にーしゃま(兄様)、にゃにがありましゅた?(何がありました?)」
「……覚えているか? 僕達の母親という人がどういう人なのか」
「かーしゃま?」
母と言われて思い出すのは、ベッドの中でいつも微笑みを浮かべている母の姿だった。
日に当たることが稀な母の手は白く、病的なまでの肌白さを持っているが、その手が見た目に反して温かいことを知っている。
庭に咲いた花を庭師に断り、一本だけだがお見舞いと称して渡すと、凄く喜んでくれて私のことを抱きしめてくれるのだ。
「あの人はもともと由緒正しい家柄の貴族の娘だ。実家では可愛がられていたみたいで、欲しい物は直ぐに買ってもらったりして手に入れていたようだ」
兄の言葉で浮かんだのは、大量のプレセントに囲まれた母であった。
何故か、そんな母は見たこともないというのに、高笑いしているというオプション付である。
「そんな母さんが働くことなく父さんと結婚して、実家と同じように……母さんにとってはそれが普通なんだが、今まで通りの生活を送っていたら、我が家の家計はどうなると思う?」
……おおぅ、原因は母の浪費癖だったんですね……。
貴族だと言う母の実家と、大手と雖も商人な父では、もともとの持っている資産なんかが違うはずである。
貴族でもお金をあまり持っていないところもあるだろうけど、話を聞く限りでは母に何でも買い与えていたという母の実家は有る方なんだろうな。
そこでの生活と同じように、嫁いでからも湯水のように使っていったら、そりゃお金が無くなるのも早いだろうね……。
「……みりゅみりゅ、おきゃねがなくなったというわけでしゅね?(見る見る、お金が無くなったというわけですね?)」
「つまりはそういうことだ。一応最低限必要なお金は父さんのへそくりから頂戴することになった。庶民が贅沢しない程度のお金になるが……やりくりすれば、どうにかなるはずだ」
へそくり……。
普段、滅多に我が家へと帰って来ることのない父を思い出そうとするが、これまでに会った回数が回数な為に無理だった。
最後に見たのは何時のことだったか……私が赤ちゃんだった時に見たような気がする。
そんな父の顔を思い出すのは無理だったが、今私の目の前に居る兄は父によく似ているとメイドさんとかが言っていたのを思い出した。
違いは髪の色と目の色ぐらいで、父は赤茶けた色の髪に灰色の瞳、兄は栗毛に青い瞳をしている。
特にそっくりなのが、眉間に皺を寄せるところなんだとか。
眉間に皺を寄せた父が母には内緒で、こっそりとへそくりを隠しているのを思い浮かべると笑えてきてしまうが、してくれたことは私にとってもありがたいことなので、こみ上げてくる笑いは咳払いすることで誤魔化した。
「それ以外にも僕や今後入学が決まっているお前の卒業まで学費とかは、また別に父さんが用意してくれているから安心しろ」
「はい、でしゅ」
父、苦労を掛けます。
でも、これも母と結婚した為と諦めてくださいね?
「で、僕が言いたいのはこの話もそうなんだが……」
この後、新事実発覚の連続でボーとしていた私だが、兄の驚き発言によって、更なる衝撃を受けることとなる……。
◇ ◇ ◇
「シシー、頑張ろうな」
「あい、でしゅ!」
母を乗せた馬車が見えなくなると、兄は私の頭を撫でてくれたので、私は笑顔を兄に向けた。
私こと、本名セシリア。愛称はシシー。
今年三歳になりました。
これから、兄と二人で協力し合い、頑張っていきますよ!