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第2話 我が家の実態



 三歳になりましたよ。

 赤ちゃん時代という、私にとっては思い出すのも恥ずかしい数々を乗り越えて、無事に三歳です。


 何時死んだのかは記憶にはありませんが、多分死んで今の私に転生したんでしょうね。

 ファンタジーな話ではよくあることと納得させて、二度目の人生を楽しむことにしました。

 いきなりの赤ちゃんには驚いたし、急に出来た美形な両親と兄には驚いたけれど、数年経てば色々と整理もつくものです……私の場合は。



「本当に良いのかしら?」

「母さんはそんなこと気にしなくて良いから。それよりも、自分の身体を労わってやってよ」

「でも……まだ十六歳の貴方と三歳になったばかりの娘だけで暮らすなんて、心配だわ」

「かーしゃま(母様)。わたしなりゃ、だーじょぶよ?(私なら、大丈夫よ?)」


 この度、私の母が田舎へ療養に行くことになった。

 元々は由緒ある家柄のご令嬢だったらしい母だが、私を生んだ後に少しばかり体調を崩し、ベッドで寝ていることが多くなり、そのまま病弱な身体となってしまった。


「良いから、良いから。何かあったら、隣の家の人に頼むから。

それに、こいつも三歳にしては手が掛からないって母さんも言っていただろう?」


 そう言いながらも、ぐいぐいと母を馬車に押し込んでいく兄の姿に、母の話を聞く気がないんだろうなと思った。

 過去に笑顔でない兄を見て心配した母が騒ぎ立てるという騒動があったらしく、出来るだけ母の前では笑顔な兄である。現在はその笑顔も、最初に予定していた出発時間が過ぎていくごとに、崩れてきている。


「そうね。でも……」

「じゃあ、今度会うのは僕の通う学園が夏休みになってからだね!

その時には、こいつも連れて行くから、ご馳走一杯作って待っていてよ!」


 まだまだ言い足りないのだろう母に構うことなく、兄は直ぐに馬車の扉を閉めて、早く出せと言わんばかりに前方に目で合図を送っている。

 その様子を横で見ていた私は昨日の兄との会話を思い出し、そっと溜め息を吐いた。




◇ ◇ ◇




 昨日夕食が終わった後、私は自分の部屋へと戻ろうと、よちよち歩いていた。

 大人にとっては大した距離でない私の部屋への道のりも、三歳という幼児の足では結構な距離だ。

 これは良い運動になるなと思っていると、ひょいと身体が誰かに抱きかかえられた。


「……うぬ?」

「ちょっとお前に話したいことがあるから、僕の部屋に行こうな?」


 問答無用で私を抱えて自分の部屋へと向かう兄は、行動と言葉が合っていないと思う。

 まだまだ歩幅が小さい私に比べ、もう大人に近い身体をした兄の歩幅だと随分違うものである。

 食卓がある部屋から一番近い私の部屋を通り過ぎて隣にある兄の部屋へと、スタスタ早足で歩いて行く兄の様子に、兄が早く話をしたいのだと私に教えてくれる。

 兄はそのままスピードを緩めることなく部屋に入って行き、私を抱えたままの状態で普段使っているだろうベッドに座った。


「さて、話だが。明日、母さんが身体を休めに遠い場所へ行くのは知っているな?」

「ん、りょーよーなにょ(療養なの)」

「……お前は相変わらず、年に見合わぬ難しい言葉を知っているな」


 母の療養は一ヶ月程前から分かっていたことなので相槌を打つと、痛い所を突かれた。

 どこか探るような様子を見せる兄からの視線が真正面から注がれて、冷や汗をかく。

 ……確かに、“療養”なんて言葉を三歳の子供が知っているはずないだろうね。

 だが、普通の三歳でない私にはボーダーラインが分からない。普通の三歳の子供は、何処までなら話が分かるものなんだろか。

 比較対象が居れば、何とかなるのかもしれないな……とか考えていると、兄に頭を撫でられた。その時には、兄の瞳に現れたものは消え去っていて、ホッとした。


「まあ良い。それより……お前も三歳になった。

来年には僕の通う学園の幼等科に入学することになるだろう」


 正面には至極真面目な顔の兄。

 母の前以外では……という前提になるが、普段から額に皺を寄せている姿の多い兄は今日も凄まじいものである。このままでは、その眉間の皺が取れなくなりそうだ。


「だから、今の我が家の実態を話そう」


 ……兄よ、確かに私は三歳になったし、来年は幼等科に入学するとは聞いているけれど、三歳の妹にそんな難しそうな話をしようとするのは、ちょっと間違っていませんか?




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