第1話:留学生達
短編で投稿した作品を改訂して連載にする事にしました。
拙作「小さな飯屋の繁盛記」の世界観を使っております。
登場人物においては飯屋のキャラも数人登場予定です。
俺の名前はダルクス=ストライト。
フランベルジュ王国の冒険者養成学校「クレイモア」の魔法科1年担当の新人教師だ。
クレイモアは貴賎問わず門を開くことでも有名な学園で、毎年多くの生徒を迎え、輩出し、
今では一つの学園都市を形成している。
ここで、簡単にクレイモアについて説明しておこうと思う。
学科は大まかに分けて「剣術科」「魔法科」「スカウト科」の3つに分かれる。
学科の中でも専門の課程は存在するが、1年の間に基礎を教えて、
2年次から各人の適性にあった過程をすすむってのが一般的なシステムとなっている。
魔法科教師って職業からイメージいただけるよ思うが俺も一応は魔法使いであり、
未来の魔法使いを育てるのが役目ってわけだ。
俺の目下の悩みは、今目の前で追試を受けている教え子達についてだ。
それは近年フランベルジュとの国交を開いたばかりの東方の島国、
ヒノモト王国からの第1期留学生である。
ヒノモト王国は約10年前に統一されてできた国家で、
それまではダイミョーという支配者達によって
統一を巡って長い間戦乱が繰り広げられていたらしい。
それを統一したのが現ヒノモト女王ツバキという方だ。
留学生が来るという事で国の情報を調べてみたのだが、
この人はまさに女傑だ。
統一後、フランベルジュを含めた周辺の列強国と対等の条件の通商・友好条約を結び、
不満を噴出させ侵攻を行ったカトラス帝国の軍勢を
サムライという剣士の集団の軍事力をもって撃破。
近隣にその名を美貌と共に轟かせた。
ヒノモトは剣術はともかく魔法の知識は低いらしく、クレイモアに2人の留学生を派遣した訳だ。
俺も担当の候補に選出されたときはびびったね。
何も伝えられなかったら教師として無能の烙印を与えられるようなもんだから。
しかし、やってきた2人ときたら癖が強いというかなんというか・・・
確かにねぇ、人間的には良い連中だよ?
国家の代表として来てるからか礼儀正しいし授業もまじめに受けてるし、
(見習え他の生徒!!)、
筆記の成績だって悪くない。むしろ優秀だ。
だけどねぇ・・・
「わ~い♪出来たよ~♪」
指定した魔法から明らかに逸脱した威力を行使する女の子、ミコト。
あのね・・・今やってるのは難易度の低い、物体を浮かべる“浮遊”の呪文だよ。
確かに出来てる。コントロールが外れて違う物に魔法をかけてしまった事は、
未熟と幼き故の過ちという事で大目に・・・
見れるかああぁぁ!!。
人形を浮かべる課題でどうして校舎が浮かんじゃうの?中の人達パニックになっちゃうよ!?
失敗にしてもこんな豪快な失敗する奴なんて見たこと無いよ!?
「ミコトはえらいの~。よく頑張っておる。」
空気を読まない台詞をはいているのは、
魔力が少ないため、ほとんど魔法が使えない老人、ゲンサイ。
クレイモアでは現役を引退した人間で経済的に余裕がある連中が
暇つぶしに入学することがあるので、
老人が孫に等しい年齢の者と机を並べるのはおかしい話ではない。
ミコトに比べて上達そのものはすこぶる遅いが、
勤勉で彼からすれば子供のような年齢の教師たちにも
頭を下げて教えを請う姿勢は俺自身も見習わなければならない。
で、何が問題だって?経緯は後日話すことになるだろうから簡単にまとめると、
この人、ミコトが剣術科の生徒達とトラブルを起こした際に、
不当にミコトを責めた剣術科の教師を纏めて返り討ちにしてしまった。
「剣術」で。
確か、剣術科の教師って元近衛騎士の隊長がいたり、騎士団から研修で来てる連中だったりで
フランベルジュの準精鋭が集まっているはずなんですけど・・・受ける講座間違ってません?
「わしより未熟な者に何を教われと仰るのですかな?」
ですよね~。
おかげで、自信失った面々が辞表書いて校長が慰留に奔走したって話もあるし。
彼に課した追試の課題は風の刃で標的を切り裂く”風刃”の呪文。
前を見ると目標とした人形の首が見事にない。
けどね。その後ろにある木々がまとめて薙ぎ倒されてるんですけど・・・。
しかも、ゲンサイの持っている杖がズタズタになってる。
「ふむ。修練用とはいえ脆い杖ですな」
あの・・・結構硬い木材で出来た杖なんですがね。
「わしの魔力に耐えかねたようですな」
んな訳あるか!!
例のトラブルでアンタの剣筋が鋭すぎて遠く離れた実習場の石壁にでかい傷が出来た事は聞いてるんだ!
しかも、その直後に呟いたのが、
「わしも衰えたな・・・」
って、全盛期だったら破壊できたのかよ!?
けど、小市民な俺は彼に突っ込みを入れる事が出来ない。
だって、怖いじゃん?
魔力の観点ではクレイモアの誰をも凌駕するミコト。
純粋な戦闘においてクレイモアの誰よりも強いゲンサイ。
ある意味最強な魔法初心者を他の教師陣から押し付けられた俺。
故郷にいる母さん。
俺、明日辞表書くかもしれない・・・。