リーア・ディショールダー
ミコトノ遺跡は謎の多い遺跡として世間に知られている。遺跡の大きさは世界で三番目に大きく、しかしこの遺跡が見つかったのはここ最近。おまけに何時の年代であるのかが、見つかってから3年にもなるというのに正確には解っておらず、様々な憶測が飛び交っている。
新聞屋などはそれを揶揄して「盲目の遺跡」などと呼んでいる。
「……センスな」
一昨日の新聞紙を読みながら、呆れるようにリーア・ディショールダーは呟いた。手に持っている新聞紙を折り畳んで、コートのポケットにしまう。
遺跡内である。
風化した色の建造物が並び、至るところに木々がそびえ立つ壮観な景色。山奥の山頂にあるため、遺跡は立体的で、木々の間からは澄んだ青空が広がっている。
「あーあ、骨折り損だったなあ。三日も粘りに粘った挙げ句、なーんにも出てこねえ。ベタって言えば、ベタなんだろうけど、実際に遭遇してみると、脱力するなあ」
ふう、とリーアは首を傾けて、抜けるような青空にため息をぶつける。
リーアが遺跡にやってきたのは、かれこれ三日前のこと。
なにかめぼしい宝物でも、あるいは掘り出し物でもないだろうかと、アジトから遠くはるばる、海を越え山を越え、ついでに大陸も一つ越え、とうとう到着した遺跡。
最初は意気揚々と遺跡を探検したのだが、一日目でやる気を削がれ、二日目に絶望し、とうとう今日は絶望を通り越して悟りにも似た諦めが彼の中に漂っていた。
「……まあ、三年も前に発見された遺跡なわけだし、金目のものがないのはしょうがないとしても………まさか本当に何にもないとは……」
リーアはポケットにしまった新聞紙の内容を思い起こす。
新聞にはこう書かれていた。
『イディオム公爵、遺跡の謎の探求に挑む!』
「これじゃあ、どっちが盗賊か、分かったもんじゃないな」
遺跡のある山の麓に、セリムという町がある。イディオム公爵とは、その町の貴族の頭領で、年齢はリーアと同じ19歳という若公爵だ。
彼は一昨日、どういうわけか突然にミコトノ遺跡の調査をすると言い出した。
盗賊家業を生業とし、世に顔が知られているリーアにとって貴族が近くにいるというのは危険な状況である。
そのため一昨日の宝探しは、公爵が調査を終了してから行ったのだが……。
いざ遺跡に来てみると、遺跡にはほとんどなにもなかった。
家や階段、その他、到底持ち帰ることのできない壁画など、それらを除いた全ての物という物がなくなっていたのだ。
その光景を目撃したリーアは愕然とした。元々そんなに値打ちのありそうなものはなかったが、それでも開いた口が塞がらなかった。
「まったく……知識もない素人の貴族が、どれこれ構わず持ち帰りやがって。やってられねえよ。商売上がったりだ」
苛立たしげにリーアは地面の小さな石ころを蹴って立ち上がる。
「ああ! やめだやめ! 空き家になんざ忍び込んでも、意味がない。こっちは観光に来た訳じゃねえんだ。帰る!」
踵を返して、ずんずんと足音を重く下り坂を進む。
ミコトノ遺跡の道のほとんどは両脇に木々が立ち並んでいる。かつての住人は、自然を尊重する思想を持っていたのか。現に、神を奉るように遺跡の中心には巨大な大樹がそびえ立っていた。
「くそぅ……これからどうするかな。金はもうほとんどねえし、帰りどうすっかなあ。泳いで帰るのは、ありえねえし……………………ん?」
そのとき、ふとリーアの耳に、自然が出さないであろう不自然な音が聞こえた。リーアは足を止め、耳を済ませる。
すると、不自然な音が、人の声になる。
(……もしかして、公爵が来たのか?)
すぐに、そうだ、と自分で答えを出すリーア。けれど、おかしいと思った。
今の時間帯は正午。
昨日の調査は昼下がりの、気温が涼しくなる時に公爵は調査にやってきた。
所詮は貴族の道楽と思っていたリーアにとっては、公爵の到着したことに、疑問を感じたのだ。
(どうするか……)
腕を組んで、少しだけ考える。
盗賊ならすたこらせっせと逃げるのだが、もし公爵が来ているのなら、話しは変わる。
せっかく大枚叩いてやってきた宝探し。それを台無しにしてくれた貴族様の顔でも拝んで、ついでに悪戯でもしてやろうかと考えた。
「よし、だったら行くか」
善は急げ。
リーアは道の脇の木々に入り込み、声のするほうへ足を向けた。
リーア・ディショールダー
年齢:19
身長:179cm
体重:70kg
プロフィール:世界中で指名手配されている盗賊。黒の長ズボンに黒のティーシャツ。血のように赤いロングフードコートを着ている。武器は腰にさしている細剣で、型にはまらない剣術を使う。