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風船

作者: 碧い雲
掲載日:2026/10/20

『膨らみすぎた風船』


小さな手のひらから離れた風船は、 風に身を任せ、空へと昇っていった。


地上を見下ろし、こう思った。 「ずいぶん高くまで来たものだ」 「あいつらはまだ、あんな低い場所にいる」


昇れば昇るほど、 自分が偉くなった気がした。


風に乗っただけの軌跡を実力と呼び、 偶然の高さを努力の証と語り、 誰かに支えられていた過去さえ、 いつしか自分の力だと思い込んだ。


もっと高く。 もっと上へ。


誰よりも高くなければ、 自分の価値を証明できないから。


空気を吸い込むたびに、 膨らんでいくのは身体だけではない。 小さな風船の胸の中で、 プライドという名の空気が満ちていく。


地上から声が聞こえた。


「もう、そのくらいにしておけ」


けれど風船は笑った。 「嫉妬するな。お前たちとは違うんだ」


忠告を見下し、 謙虚さを弱さと呼び、 自分を疑うことさえ忘れていった。


そして、ある日。


張り詰めたその身体に、 ほんの小さな衝撃が走った。


パンッ。


空に響いたのは、 栄光のファンファーレではなかった。


誰もが振り返るほどの音を立て、 風船は一瞬にして姿を失った。


地上に残ったのは、 ほんのわずかなゴムの破片。


かつて見上げていた人々は、 もう空を見てはいなかった。


風船が高く昇れた理由も、 どこまで昇ったかという記録も、 破裂した瞬間には何の意味も持たなかった。


風は今日も吹いている。 新しい風船が、また空へ昇っていく。


地上から手を離され、 少しずつ膨らみながら。


そして、また誰かが思う。


「自分だけは、破裂しない」と。


――空高く昇ることと、 偉大になることは、同じではない。


高くなりすぎたプライドは、 いつか自分自身を支えきれなくなる。


空が広いからといって、 どこまでも昇れるわけではない。


風船は空の広さを知らなかった。


自分の限界を、 知ろうともしなかった。

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