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恋も奇跡も信じない私が、なぜか聖女になって王太子妃になるまで

作者: 天地サユウ
掲載日:2026/02/28

新作です。

「――よって、アリシア! お前との婚約を破棄させてもらう! ですのよ!?」

「まあ!? なんて、ひどいの! あんなに献身的に尽くして差し上げてたのに!?」

「大体、あの男爵令嬢の自作自演に決まっているわ! 階段から突き落としただなんて、そんなこと私に出来るわけないのに!」

「ええ! 本当に見る目がない殿方だわ!」

 

 王都の外れに佇む、カフェ『リグレット』。

 本日の店内も、色とりどりのドレスに身を包んだ令嬢たちで満席だ。

 

 どのテーブルからも聞こえてくるのは、裏切りと怒りと悲哀な話題ばかり。

 だが、無理もない。今の王都では、空前の『婚約破棄ブーム』が巻き起こっているのだから。

 

 夜会が開かれるたびに、どこぞの貴族令息が「真実の愛を見つけたんだ」などとほざいては、公衆の面前で断罪するのがトレンドとなっている。

 

 結果として、このお店は婚約破棄された令嬢たちの駆け込み聖堂、ならぬ駆け込みカフェとなっている。

 

 かくいう店長の私、リーナ・フォートもまた、婚約破棄を突きつけられた一人。

 平民の身でありながら子爵家の三男に見初められ、身分差を埋めるための厳しいマナー教育を強いられていたというのにだ。

 

 けれど強情っ張りの私は、元婚約者に悲しみや怒りを見せることなく、満面の笑みで承諾。

 その後、きっちりと慰謝料をふんだくり、このお店を開いた。

 

 今では、愛だ恋だと言う前に『金』だ。

 それが、私の正義であり、ポリシー。

 過去の男の文句を言い続けるなんて、生産性のない時間の最たるものである。

 

「あ、すみません、店員さん!」

 

 ハンカチで目元を押さえながら、先ほどまで声を荒げていたアリシアというお客様が、私を呼んだ。

 私はすかさず営業スマイルを浮かべてテーブルへ向かう。

 

「はい、お伺いします」

「えっと……私、これからどうやって生きていけばいいと思う?」

「……はい?」

「ちょっとアリシア、何言ってるのよ……。ごめんなさいね、店員さん。今、アリシ……彼女ったら、ひどく落ち込んでるのよ」

 

 追加注文かと思いきや、今日も重すぎる人生相談。

 いつもいつも、お客様は、なぜ私に聞くのだ。

 他人の恋愛沙汰や人生の身の振り方など、一銅貨の利益にもならない。とはいえ、無下に扱って店内で泣き喚かれても迷惑だし、何より面倒くさい。

 

 逆恨みされて厄介なクレーマーとなる可能性もあるし、『あそこの店員は態度が悪い』などと貴族のコミュニティで悪評を流されでもしたら、今後の売上に響くというもの。

 

 滞在時間が長くなるなら、せめて客単価を上げて元を取るのみだ。

 

「それは、お察しします。ところで追加のご注文はありますか?」 

「あ、えっと……」

「気分が沈んでいる時は、甘いものが一番です。当店自慢の季節限定『イチゴツリーパフェ』などいかがですか? 視野を広げて、新しい一歩を踏み出す活力になるかもしれません」

 

 私の常套手段である適当な相槌と販促。

 それで無駄な話は流れるはずだが、アリシアは何かに気付いたように、ハッと顔を上げた。

 

「新しい一歩……? 視野を広げる……? そ、そうでしたわ! 私には昔から農地開拓の知識がありましたの! 東の開拓村へ向かい、自らの手で事業を興せという啓示に違いないわ! 店員さん、ありがとう!」

「……はい?」

 

 ただ、利益率の一番高いメニューをすすめただけだが……まあ、今回もなんか喜んでくれたみたいだからいいか。

 

「それで、パフェはどうされますか?」

「ごめんなさい。善は急げですの! 私、東の村へ向かうことにしたわ! 店員さん、的確な助言を本当にありがとう!」

 

 アリシアはパッと表情を明るくし、テーブルに代金と弾んだチップを置いて颯爽と店を出て行く。


「ちょっと待って、アリシア! 私も行くわ!」


 同席の令嬢も慌てて彼女を追いかけた。

 今日もまた、お客様は勝手に自己完結し、長居せず、パフェ以上のチップまで置いていく。

 実にありがたい。

 

 私は機嫌よく鼻歌混じりにテーブルを片付けていると、従業員のチェルシーがジト目で声をかけてきた。

 

「店長、また適当な返事で迷える子羊を導いてしまったんですね……」

「チェルシー、私はいつもおすすめのメニューを伝えているだけです」

「その、おすすめが、いつもいつも導いてるんですよ……」

 

 チェルシーが呆れたように肩をすくめた時、カランカランと、店のドアベルが鳴る。

 振り向くと、一人の身なりの良い男が、血相を変えて飛び込んできた。

 

「悪いな、店員さん。ここにアリシアは……えと、金髪で赤いドレスを着た女は来てなかったか……?」

 

 アリシア? さっき出て行った彼女のことか。

 何か用があるのだろうか?

 けれど、ここはきっぱりと断らなければならない。 私は営業スマイルを浮かべて男に返す。

 

「申し訳ございませんが、お客様の個人情報につきましては、お答えできかねます」

 

 情報漏洩は、カフェの信用問題に関わる。

 この人には申し訳ないが、店を守るためだ。

 だが、男は引き下がらなかった。

 

「頼む! アリシアに……彼女に会って謝らなければならないことがあるんだ! こ、この通りだ!」

 

 男はそう言うと、バンッとカウンターに銀貨を一枚叩きつけた。


「そういえば、窓際の席でお二人で話されていましたね。先ほど、東の村へ向かうと仰って出て行かれましたよ」

 

 私は瞬きするよりも早く、銀貨をポケットに入れた。

 客の個人情報よりも目の前の利益。

 それが、私のポリシーである。

 

「本当か!? 恩に着る!」

 

 男は嵐のように店から去っていった。

 その後ろ姿を見送りながら、私は小さく息を吐く。

 

 おそらく彼が追っても、新しい生きがいを見つけた彼女に相手にされることはないだろう。

 だが、そんなことは私の知ったことではない。

 私は鼻歌交じりに、次のテーブルへ向かった。

 

 ◇

 

「君の魔法研究は気味が悪い? もっと愛らしい令嬢と結婚することにしたですって? そうですか、あの能天気な子爵令嬢と、お似合いだこと……」

 

 冷めきった紅茶を前に、ブツブツと独り言を呟いているのは、分厚い魔導書を広げた地味な装いの令嬢。

 

 こちらのお客様は、ここ二時間ほど追加注文もせずに席を占有している。

 客単価の低下と回転率の悪化。

 これ以上の放置は看過できない。

 

「お客様、紅茶が冷めてしまったようですが、温かいお茶はいかがですか?」

「え……あ、ごめんなさい。私としたことが、つい考え込んでしまって……」

「お気になさらず。よろしければ、脳の疲労回復に『宝石箱の特製マカロンセット』もございますが?」

 

 私は流れるような動作でメニュー表を開いた。

 見栄えが良いだけでなく、味も良い看板商品の一つではあるが、一番良いのは原価が安いのだ。

 

「マカロンですか……?」

「はい。一つの物事に煮詰まった時は、異なる要素を取り入れることで、思いがけない化学反応が起きるものです。色とりどりのマカロンは、新しいインスピレーションの源になるかもしれません」

 

 またしても適当なセールストーク。

 要するに高いお菓子を食べて、さっさと満足して帰ってほしいだけだ。

 しかし、私の言葉を聞いた彼女は、分厚いレンズの奥の目をカッと見開く。

 

「異なる要素による化学反応……? そ、そうよ! 私は単一の魔法陣に固執しすぎていたのよ! 複数の異なる属性魔法を、マカロンのように層にして重ね合わせれば、魔力の反発を防ぎつつ威力を倍増させることができるわ!」

「……はい?」

「店員さん、素晴らしい話をありがとう! これなら王立魔法研究所の特待生になれるわ! あっ、マカロンは包んでちょうだい! 研究室で食べるから!」

「かしこまりました」

 

 私はただ、マカロンをおすすめしただけだが、彼女の脳内では大発明に変換されたらしい。

 

(……なぜだ? やはり、チェルシーの言う通り、私の言葉には、不思議な力が宿っているのだろうか?)

 

 思い返せば、子供の頃から何気ない一言で事態が劇的に好転することがあった。

 探し物をしている人に適当に場所を告げれば、なぜかそこから見つかったりと、まあ、数えきれないほどだ。

 昔、オカルト好きな叔母に、興奮気味に言われたことがある。


『リーナ、あなたには『運命好転の言霊』が宿っているのよ。対象の運命を良い方向へ導く力。そう、あなたは、まるで伝説の――』

 

 最後の方は覚えていないが、当時から今に至るまで、オカルトなど信じていない。

 私にあるのは利益を最大化するための経営センスと、場当たり的な接客スキルだけだ。

 

「お待たせしました。こちら、お包みしたマカロンです」

「ありがとう! 店員さん、お釣りは取っておいて! 世紀の大発見に比べれば安いものだから!」

 

 彼女はテーブルに銀貨を二枚置くと、マカロンの箱を抱えて去っていった。

 私はふんだくるように銀貨二枚をポケットに入れる。

 

 滞在時間は長かったが、十分すぎる利益。

 我ながら鮮やかな手腕……いや、幸運だ。

 

「店長、また適当な営業トークで、お客様の人生を変えちゃったんですね……」

 

 空いたテーブルを片付けていると、チェルシーが、再び呆れたように声をかけてきた。

 

「チェルシー、私はマカロンを売っただけです」

「でも、店長。ここ最近、王都で噂になり始めてますよ。このカフェに来れば、どんな絶望した令嬢も奇跡のように立ち直るって」

「奇跡ですか? 悪くない宣伝文句ですね」

「さっき東へ向かったお客様も、今のお客様も、店に来た時はお通夜みたいだったのに、出て行く時は憑き物が落ちたみたいにキラキラしてましたからね。……いつものように新しい道で大成功して、男の方が後悔して土下座で泣きついてくるパターンですよ!」

 

 またしても、チェルシーの勝手な思い込みか。

 まあ、私としては、お客様が勝手にチップを置いていってくれるなら、これ以上のことはない。

 

「他人の色恋沙汰は無益ですが、それに伴う経済効果は裏切りませんからね」

 

 私は小さく呟き、次のテーブルへ注文を伺いに向かった。

 

 ◇

 

 数ヶ月後。

 チェルシーの予想が、なぜか的中していた。

 

 東へ向かったアリシアというお客様は、新種の農作物の栽培を成功させただけでなく、その健気な姿に惚れ込んだ若き辺境伯に見初められ、玉の輿婚を果たしたらしい。

 

 マカロンから着想を得た魔法書の令嬢は、特待生として研究所に入った後、彼女の知性に惹かれた美形の天才研究室長と電撃結婚したという。

 

 さらに、かつて自分を捨てた元婚約者が土下座で復縁を迫ってきた令嬢たちも、男の主導権を握る形で寄りを戻し、幸せな結婚生活を送っているらしい。

 

 この『絶望した令嬢を最高の結婚へと導く奇跡のカフェ』の噂は瞬く間に王都中へ広がり、行列ができるまでになった。

 

 私は彼女たちにも適当なメニューを売りつけ、適当な相槌を続けていた。

 

「あの時、すすめていただいたスープのおかげよ! 取引先の素敵な商会長と結婚することになりましたの! こちら、お礼の最高級茶葉ですわ!」

「新種の薬草ビジネスが成功して、近衛騎士団長様からプロポーズされましたの! お礼に、銀食器をお持ちしましたわ!」

 

 などなど、適当にあしらった令嬢たちが、次々と新しい恋や復縁を成就させ、最高の幸せを手にしていく。

 そして連日のように店を訪れては、感謝の品や弾んだチップを持って押し寄せて来る。 

 おかげでカフェのバックヤードは、お客様からの高級食材や美しい茶器で潤い、私も小金持ちと言えるほどになった。


 相変わらず、他人の色恋沙汰の結末など私の知ったことではないが、こうした実益を伴う感謝なら大歓迎だ。

 

 そんなある日の閉店間際のこと。

 カランカランと、ドアベルが静かに鳴った。

 

「申し訳ございません。本日は閉店の……」

 

 営業終了を告げようとした私は、入ってきた人を見て固まる。

 

 最高級の布地で作られた外套。

 金糸のような髪とサファイアの瞳。

 絵画のような美青年。

 さらに後ろには護衛らしき屈強な男と、豪奢な法衣をまとった老人が控えている。

 

 間違いなく、高位の貴族と権力者。

 私は絶対に逃がしてはならないと、営業スマイルを浮かべ、優雅に頭を下げた。

 

「いらっしゃいませ。本日は貸し切りでのご案内となりますが、よろしいでしょうか?」

 

 青年は目を細め、カウンターの前の席に腰を下ろす。

 

「君がここの店長、リーナ・フォートだね? 私は、ユリウスという」

 

(ユリウス? どこかで聞いたことがある気が……?)

 

 まあ、どうでもいいかと、私は最高級の紅茶を淹れて差し出す。

 

「単刀直入に言おう、リーナ嬢。君を『聖女』として王宮に迎え入れたい」

「……はい?」

 

 あまりにも突飛すぎる提案。

 殿下の後ろに控えていた老人が、両手を広げて私に近付いて来る。

 

「おお……なんという神々しい佇まい! 私には見えますぞ。貴女様の背後に慈愛の光が! この御方こそが伝説の『聖女』様の再来に間違いございません! 殿下!」

 

 老人が震える声で叫んだ。

 彼らは熱を込めて私を見つめているが、聖女って何? 業務内容は? どうせ、祈りだの慈善活動だの、利益を生まない無償労働の最たるものだろう。

 よく分からない仕事で王宮の面倒事に巻き込まれるに決まっているし、ここはきっぱりと断る。

 

「過分な評価をいただき光栄ですが、私はしがないカフェの店長です。聖女が何かよく分かりませんが、皆さま方が思うような女ではありません」

「聖女は、女神の『神託』を聞くことができる存在。

君は感じたままを言葉にするだけでいい。それが、未来を担う若者たちの道標になるのだ」

「私の言葉が道標に……?」

「そうだ。報酬は年俸として、金貨100枚を用意している」

「お受けいたします」

「返事は今すぐとは言わな……え?」


 私は金貨の魔力に即答した。

 金貨100枚もあれば、一生安泰だ。

 カフェの売上が絶好調とはいえ、一生働き続けても到底届かない額だ。

 大金持ちになれるなら話は別である。

 

「お、おおぉっ! これほどの重責を一瞬の躊躇いもなくお受けになるとは! なんという自己犠牲の精神か! やはり、真の聖女様だ!」

 

 老人がボロボロと感涙を流し始めた。いや、私はただ圧倒的な報酬と免税特権に目が眩んだだけなのだが。

 

「意外と早かったな。だが、大聖堂での神託は国の命運を左右する。重圧もあるだろうが――」

「ご安心ください。私はこのカフェを切り盛りする体力と精神力を持ち合わせております。ところで、休日は?」

「そ、そうか。完全週休二日制を確約しよう。当然、有給休暇も完全消化してもらう。伝説の聖女が、過労で倒れては国の威信に関わるからな」

「残業代は?」

「き、規定の時間を超えた場合は、分単位で割り増し支給する。それと、住み込みとなるため王宮の特別室と専属のシェフも手配しよう」

「ありがとうございます。これ以上の好条件……いえ、これも国のため、迷える民のため、輝かしい未来のために尽力いたします」

 

 私は胸の前で両手を組み、満面の『営業スマイル』を浮かべた。

 こんなホワイト待遇で、莫大な資金が入るのだ。

 これ以上の就職先は存在しない。

 それに神託なんて適当に言っておけばいいし。

 

「君は面白いな。噂通りの慈愛に満ちた女性だ。頼りにしているよ、聖女殿」

 

 ユリウス様も、私の笑顔を見て、なぜか満足げに頷いた。

 私は輝く未来を想像し、心の中でガッツポーズをした。

 

 ◇


 数ヶ月後、大聖堂。 

 聖女として迎え入れられてから、私の生活は一変した。

 約束通り、豪華な特別室と専属シェフが用意され、完全週休二日制という夢のような待遇。

 カフェで培った接客スキルを活かし、私は聖女としての業務を完璧、かつ効率的にこなしていた。

 

 荘厳なステンドグラスから光が差し込む祭壇。

 最奥にそびえ立つ女神像を背に、私を数え切れないほどの者たちが、固唾を呑んで見守る。

 

(今日は成人の儀という大仕事だが、若者たちに職を伝えるだけでいいらしい。何にしようかな……? とりあえず『農民』や『商人』と告げても、お布施は期待できない。……そうか! 両親のテンションを上げれば、財布の紐が緩むというもの。おとぎ話に登場するファンタジーな職業でも言おう)

 

 私はゆっくりと伏し目がちに瞳を開き、慈愛に満ちた『聖女スマイル』を浮かべる。

 最前列に片膝をついている、冴えない金髪の少年に向かって告げる。

 

「……神託が下りました。あなたは伝説の『勇者』です!」

「えっ!? ぼ、僕が勇者!?」

「はい。そして、そちらのあなたは『剣聖』。あちらのあなたは……ええと、『大賢者』です!」

 

 適当なファンタジー職のバーゲンセール。

 これで貴族たちも大喜びで、祭壇の寄付箱に金貨を投げ入れてくれるに違いない。

 内心でほくそ笑んだ直後だった。

 

「……力、力が湧いてくるよ!」

 

 『勇者』と告げた少年の体が眩い光に包まれたかと思うと、どこからともなく聖なるオーラを放つ伝説の剣が現れ、その手に握られた。

 さらに『剣聖』と呼ばれた少年は、一瞬で神速の剣技を披露し、『大賢者』と告げた少女は無詠唱で高度な魔法陣を展開させた。

 

「な、なんという奇跡だ!」

「建国以来、数百年現れなかった伝説の職業が三人も……いや、もっとだ! 聖女様が指差す者たちが次々と覚醒していくぞ!?」

「おお、女神よ! 聖女様よ! 我が領地から剣聖が! すぐ多額の寄付を!」

 

 ……はい? どういうことだ? カフェの時もそうだったが、私の適当な言葉は、本当に相手の運命をねじ曲げてしまうのか? いや、オカルトなど信じない。これはただの偶然と、プラシーボ効果の極致だ。

 

 結果として祭壇へ金貨が投げ込まれていくのだから、最高である。

 私は溢れんばかりの笑顔で、次々と適当な伝説職を量産していった。

 あとは定時まで適当に祈るフリをして帰ろう。

 

 私がさらに内心でほくそ笑んでいると、ユリウス様が静かに祭壇へと近付いてきた。

 

「素晴らしい神託だったよ、リーナ」

「恐れ入ります、殿下」

 

 完璧な営業スマイルで返す私に対し、ユリウス様はなぜか熱を帯びた瞳で私を見つめてきた。

 

「君が来てから、この国は本当に明るくなった。この成人の儀もそうだ。君の言葉一つで、未来を担う若者たちが、これほどまでに希望と力に満ち溢れるようになったのだから」

「それは、殿下の御威光あってのことです」

「いや、君の力だ。君のその慈愛に満ちた裏表のない純粋な心に、私は惹かれているのだ」

 

 裏表だらけで金のことしか考えていないが、顧客満足度が高いのは良いことだ。

 私が適当に相槌を打とうとした時、ユリウス様はふいに私の手を取り、片膝をついた。

 大聖堂が一瞬にして静まり返る。

 

「リーナ、私に君を一生守らせてくれないか? どうか、私の妻になってほしい」

 

 突然の第一王子からの公開プロポーズ。

 普通なら感動で泣き崩れる場面なのだろう。だが、私の脳内では『王室という巨大インフラ』の資産価値の計算を恐るべき速度で行う。

 

 第一王子の妻、つまり次期王妃。

 王室の莫大な資産、広大な領地、そして国庫という名の無限の財布。

 これは究極のキャリアアップ。

 答えは一つしかない。


「喜んで、お受けいたします」


 「おぉぉぉっ……!」と、大聖堂が割れんばかりの歓声と祝福の拍手に包まれた。

 ユリウス様は立ち上がり、私を優しく抱きしめる。

 

「ありがとう、リーナ。君を必ず幸せにする」

「はい、殿下。私、とても幸せです」

 

 そう、私は心から幸せだった。

 愛だ恋だと騒ぐ厄介な令嬢の相手をすることなく、最高の待遇で莫大な資産を手に入れ、国家の経営権まで手に入れた。

 

 愛の形は人それぞれだが、それに伴う経済効果と私の利益は決して裏切ることはないだろう。


 私はユリウス様の腕の中で、国庫の運用計画に思いを馳せながら、勝利の笑みを浮かべるのだった。

最後まで、お読みいただきありがとうございます。

結局、最後まで金、金、金。

こんなドライな女性しか書けない私です♪


ぜひ、ブックマークと、↓【★★★★★】の評価をよろしくお願いします m(__)m


◾️他作品のご紹介

【短編】効率厨の悪役令嬢は婚約破棄RTA記録を更新する。「お前を愛することはない」は、チュートリアルなのでスキップします

https://ncode.syosetu.com/n9694lm/


【連載版】悪役令嬢の取り巻きAですが、断罪イベントの段取りを完璧にこなしたら、なぜか俺様王子に引き抜かれました

https://ncode.syosetu.com/n2121ln/1/

2026.1月[日間]総合 - すべて 2位


今後とも、よろしくお願いします( ´∀`)ノ

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