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王国の歪み
夜更け、ヴァレロの執務室は灯りが一つだけだった。
「……王太子暗殺未遂事件」
ヴァレロは、書類の束を机に置きながら言った。
「三年後に起きる、と君は言ったな」
「はい」
私は頷く。
けれど、これまでと違い、胸の奥に嫌な感覚があった。
「その事件だが」
ヴァレロは、紙を一枚こちらに滑らせた。
「水面下では、すでに“準備”が始まっている」
息が詰まる。
「そんなはずは……」
未来では、もっと後だった。
今はまだ、誰も動いていないはずだった。
「未来は固定されていない、ということだ」
ヴァレロは淡々と告げる。
「君が未来を使った時点で、歯車は前倒しになった」
――私のせいだ。
私が選び、私が切り、
私が動いたから。
王国は、静かに歪み始めている。
「……それでも、進みます」
声が震えないよう、唇を噛む。
「止まれば、もっと酷い未来になる」
ヴァレロは私を見つめ、短く言った。
「ならば、最後まで責任を持て」
その言葉は、脅しではなく忠告だった。




