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最初の犠牲
最初の犠牲は、
名もなき官吏だった。
未来では、不正の罪をすべて押し付けられ、
秘密裏に処刑される男。
私は、その事実を知っていた。
ヴァレロに告げれば、助けることもできた。
だが、そうしなかった。
「切るのか」
ヴァレロは淡々と問う。
「……はい」
「情があるなら、今言え」
私は、首を横に振った。
「ここで守れば、もっと多くが死にます」
嘘ではない。
それでも、胸は痛んだ。
数日後、男は捕まり、裁かれた。
歴史は変わらない。
だが、一つだけ違う。
――今回は、私がそれを選んだ。
夜、一人で部屋に戻り、私は吐いた。
手が震える。
それでも、涙は出なかった。
「……これでいい」
誰にも聞かれないよう、小さく呟く。
悪役でいい。
冷たい女でいい。
生きるためなら、私は何でも選ぶ。




