味方の選別
宰相の執務室は、相変わらず無機質だった。
装飾もなく、華やかさもない。
権力の象徴でありながら、ひどく冷たい場所。
「――用件を述べよ」
鋭い視線が向けられる。
この人だ。
三年後、私の処刑を淡々と承認した男。
私は、逃げなかった。
「未来の話をしに来ました」
一瞬、空気が凍る。
宰相は眉一つ動かさない。
だが、その沈黙が“興味”であることを、私は知っている。
「明日、第三倉庫で事故が起きます」
「……」
「原因は老朽化。隠蔽され、三ヶ月後に問題になります」
沈黙。
そして、短く息を吐く音。
「続けろ」
当たった。
すでに、宰相は確信し始めている。
私は、核心を告げた。
「三年後。王太子暗殺未遂事件が起きます」
「――」
「そして私は、その罪で処刑される」
初めて、宰相の目が細くなった。
「……なぜ、私に話す」
当然の疑問だ。
私は、はっきりと答えた。
「あなたが、その処刑を決定するからです」
沈黙が、部屋を支配する。
数秒。
永遠のような時間。
「……ルシア」
宰相は初めて、私の名を口にした。
「君は、自分が何を始めようとしているかわかっているのか」
私は迷わず頷く。
「ええ、ヴァレロ宰相。
三年後、私を処刑台へ送るあなたと組む覚悟くらいは」
沈黙ののち、宰相は小さく笑った。
「面白い」
それでいい。
友情など、最初から要らない。
これは取引だ。
処刑される未来を知る令嬢と、
国を壊す覚悟のある宰相。
最悪の同盟が、ここに成立した。




