三年前の朝
侍女が扉を叩く音で、現実を思い出す。
「お嬢様、お目覚めでしょうか」
いつもの声。
何も知らない、平和な朝。
「ええ。入って」
鏡に映る自分の顔は、まだ若い。
処刑台の上で見た、やつれた女ではない。
――ここから、すべてが始まる。
私は静かに記憶を辿った。
三年後、王太子は暗殺されかける。
犯人は私に仕立て上げられ、王国はそれを疑いもしない。
理由は単純だ。
私は、都合がよかった。
名門公爵家の娘。
野心があると噂され、冷酷だと嫌われていた。
誰も、私を信じなかった。
「……いいえ」
ぽつりと呟く。
違う。
誰も“信じようとしなかった”だけだ。
私は机に向かい、紙を広げた。
まず、確認すべきは未来だ。
本当に同じ出来事が起きるのか。
今日、このあと――
王城で小さな事故が起きる。
まだ誰も知らない、取るに足らない事件。
だが、それが“本物”なら。
私はペンを置き、深く息を吸った。
「……当たった」
昼過ぎ、使者が駆け込んできた。
王城での事故。負傷者あり。
記憶通りだ。
背筋に、ぞくりとした感覚が走る。
――未来は、存在する。
ならば、次は。
私は一つ、結論を出していた。
味方を増やすつもりはない。
信用できる人間など、いないから。
必要なのは、たった一人。
三年後。
私を処刑台へ導く男。
冷酷で、合理的で、決して感情に流されない。
王国宰相――
あの男だけだ。




