処刑台の上で
首に冷たい鉄の感触があった。
処刑台。
視界の端で、刃が鈍く光っている。
――ああ、やっぱりここに戻ってきたのね。
私は静かに息を吸った。
群衆のざわめきが、遠い波音のように耳を撫でる。
「王太子暗殺の罪により――」
高らかに読み上げられる罪状。
何度も聞いた言葉だ。忘れようとしても、夢にまで出てくる。
視線を上げると、王太子がいた。
私の元婚約者。
怯えたような顔で、けれど決してこちらを見ようとはしない。
……逃げるのね。最後まで。
かつて私は、この人を愛していた。
王国を、未来を、信じていた。
その結果が、これだ。
「何か、最後に言い残すことはあるか」
役人の問いに、私は小さく笑った。
言いたいことは山ほどある。
けれど、今さらだ。
「ありません」
そう答えた瞬間、刃が振り上げられる。
――もし、もう一度やり直せるなら。
そんな願いが脳裏をよぎった、その時。
世界が、反転した。
⸻
目を開けると、天蓋付きのベッドがあった。
柔らかなシーツ。朝の光。
「……?」
起き上がり、手を見る。
震えていない。血もない。
壁に掛けられた暦を見て、息を呑んだ。
三年前。
処刑される、三年前の朝。
「戻った……?」
喉から漏れた声は、掠れていた。
夢じゃない。
私は、死んで――戻ってきた。
胸の奥で、何かが静かに音を立てて壊れる。
もう、同じ選択はしない。
あの処刑台に、二度と立たないために。
私は、すべてを――選び直す。




