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1-6. 旅たちの朝






国境近くの森の奥。一行が滞在していた小さな小屋の前で、賑やかな朝が始まっていた。



「ジオルドル、また布がパリパリだ!」



ナナーリカは、自分のローブを両手に持って途方に暮れていた。彼女は百年の知識を持つ賢者だが、川で洗濯を試みた結果、ローブを絶対零度に近い冷気で瞬間的に凍らせてしまったのだ。



「大丈夫」



ジオルドルは温厚な笑みを浮かべ、凍り付いたローブに手をかざす。土属性の魔力がローブの極度の冷気を中和し、水分を抜き取り、パリパリだった布地はすぐに乾いた。ジオルドルは、長年ナナーリカの世話をしてきたため、この種の「生活魔法」の処理に慣れていた。




「ジオルドルすごい! やはり、生活能力の低い私には、貴方のようなな現実的な力のの魔法使いが必要です」


ナナーリカは心から感嘆し、その純粋な賛辞にジオルドルは照れた。



そばで見ていたピンクの獣人ブリルは、手を叩いて喜んだ。


「わーい! ナナーリカお姉ちゃんのお洋服が、アイスからお洋服に戻ったー!」


「行くぞ、お前ら! ブリル、隊列の真ん中から離れるな!」



ガレオンの怒鳴り声が響く。彼は体格に似合わず繊細に注意を配り、ブリルの安全を常に気にかけ、その視界に入れていた。


ブリルはガレオンとカグリナの間に並び、旅の最中の隊列に従って進む練習中だ。



シリルは、全員の装備リストを確認しながら、静かにリオヴェンに指示を出していた。



「リオヴェン。我々は今、ギルド連合の監視が最も厳重な地域を抜けている。引退した君には悪いが、影として、周囲五十メートル圏内の不自然な斥候、そして闇の魔力を持つ者の動きを全て私に報告してほしい」


「承知した、シリル」



リオヴェンは、シリルが自分の闇の能力を最大限に評価していることに、静かな喜びを感じた。彼は隊列の最後尾、カグリナの後ろに位置取った。彼の闇の魔力はカグリナの微かな炎の魔力に引き寄せられ、彼女の背中を、最も安心できる場所として認識していた。







次の日、旅が始まると、メンバーの異質な能力が、驚異的な効率を発揮した。



リオヴェンは、森の獣道、街道脇の宿場、全ての場所で、連合が仕掛けた不自然な検問や、魔獣の異常発生ポイントを事前に察知し、ルートを修正させた。




正午、彼らは街道沿いに現れた、一団の野盗に遭遇した。彼らは物資を狙って、誰かもかまわず待ち伏せしていたようだ。


「チッ、しつこい連中だ!」



ガレオンが拳を鳴らして飛び出そうとする。


「待ってください、ガレオン」


シリルは冷静にリオヴェンからの情報を統合していた。



「野盗の数は七。装備は貧弱。しかし、彼らは火属性の魔術師を一人連れているはずだ」



リオヴェンが報告した情報通り、野盗の一人が火の玉を放った。



ーードオンッ!


火の玉は、隊列の近くの木を燃やし、一瞬で熱気が広がる。ブリルが小さな悲鳴を上げた。



その時、カグリナが静かに杖を構えた。彼女は、相手の火の魔術師が放った魔力の波長を正確に読み取る。



「炎は、炎で消す」



カグリナの放った炎は、浄化の炎と呼ばれる澄んだ青い炎だった。それは野盗の火力の弱いオレンジの火の玉を、熱を拡散させることなく、一瞬で飲み込み、無力化した。


野盗の魔術師は、自らの魔力を制御する術を奪われ、愕然とした表情を浮かべる。



「残りは任せろ!」


ガレオンはカグリナのおかげでできた一瞬の隙に突進。拳一つで野盗の抵抗を粉砕した。


戦闘中、リオヴェンは影に徹していた。

シリルが指揮を取る、カグリナは遠距離、ガレオンが近距離。彼はただ、カグリナの背後から予期せぬ攻撃がないかを観察し続けていた。



(彼女の炎は、あまりにも強く、美しい。俺の闇は、その光を汚さないように、ただ守る)



彼は、野盗の魔術師がカグリナを狙った瞬間、無意識に闇の結界をわずかに展開していた。カグリナは、リオヴェンの過剰なまでの献身に気づきながらも、何も言わなかった。ただ、戦闘後、静かにリオヴェンにだけ、小さな微笑みを向けた。




夕刻。彼らは、街道から外れた安全な場所で野営の準備を始めた。


ジオルドルが土魔法で岩盤を掘り、寝床と水源を確保し、カグリナの炎で煮炊きをする。ブリルはジオルドルの周りをぴょんぴょん飛び跳ねて手伝い、ガレオンは薪を割りながら鼻歌を歌う。


シリルとリオヴェンは次の旅路の確認作業をしていた。



ナナーリカは、皆の作業を満足げに眺めていたが、突然、シリルに真面目な顔で問いかけた。



「シリル。なぜ貴方は、追われることになったのかまだ詳しく聞いていないね。貴方の知識があれば、もっと上手く逃げられそうなものを」



シリルは、焚き火の炎を見つめながら、静かに答えた。



「ナナーリカ、私は国の腐敗した貴族を告発する準備をしていたんだ。だが、その悪事をすり替えられ、私のしでかした事だとなっていたがね。こればかりは私の平民の立場が足を引っ張った。そのついでなら王族の負の遺産を押し付けられた。私は大悪党だね。彼らは私が死んで償うとして全てを無くそうとしているんだ」



シリルは眼鏡を押し上げ、全員を見渡した。


「しかし、私生き延びてその全てを明るみに出す。この旅路は成功すると予想しているよ。ナナーリカ先生の知性、カグリナの炎、ジオルドルの土、ガレオンの拳、リオヴェンの闇。これらは、従来のギルドが持つ戦闘力ではない、何かをうむと思っている」




シリルはそう断言した。



ガレオンは興味なさそうに、作業を続けながらただ聞いていた。



ナナーリカは、シリルの言葉に感銘を受けたのか、またうっかり、手に持っていた湯飲みを地面に落としそうになった。ジオルドルが素早くそれをキャッチする。



「シリルのいた国は私の故郷でもあるが、あの国は酷かったね。私も不老不死の薬の研究をしていたのだが……偶然にも薬ができてしまって私が死ななくなってしまつた。残った薬を奪いあいになって大騒ぎ。全部私が飲み干してしまったけどね」



「賢者ナナーリカ、私の生まれた魔女の村にも伝わっているよ。百年前の話だけどね」


カグリナが食事を作りながら話に加わった。


リオヴェンは、自分だけでない彼らの背負う業の重さを垣間見た。この旅は、単なる移動ではない。それは、旧体制の腐敗を打ち破るための、新しい世界の雛形を作り上げる、最初の一歩だった。





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