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1-4. ピンクの子グマ、ブリル


リオヴェンが小屋にたどり着いてから一ヶ月。


一行はそろそろこの森の拠点をを旅立つ支度をしていた。

シリルの訓練も好調で、さらなる追っ手に会う前にここを出る必要があるからだ。



シリルとナナーリカは訓練を続け、ガレオンとジオルドルは旅の動画を整える作業を、カグリナとリオヴェンは食糧や薬草などの素材採取を行っていた。












濃い木々の葉が、わずかな月光さえも遮る深い森の中。



カグリナは、静かに森の匂いを嗅いでいた。彼女の赤髪は闇の中でも微かに光り、手に握られた杖の先端には、いつでも炎を宿せるように魔力が集束している。


そして、カグリナの少し前方、木の幹と地面の影が交差する場所に、リオヴェンはいた。リオヴェンの闇の装束は完全に周囲に溶け込み、その存在を消している。



(ターゲットは、三時の方向。大型の影狼シャドウウルフが二体)



リオヴェンは、影狼に気づかれないように、最小限の魔力で情報を伝達する。


彼は既に、影狼の呼吸の間隔、移動ルート、そしてカグリナへの警戒レベルを全て把握していた。



「速攻で仕留めよう。周囲に仲間を呼ばせないように」


カグリナは声に出さず、リオヴェンが発した微かな魔力の波長に気がつき、彼のメッセージを正確に読み取っていた。



リオヴェンの心臓が、静かに高鳴る。カグリナの横顔が、闇の中で強く、そして美しい。



(彼女の隣に立つ資格は、俺にはない。だが、彼女の炎が力を発揮する道筋を作るのが、俺の闇の役目だ)



リオヴェンが動いた。彼は、一瞬で闇魔法を地面に広げ、影狼二体の足元に擬似的な影を作り出す。影狼たちは、自分の足元の影が不自然に動いたことに気づき、混乱して動きが一瞬だけ止まる。



「今」


リオヴェンからの無言の合図を受けたカグリナは、躊躇なく杖を振るった。集束された炎が、影狼たちが停止したその瞬間に、二体を同時に焼き尽くす。


暴れ周り、火を消そうともがく影狼。二体が火に気を取られている合間にリオヴェンが近づき、闇に隠れながらナイフを刺した。

戦闘は、わずか数分で終了した。






カグリナは炎を鎮め、呼吸を整えた。リオヴェンは、闇からゆっくりと姿を現し、警戒を解いた。



「連携に問題はありませんでしたか? カグリナ」


リオヴェンは、自分の秘めた思いを隠すため、冷静な態度を崩さないようにしている。



「ありがとう、リオヴェン。あなたの闇がなければ、影狼は逃げ、仲間を呼ばれていたでしょう」


カグリナは静かに感謝を述べた。

カグリナの目には、リオヴェンへの深い信頼が宿っていた。しかし、それは仲間への信頼であって、決して特別な感情ではない。



リオヴェンは、彼女の信頼を受け取るたびに、胸の奥が熱くなるのを感じる。それは、炎に焼かれているような、甘く苦い痛みだった。



(彼女は、俺の過去を知り、俺を赦してくれた。これ以上のものを望むなど、贅沢だ。俺は、彼女の炎を、影から護る剣であり続ければいい)



彼は、カグリナの静かな横顔から視線を外した。この感情が、いつか彼女を危険に晒す弱点になることを、リオヴェンは誰よりも恐れていた。





二人が影狼の解体、素材回収していると、森の奥から、不自然な泣き声が聞こえてきた。



「ひっく、ひっく……こわいよぉ……ママー!」



それは、魔物のものではない、明らかに人間の子どもの声だった。リオヴェンは即座に闇魔法で周囲の警戒レベルを上げる。



「罠かもしれません、カグリナ。待機を」



「いいえ。声の方を探しましょう」


カグリナは魔力感知の魔法を使い、周囲を探索する。


カグリナは何かを見つけたのか、火の魔法を飛ばし明るくなった道を、迷わず進み始めた。



リオヴェンは焦りながらも、カグリナの背後を追った。彼女を守るのが、彼の最優先事項だ。


そして、森の小さな窪地に、その「泣き声」の主はいた。



それは、まるでクマのような獣人の子ども。驚くべきは、その毛皮の色だった。全身、鮮やかなピンク色をしている。

子どもは、大きな石に座り込み、両手で顔を覆い隠して泣いていた。彼の足元には、食べかけのベリーが散乱している。



「あわわわ……お腹空いたよぉ。ママー! どこなのぉ! 会えないよぉ!」



カグリナは、そっとそのピンク色の獣人の前にしゃがみ込んだ。



「大丈夫ですか?」




獣人は、恐る恐る顔を上げた。大きな瞳は涙で濡れており、そのピンク色の毛皮は、土や木の葉で少し汚れている。



「き、君たちは……魔物じゃないの?」


「ええ。私たちはこの先の小屋に住んでいる……いや旅人のようなものです」



カグリナは優しく微笑んだ。その静かな笑顔に、獣人はすぐに警戒を解いたようだ。



「わあ! よかったぁ! 僕、ブリルって言うんだ! ママと森に来たんだけど、迷子になっちゃったの!」


ブリルと名乗ったピンクの獣人は、立ち上がると、カグリナのローブに抱きついた。



リオヴェンは、呆然とその光景を見ていた。



(……こんなに派手なピンク色の塊が、森には存在するのか……)



リオヴェンは、冷静な分析とは裏腹に、心の中で小さく笑っていた。カグリナがクマのぬいぐるみを抱いているようで、とても可愛らしかった。

カグリナはブリルを抱き上げ、静かに言った。


「そうなの。この辺りに他には魔力の強い反応はないわ。リオヴェンはどう?」


リオヴェンはカグリナに言われて、付近の気配を察知してみた。


「生き物の気配は特にないな。いてももっと小さいものだ、人くらいの大きさの気配は感じられない」


「そうよね……。ブリル貴方はどこから来たの?」





カグリナは赤子に話すように優しい声で問いかける。


「わからないけど、森をずっと歩いていたよ。ままが一緒にお散歩しようって。でもきのみを食べていてねって行ったあと、帰ってこないんだ……」



ブリルは母がいないことを思い出して悲しくなったのか、また瞳には涙が溜まってきていた。



カグリナとリオヴェンを顔を見合わせた。

カグリナが可愛らしく首を傾げたので、リオヴェンは思わず微笑んだ。



カグリナはそれを確認すると、ブリルの頭を撫でた。そして声をかける。



「ブリル。私たちと一緒に来ませんか? あなたのママを探す手伝いをします。貴方のようなピンク色のクマは見たことがないけど、100年を生きるナナーリカと、博識なシリルなら何か知っているかもしれない」


「ほんと! ママを探してくれるの?」


ブリルは大きく目をあけて、カグリナにぎゅっとしがみついた。


「ええ。私たちがしばらく一緒に探してあげるわ」




「……? ナナーリカは100歳なのか?」



リオヴェンはブリルよりも、カグリナの発した言葉が気になっていた。


「あ! そうなの。言ってなかったよね。詳しくは戻ってから話しましょう。その話は長くなりそうだし、この子を連れて先に行くわ。あと頼んでもいい?」


カグリナは少し大きいクマのぬいぐるみのようなブリルを連れて歩き出す。



「了解した」


リオヴェンは解体し終えた影狼の素材をマジックバックへしまうと、辺りに残った痕跡を影で処理したて足早にカグリナを追いかけた。



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