3-8. 帝国の失態
ゼノス帝国は、サラムの統治成功をアピールするため、隣国や周辺諸国の使節団を一堂に集めた大規模な視察会を強行した。
バルトスをはじめとする帝国の面々は、自分たちの手柄として、高らかに宣言する。
「ご覧ください! 帝国の指導により、この死の街は蘇った。今こそ、我が国の魔導師が、この街の象徴である精錬炉と中央噴水を稼働させて見せよう!」
変装したシリルたちは、一般市民に紛れてその様子を冷ややかに見守っていた。
「リオヴェン、準備は?」
「問題ない。彼らが自分たちの術式で動かそうとした瞬間、すべてが始まる」
魔導士たちは声を掛け合い、大規模な魔法陣を展開し、それぞれの魔法を発動させた。
まず異変が起きたのは、街の自慢である中央噴水だった。
帝国の魔導師が、ナナーリカとジオルドルの作った精密なろ過システムを無視し、力任せに魔力を流し込みはじめたのだ。
「ゆけ! 帝国の栄光を示す清らかな水よ!」
しかし、噴水から噴き出したのは、清流ではなく、悪臭を放つ真っ黒な泥水でした。ナナーリカの仕掛けた逆流回路が、帝国の粗雑な魔力を感知し、地下の泥を吸い上げ、水路は泥水を噴出させた。
「な、なんだこれは!? 泥だと!?」
各国の使者や使節団の礼服に泥が飛び散り、悲鳴が上がる。
焦ったバルトスは、カグリナの精錬炉を動かして名誉を挽回しようとしました。
「ええい、火を焚け! 黄金のガラスを焼いて見せろ!」
帝国の火魔導師たちが炉に火を灯した瞬間、炉からは美しい炎ではなく、視界を奪うほどの不吉な黒煙が爆発的に噴き出しました。
「ゲホッ、ゲホッ! 何だ、この煙は! 有毒か!?」
「火が制御できない! 炉が……炉が悲鳴を上げているぞ!」
魔物の叫び声かというほど、なんとも言えない嫌な音があたりに響き渡った。
混乱の最中、サラムの住民たちが一斉に声を上げた。これこそがシリルの仕込んだ最大の罠。
「おかしいぞ! 聖母様やシリル様たちがいた時は、一度もこんなこと起きなかったぞ!」
「帝国の指導なんて嘘っぱちだ! 彼 らが来てから、水は止まるし、炉は爆発寸前だ!」
使節団の一人、自由都市連合の代表が鋭い視線をバルトスに向けました。
「バルトス殿。これは一体どういうことだ? 帝国の技術で復興したという話だったが、これでは先住者の技術を壊しているだけにしか見えないが」
追い詰められた帝国の面々。そして「真打ち」の登場する。
「だ、黙れ! これは単なる整備不良だ! 今すぐ直してやる!」
バルトスが衛兵に住民を黙らせようとしたその時。
風が吹き抜け、黒煙が一瞬で消し飛ばされる。
人々の視線の先に立っていたのは、変装を解き、本来の姿を現したカグリナ、そしてその傍らに立つシリルたちだった。
「バルトス殿。手に負えないものを盗むから、そうなるのですよ」
シリルの静かな声が、広場に響き渡った。
カグリナが指先を鳴らすと、暴走していた炉の火が一瞬で凪ぎ、澄んだ蒼い光を取り戻していく。
ジオルドルが地面を突き、ナナーリカは水を制御していく。泥水は再び清らかな水へと変わり、ゲイルの風が街中の悪臭を洗い流した。
「な、貴様ら……ノヴァウィング!」
使節団の面々は、その一連の光景を鮮明に目撃した。
「……なるほど。帝国の手柄ではなく、彼ら『ノヴァウィング』の力だったわけだ。帝国は他国の功績を盗み、あまつさえ嘘の報告を世界に流したというわけか」
使節団の記録官たちが、一斉にこの醜聞を書き留める。
「この事実は、直ちに各国へ報告させてもらう。ゼノス帝国との通商条約は見直しだ。嘘つきと組む国はないからな」
バルトスは顔を真っ青にしてその場に崩れ落ちた。
帝国の信用は地に落ち、サラムにおける彼らの統治権は、事実上この瞬間に消滅した。




