3-6. 帝国とギルド連合の闇
サラムの復興から半年を過ぎた。
帝国の使者、バルトスが訪れ、失態を犯してからはひと月ほどが経っていた。
シリルは、アル・ハザードの冒険者ギルド本部に、一つの書類を提出した。ら
それは、「特定独立ギルド『新星の翼』の設立」を求める申請書。
「実績は十分だ。サラムの経済効果、治安維持率、そして未踏地の開拓。これら全て、既存のギルド連合が10年かけても成し遂げられなかったことだ」
アルハザードのギルド職員やギルドマスターはノヴァウィングの活躍を側で見守っていたので、この申請を受け入れた。
しかし、それを踏まえても受け入れたくない者たちも多くいた。
そして議論会を開催する日まで、誰も返答をしないという異例の事態になっていた。
シリルの前には周辺諸国のギルド長たちが集まっていた。彼らの視線は冷ややかでした。彼らにとってノヴァウィングの成功は称賛すべき功績ではなく、自分たちの無能を証明する脅威過ぎなかったのだ。
昇格審議会の行われるアル・ハザードのギルド本部に、帝国から一通の「親書」が届いていた。
そこには、昇格を認めるどころか、ノヴァウィングの活動そのものを禁じる命令が記されていた。
「……残念だが、君たちの申請は却下された。理由は『魔導技術の独占による国際バランスの崩壊』、および『出自不明の者たちによる治安乱れ』だそうだ」
審議会に集まったギルド連合の重鎮たちは、シリルの目の前で、サラムの復興実績が記された報告書に大きな「×」印を書き込みました。
「おまけに、サラムの功績は今日から帝国の公式記録では『帝国調査団の指導による成果』と書き換えられる。君たちの名は、どこにも残らない」
組織的な揉み消しーーどんなに世界を良くしようとしても、頂点に立つ者がそれを認めなければ、歴史上存在しないことにされてしまう。それがこの世界の腐敗したルールとして存在していた。
映像魔道具の通信で参加していた、今回の審議会責任者ーギルド連合長のひとりーダソウは、立派に蓄えた真っ白な髭を撫でながら話した。
「君たちの活躍は知っている。この中にはそれを認めるものも、否定したいものたちもいる。ギルド連合としては意見はまとまっていないのだが……この帝国の親書はギルド連合本部にも送られてきておる。少なくともこの指摘された内容の真偽を判断するまではこの申請は受理されない」
「承知しました。帝国の親書はこちらでも拝見しました、私達ノヴァウィングは引き続き申請を続けます。よろしくお願いいたします」
シリルはビジネス的な笑顔を見せた。そこには不安や怒りなどの一切の感情はなかった。
審議会はあっという間に終了した。出席者たちの会話も特になく、ダソウからの通達とシリルの返答のみだった。
出席者はあっという間に帰り、アルハザードのギルドの職員たちは肩透かしを喰らうようだった。
「力になれずすまない」
ギルドマスターは残念そうに言った。
シリルは答えた。
「大丈夫よ。それよりも頼んでいた件、頼みます」
「わかっている。時間はかかるが、任せろ」
シリルはそれだけ聞くと満足そうに笑い、審議会を後にした。
◇
「あのクズどもが……! 俺たちの努力を、全部なかったことにしたのか!?」
ガレオンが机を叩き割り、リオヴェンは影の中で殺意を煮え立たせていました。
拠点に戻ったシリルに、審議会の内容を説明され、メンバーの空気は重く暗い。
「シリル、今夜、その審議に関わった者たちを……」
しかし、シリルは静かに眼鏡を外し、布で拭き始めました。
「いえ、構いません。……こうなることは、8割方予想していましたから」
「予想していた、ですって?」
ナナーリカが驚いて顔を上げます。
「ええ。彼らは『組織』を守るために、自分たちより優れた異分子を排除する。それは生物の生存本能に近い。……ですが、彼らは致命的なミスを犯しました」
シリルは、焚き火の炎を見つめるカグリナに目を向けました。
「彼らは『ギルド』という枠組みの中に我々を閉じ込めて管理しようとしたが、拒絶することで我々を完全に自由してしまった」
シリルは、揉み消されたはずの昇格申請書の控えを、カグリナの前にあるテーブルの上に投げ出しました。
「公式なランクなど不要です。私たちはもう、既存のルールで遊ぶ冒険者ではない。世界を根本から書き換える開拓者となりましょう。帝国が歴史から我々を消すというなら、我々が彼らの知らない場所で、彼らの及ばない新しい歴史を作ればいい」
カグリナは、燃え上がる紙片を見つめ、静かに微笑みました。
「大丈夫、私たちのやってきたことを見ている人はたくさんいる。そして帝国の失敗を目撃した人もね」
シリルは眼鏡を光らせ、凍てつくような冷たい笑顔を見せた。
「これよりノヴァウィングは、砂漠のサラムを影の拠点としつつ、本隊は直ちに最終目的へと向かいます」
テーブルには申請書と一緒に、何かの計画書も広げられていた。




