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3-4. 不治の病「砂毒」



サラムが「死せる都市」から「砂漠の真珠」へと変貌を遂げるにつれ、人々の視線はカグリナにも集まり始めた。




破壊の象徴であった火を、豊かさと慈愛の象徴へと変えた赤髪の魔女カグリナ。





サラムの街が活気付くにつれ、最も人々に恩恵を与えたのは、街の中央に鎮座するカグリナの精錬炉。


カグリナが管理するその炉は、恐ろしい熱を放つのではなく、街に富をもたらす心臓となっていた。



カグリナは毎日、炉の前に立ち、絶妙な魔力操作で温度を一定に保つ。



「カグリナ様、今日も最高のガラスが焼けました! これで今月も村の連中に腹一杯食わせてやれます!」




かつて野盗紛いの生活をしていた荒くれ者たちが、今や職人としてカグリナを姐さんあるいは先生と呼び、心からの敬意を払っていた。彼女の火が生み出す高品質なガラスと銀細工は、サラムを砂漠随一の富裕都市へと押し上げた。








ある日、街の門番たちが騒ぎを起こし、カグリナとリオヴェンが様子を見に来た。



「何かあったの?」


カグリナが尋ねると、門番をしていた男たちは外にいる家族を指さした。


「難民なんですが、コイツらを殺すかどうかで揉めました…」


「殺す? なんでそんな物騒な話に」


カグリナがリオヴェンの顔を見た。リオヴェンはうなづいて、男たちに話しかけた。



「難民はみんな受け入れるように指示があったはずだ。この人たちも特に不審な点はなかったはずだな」


探知でも魔力反応などはなく、問題ないと判断されここまで辿り着いているはずだった。


「こいつらは『サドク』なんだ」


門番の一人が、家族で一番大きな人のフードを取るようにいった。

その人物は顔を出すのをひどく嫌がったが、門番の男は許さず、無理やりフードをとった。



「見たらわかる、この黒い顔。こうなったら死ぬしかない。砂漠の民はこうなったら人間を殺すことでしか救えない」


フードをとった若い青年の顔は黒く焦げたような皮膚に覆われており、人の肌のような柔らかそうな部分は、まぶたと額の少ししかなかった。


「これは病気なの?」


カグリナはこの症状を知らないようだ。

リオヴェンも首を傾げていた。


「砂漠で生きていたら、みんな知ってるがね。あんたらは外から方から知らないだろう」


門番の男たちはこの症状について詳しく説明した。



街に砂毒さどくという、砂漠特有の感染症が持ち込まれる危険がある。


高熱と皮膚の硬化を伴うこの病に、移住者たちはパニックに陥いるだろうと。いずれは体が動かなくなり、死ぬしかない。


この家族もどこかの街を追い出されてきたのだ。砂毒は皮膚の接触により伝染し、家族から近隣、そして街で感染する。



「焼き殺して処分するしかない……!」



極論を叫ぶ自警団の前に、カグリナが静かに立ち塞がりました。



「火は、奪うためだけにあるのではありません」


「しかし、街に入れたらたちまち広がるぞ」


そうこうしている間に小さな子どもが倒れてしまった。


ガクリナは病に倒れた子どもの前に跪き、その細い指先に蒼い残り火を灯す。それは熱を一切持たず、ただ不浄な魔力だけを焼き払う浄化の炎。



「これが病か、呪いの一種か……砂漠にしかない病なんて聞いたことがない。これは一か八かの賭けよ」


カグリナが手をかざすと、子どもの皮膚を覆っていた黒い斑点が、煙のように浮き上がって消え去っていきました。


「……あ、あったかい……」


子どもの呟きに、周囲の大人たちは言葉を失いました。一人、また一人と患者を癒していくカグリナ。その背中には、夕陽と魔力が混ざり合い、まるで炎の翼が生えているかのような神々しさがあった。






夜、街の広場にはカグリナへの感謝として、住民たちが持ち寄った果実や花が山のように積まれていました。


「砂毒は病気じゃないらしい! 呪いの一種だった」


「じゃあ誰が呪いをかけてるんだ!」



街は砂漠の不治の病だった「砂毒」の治療法に喜ぶ反面、呪いという新しい問題に直面していた。




カグリナはそれらを困ったように眺めながら、夜風にあたっていました。



「……尊敬されるというのは、変な気分ね」




影の中から、リオヴェンが静かに姿を現しました。


「貴女の火が、人々の冷え切った心を温めた結果です。当然でしょう」



リオヴェンは、カグリナに跪き、住民たちが供えた一輪の砂漠の花を拾い上げ、彼女に差し出しました。



「ですが、あまりに多くの光を浴びすぎると、貴女の影である私の居場所がなくなるかもしれない…少しだけ、独占したいと思ってしまう。これは、俺の闇の傲慢ですね」



カグリナは花を受け取り、ふっと微かな笑みを漏らした。


「リオヴェン。どんなに強い光を浴びても、私の足元には常にあなたの影がある。それだけで、私は助けられてるわ」



リオヴェンはその言葉を胸に刻み、彼女への報われない、しかし揺るぎない献身を改めて誓った。






一方で、リーダーのシリルはこの状況を冷徹に、かつ最大限に利用しようとしていた。


街は砂漠の不治の病だった「砂毒」の治療法に喜ぶ反面、呪いという問題に直面していた。



報告を受けた時のシリルは頭を抱えていた。


「この街が……いえこの国が、誰かに侵略されようとしていたのかもしれないわね。全く問題がつきないわ」



ナナーリカが古い本を探し出して来て、シリルに渡した。


「調べてみても砂毒っていう病は載ってないな。おそらく最近の流行だろうよ。何かの策略かもしれないね」




「カグリナの治療は街の統治において極めて有効なソフトパワーとなる」



シリルはナナーリカに命じ、ナナーリカの水の復活劇カグリナのガラス細工などの功績を記したサラム復興記を周辺国へ配布させた。これは単なる宣伝ではなかった。そしてカグリナの起こした砂毒の治療法についても合わせて流した。


ーー砂毒は病ではなく呪いだ。呪いの浄化で治るとーー




人々は次第にこの街そのものに強い希望を持つようになっていく。


「賢者がいるこの街を攻撃することは、全砂漠の民を敵に回すことだ」


「あそこは砂漠のオアシスだ、みんなで守らなくちゃ」



たくさんの人々がこの街を知り、憧れるようになった。そうたくさんの人が見ているという無言の圧力を、かつて自分たちを追い出した大国やギルド連合に突きつけるように仕向けたのだ。





そしてサラムの復興の噂は、ついに海の向こう、帝国の耳に届きはじめた。


「追放したはずの連中が、砂漠に楽園を築いただと?」


嫉妬に狂った大国の権力者が、彼らの正体を暴き、異端として処刑せよという密命を帯びた、かつてのシリルの同僚やライバルを送り込む計画を立て始めていた。





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