3-2. 『ノヴァウィング』の躍進
ー三ヶ月後。
アル・ハザードのギルドマスターが視察に訪れた時、彼は絶句した。
そこには、砂に埋もれていたはずの廃墟はなく、豊かな水が流れ、カグリナの炎によって精製された魔法銀が交易品として並ぶ、活気あふれる新星都市が誕生していた。
◇
「忘却の都市サラム」がいかにして一ヶ月で蘇ったのか。
それは単なる魔法の力ではなく、シリルの現代的な都市計画と、メンバーそれぞれの特化した属性技術が噛み合った、いわば異世界ベンチャーによるインフラ革命でした。
ーーサラム復興の具体的プロセス。
街の再生は、まず血流である水から始まった。
ナナーリカは、街の地下に広がる石化しかけた古代水路を調査を完了した。噴水に続き、街全体の水路を再建する用意を整える。
地下にはシリル、ナナーリカ、ジオルドルがいた。
「シリル、この水路は死んでいません。ただ、上流で砂が結晶化し、逆流の呪いのような状態になっているだけです」
「では、再起動をお願いします。必要な資材は?」
「ない! この程度ならね!」
ナナーリカが水路に触れ、極わずかなの魔力を流し込んで結晶化した砂を粉砕。その瞬間、ジオルドルが土魔法で水路の内壁を瞬時にコーティングし、漏水を防ぎました。
さらにジオルドルは、砂漠の砂に特定の鉱石を混ぜ、半永久的な浄化フィルターを地下に構築。
身を乗り出し落ちそうになっているナナーリカに、ジオルドルはため息をついていた。おやつの干し肉を腰のカバンから取り出した。
「ナナーリカ、これ」
「むぐ……ジオルドル、気が利きますね」
ナナーリカが水路に落ちず、モグモグしている間に、サラムの街中に数十年ぶりに飲める水が溢れ出した。
街の隅には、ゲイル、ガレオン、ブリルがいた。
砂漠の都市の最大の敵は熱。
ゲイルは、シリルの指示で街の四隅に風の魔力を定着させた魔導風塔を設置した。
ーー風をただ吹かせるのではなく、建物の隙間を縫うように循環させてください。
シリルは風を効率的にふかせることで、砂漠の熱を制御しようと計画していた。
「シリルさん! エルフの感覚で、一番涼しい空気の通り道を作りますからね!」
ゲイルが作り出した風の回廊は、街全体の温度を常に五度以上下げらことができた。
さらに、後日ナナーリカが氷魔法の魔法石を塔に組み込みその風に乗せることで、サラムは砂漠の真っ只中にありながら、常に初夏の高原のような涼しさを保つ避暑地へと変貌した。
カグリナとリオヴェンは壊れていた建物の整備に取り掛かった。建物の崩れたものを一ヶ所に集め、資材に振り分ける。
シリルとナナーリカの計算の元、街の中央に、巨大な魔法陣を刻んだ精錬炉を構築。
カグリナが手をかざすと、炉の中は通常の炭では不可能な超高温に達した。ジオルドルが砂漠の砂から抽出した特殊な鉱物を、カグリナの炎で一気に溶かす。
そこから生み出されたのは、アル・ハザードの王族が喉から手が出るほど欲しがる砂漠の真珠と呼ばれる最高級の耐熱ガラスと、純度の高い魔法銀ミスリル。
「これを交易品として輸出し、その利益で周辺の村から労働者と食料を買い叩く……失礼、正当な価格で雇用します」
シリルの冷徹かつ完璧な経済戦略により、サラムはただの廃墟から莫大な利益を生む工場都市へと進化した。
そして、街に人が増え、物流が生まれると新しい問題が生まれた。
「どんなに街が豊かになっても、略奪者に襲われては意味がありません」
シリルは初めからそこまで想定していた。
リオヴェンは、街の周囲数キロメートルに渡って影の監視網を張り巡らせていた。
「シリル、北西より盗賊団、総勢三十。魔獣も数体連れています」
「対処を」
「ーー了解」
リオヴェンは姿を見せることはない。
砂漠の夜、盗賊たちが街に近づこうとすると、彼らはサソリの罠へ誘導される。それでも対象できない強者たちはリオヴェンの影の罠、あるいは、ゲイルと連携して風の刃で対象された。
侵入者は皆、サラムには見えない守護神がいると恐れをなして逃げ出した。
そして、仕上げは人々の心。
ブリルは、新しくやってきた移住者や子どもたちの間を駆け回り、そのピンク色の毛皮を触らせて回りました。
「みんなー! お水も冷たい風もあるよ! ここは楽しい街だよー!」
ブリルの無邪気な笑顔と、ジオルドルが土魔法で作ったブリルのステージ…ピンクの噴水広場は、移住者たちの不安を払拭し、街に「活気」という名の魔法をかけました。
ナナーリカの魔法で飛ばした報告書には、その全てを記述した。
◇
風の噂と、報告書の内容が信じられないギルドマスターは、実際に足を運んだ。
「信じられん……。これほどの短期間で、インフラから治安、産業まで完璧に整えるとは。お前たちは一体何者だ?」
シリルは、街の中央に掲げられたノヴァウィングの旗を指差した。この街はノヴァウィングの拠点、彼らはなくてはならない存在となっていた。
「私たちはただの冒険者ですよ。……少しばかり、世界の『古臭い常識』に飽き飽きしているだけのね」
こうして、アル・ハザードにおいて確固たる地位と身分を手に入れた一行。
だが、シリルの視線はさらに先、自分を追い出した大国への反撃を見据えていた。




