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2-4. 新しい旋風



突然の躍進を見せる「ノヴァウィング」に対し、ユースティス王国の既存ギルドや、彼らを追放した大国の息がかかった者たちが動き出す。




冒険者登録から一年足らず、B級へのスピード昇格を果たした「ノヴァウィング」の名は、ユースティス王国の首都に知れ渡っていた。しかし、それは同時に、利権を脅かされる既存パーティやギルドたちの激しい嫉妬を買うことでもあった。




ある日、ギルド本部に不穏な空気が流れる。



「聞いたか? あの『ノヴァウィング』のリーダー、シリル。あいつ、大国を追放された大罪人らしいぞ」



ギルドの掲示板には、大国から回ってきた指名手配書の写しが貼られていた。そこには、国家機密を盗み出し、国を売ったとされるシリルの顔が描かれている。もちろん、それは旧体制の貴族たちが捏造した偽りの罪状だった。



受付嬢のルミララは青ざめ、必死に抗弁した。


「そんなはずありません! シリルさんはこの街のために……!」


ギルドマスターがルミララの肩に手を置いた。


「諦めろ、この街は小さい。騒げば俺たちがやられる。あいつらがそんな奴じゃないのは、ここにいるほとんどが知っている。騒いでいるのはあいつらに関わったことのない奴らだけだ」



「そんな……」


ルミララは涙を浮かべていた。



しかし、群衆の心理は残酷だった。一度「悪」というレッテルを貼られれば、これまでの功績さえも裏があると疑われ始める。




その頃、宿の地下で、リオヴェンはシリルに報告を行っていた。彼の表情はかつてないほど険しい。



「シリル、状況は最悪です。ギルド連合が派遣した追跡者たちが、この街の衛兵隊と接触しました。明朝、この宿は包囲されます。さらに、民衆の間にも貴方の過去を誹謗する噂が完全に浸透しました」



「……予想より早いね」



シリルは眼鏡を指で押し上げた。その瞳に動揺はない。彼は既に、この事態を想定内の「リスク」として計算していた。



「シリル、俺がそいつらを全員……!」


ガレオンが拳を握りしめるが、シリルは静かに首を振った。


「暴力は彼らの思うツボです。私たちはここで戦うのではなく、消えることを選びます。それに少しずつ集めてきたこれもある……」


シリルが持つのは赤い鉱石のついたネックレス。そして視線を向けたのは、賢者ナナーリカだった。彼女は生活能力こそゼロだが、その知識は禁忌の領域にまで達している。



「ナナーリカ、アレを」

「ええ。準備はできてる。……ジオルドル、手伝ってください」



ナナーリカが取り出したのは、虹色に輝く小瓶だった。



「これを飲めば髪や皮膚の色が変わります。身体の変化の薬で一番副作用が少ないものです……ただし、ひどく不味いですよ。これに印象を薄める効果を付与します」



シリルは迷わずそれを飲み干した。


激しい光と共に、シリルの容姿が変化していく。漆黒の髪は光輝く銀の髪、そして小麦色の肌は真っ白になっていた。


「……どうですか?」


甲高い女性特有のシリルの声まで、ハスキーな低音に変わっている。



「わっしょい! シリル姉ちゃんが、かっこいい感じになったー!」



ブリルがはしゃぐ中、カグリナは少し寂しげに、しかし力強く頷いた。



「だいぶ印象はかわるんだね。でもその瞳の奥にある知的な輝きは隠せてないね」



 

翌朝、重装備の衛兵たちが宿を包囲し、踏み込んだ。しかし、そこに指名手配のシリルの姿はなかった。一行は全員が変装し、すでに宿を出ていた。


「ここに冒険者ノヴァウィングはいないか?」


「いないですか? おかしいですね。昨日は泊まったはずなのですが……」



衛兵たちに質問されたルミララは、案内を頼まれる。ルミララは彼らの部屋とは違う場所へ衛兵たちを連れて行った。



「えっとシリルさんの部屋はここですね……。おかしいですね、何もなくなっています」



衛兵たちは慌て始める。

「なんでいないんだ? 情報が漏れているのか!」



街の門を、一台の馬車が通り抜けていく。

御者席には、漆黒の御者リオヴェンと、彼を手伝う温厚な狩人ジオルドル



中には、侍女風の衣装を着た美しい赤髪の女性カグリナと、少し抜けた様子の高貴な女性ナナーリカ、そして、眼鏡の優秀そうな執事(男装したシリル)。そして大きな荷物ブリルとガレオンと、護衛の剣士ゲイルを後ろに乗せている



「シリル。次の目的地は?」

馬車の外からからリオヴェンが問いかける。



「さらに西、砂漠の国アルハザードを目指します。あそこは実力至上主義の国。我々の技術と魔力があれば、より高く飛べるはずです」



シリルは、遠ざかるユースティスの街を見つめた。


「彼らは我々を追い出したつもりでしょうが、実際には、我々の翼が広がるのを助けたに過ぎない」



カグリナはリオヴェンの気配を感じながら、静かにランタンに炎を灯した。


馬車の中は明るくなり、シリルは地図を広げた。


「どこへ行こうと、私たちの進む道は変わりませんね」


シリルはアルハザードを指差した。地図上でもかなりの距離があった。


「街を通過しながらでも一週間はかかるかしら。……あれも送りつけた。しばらくは様子見だね」


シリルの首元にあったはずのネックレスはなくなっていた。

代わりに似たものをナナーリカがつけている。


「あれってなんなの?」


カグリナが二人に問いかけた。


「私の記憶にあった、思い出せる限りのあの国の悪事の証拠だよ」


「それを改めて書き出して、この国の王様に秘密裏に渡したのさ。ギルドマスターが手配してくれたよ。あのネックレスはそれをまとめて入れてあるんだ。この国でもトップクラスの魔術師なら解読できるだろう」


ナナーリカは悪そうな顔で微笑んでいる。


「ええ。今頃は首都に着いたかしら? もし紛失したとしても、コピーは用意している」


シリルはナナーリカの首にあるネックレスを見た。

カグリナは半眼になり、少し拗ねた顔をした。


「そんなことしてしていたのね。悪い奴みたい」


当選というように笑うシリルに、カグリナ少し安心したように笑った。



馬車の外で馬を引いていたリオヴァンとジオルドルにも、その会話が聞こえていた。


二人も穏やかに笑っていた。


ノヴァウィングは逃げたのではない。未だ見ぬ新天地へと、再びその翼を羽ばたかせた。





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