トリフォリウム・ワークス
第2話です!
『トリフォリウム・ワークス』。
まだカウンセリングという概念すら広まっていない時代にひと足早く出来たカウンセリングのための会社。アルト・ヴァレンティンを社長とし、彼の友人であるラク・ヒノミヤが出所不明の多額の資金を彼に寄付し、出来た会社だ。リュミナリアのリュミナスシティにあるレンガ造りの建物が本社で、元々銀行だったが大陸戦争で破産。その建物をアルトが買い取り、作り変えたものだ。アルトは大戦で職を失った知人をスカウトし、入社させていた。会社の建物や道具はもう揃っており、開業まであと2日だ。
リラ・エンバースはそんな少し変わった会社の前にアルトと立っていた。
「ここで君には働いてもらおうと思う。」
アルトは会社の大きな扉を開ける。中では数人が作業していた。
「君の同僚たちだ。ノア、ちょっと来い。」
「なんだよおっs...社長。」
「ちゃんと社長って言えて偉いぞ!」
ノアは雨の日が3日続いたときのようなやる気のない顔でアルトの前に現れた。アルトが今日は元気で少しめんどくさい。アルトはそんなノアの反応などまるで見えてないかのように話を続ける。
「紹介しよう。この子はリラ・エンバース君...いや、『ちゃん』かな。どっちがいい?」
「どちらでも構いません。呼び捨てでも結構です。」
「とにかく、新入社員のリラ・エンバースちゃんだ。リラちゃん、コイツの名前はノア・ルーデンだ。」
「よろしくお願いします。」
リラはノアにまるで機会のようにきれいなお辞儀をした。ノアは少し驚きながら、リラに右手を差し伸べようとして止めた。2秒後、ノアは左手を差し伸べた。
「あぁ、よろしく。」
ノアはリラと握手した後、アルトの方へ顔を上げる。
「社長、見損なったぞ。ロリコンが。」
「っ!誰がロリコンだ!違う!この子はそういうのじゃなくて!」
ノアはフッと笑うと、眼鏡を光らせ、ポケットに手を突っ込んで自分の持ち場に戻っていった。
「あの野郎、あとで覚えておけよ。」
アルトは少し悔しそうにノアを睨む。リラは何も気にしてないかのように何を見るわけでもなく、じっとしていた。
「リラちゃん、次行くよ。」
アルトはリラにそう言うとロボットにスイッチが入ったかのように突然リラは頷き、アルトについて行った。
「あっちの黒い髪がカレン・フォードで、あっちの少し幼く見えるのがアンナ・ルーチェだ。どっちも優しいからリラちゃんの友達にすぐなれるよ。」
リラはアルトになんの相槌も打たずに話を聞いていた。
「少し話しておくといい。俺はちょっと自分の仕事をしてくる。」
アルトはリラにそう言うが、リラはやはり何の反応もしない。ある程度予想はしていたが、ここまで自分になんの反応もしてくれないと少し傷つく。まぁ、殺そうとして、失敗した男に会社にいきなり勧誘されてここで働けと言われているのだ。無理もない。やはり自分が少しはなれてリラの自由な時間を作ってやったほうがいいだろう。アルトは少し苦笑してリラの頭をポンポンと撫でた。そしてそのまま社長室に向かっていった。
「先輩、見てくださいよ。あの娘。」
アンナはカレンの肩をツンツンして言った。
「えっ?どこ?」
カレンは書類から顔を上げてあたりを見渡す。アンナはリラの方をすっと指を指す。
「あの娘ですよ。ほら、ずっとじっとしてるあの娘。もう20分はあそこで止まってますよ。少し不気味じゃないですか?」
「嘘、私気づかなかった!」
「でしょ?」
「ちょっと話してくるわね。」
「先輩、マジですか?」
カレンは席を立つとリラの前まで歩いていった。黒い長い髪を後ろで束ねており、胸は大きい。
「私の名前はカレン・フォード。あなたのお名前は?」
「リラ・エンバース。」
リラはまるで作業のように返事をする。
「そう!素敵なお名前ね!」
そっけないリラに対してカレンは明るく接した。
「うわ、この娘感じ悪。」
カレンの後ろでアンナはボソッと言った。
「アンナ、あなたも挨拶しなさい?リラちゃんとはじめましてなんでしょ?」
「はいはい。」
アンナは気だるそうにカレンの隣に向かった。
「あたしはアンナ・ルーチェ。よろしく。」
アンナは手を差し伸べた。リラはすっと自分の手を出してそれに応えた。
「けっ。」
アンナはリラのことが気に食わない様子だ。
「こら、アンナ。態度悪いわよ。ごめんね、リラちゃん。」
「いえ。なぜ謝るのですか?」
「えっ?えっと...」
カレンは困惑する。
「おい!お前!新人だからって調子乗るなよ!」
アンナはここぞとばかりに大きな声でリラに怒鳴る。
「アンナ、いきなり大きな声を出さない。リラちゃんがびっくりしちゃうでしょ。それに、アンナ、あなたも私もここにいる人達はみんな新人同然でしょ?先輩面しないの!」
「私は驚いてなどいませんが。」
「むー!先輩はその娘の肩ばっかり持って!」
リラとアンナの声が重なる。そしてしばらく沈黙が続く。気まずい空気だ。カレンはわざとアンナのことをお前のせいでこんな空気になったんだと言わんばかりの冷たい目でじっと見つめる。
「...分かった!分かったよ!あたしが悪かったよ!クソッ!もう!悪かったから!ごめんなさいすればいいんだろ?ごめんなさいを!はいはい!ごめんなさい!これでいいだろ!」
アンナは半ギレでリラに謝った。
「みんな、元気そうだね。」
そんな空気をぶっ壊すかのようにアルトが部屋に入ってきた。カレンとアンナの視線がアルトの方へ動く。アルトは空気が気まずいことになっていることに今気づいたようだ。
「えっと...リラちゃんに新しい同僚を連れて挨拶させようと思って...」
アルトは後半の方はモゴモゴと言う。カレンの視線が冷たい。アンナはなにかに怒っていて、リラもじっと表情一つ変えずにアルトを見つめている。
「紹介しよう、リラちゃん。この会社を創る資金をくれた人、ラク・ヒノミヤだ。」
アルトの後ろからひょこっと黄色と黒が混じった髪色の18くらいの青年が顔を出す。
「どうもー、君がリラちゃん?よろしく。」
「ラク先輩!」
リラに話しかけるラクの言葉を遮るようにアンナが嬉しそうに顔を上げる。
「よぉ、アンナ。」
ラクはアンナとハイタッチをする。
「で、ラクさん、あなたこんな時間にやって来るってことは寝坊ですか?」
カレンはため息混じりにラクに聞く。
「いや?僕はちゃんと仕事をしていたんだ。隣の国へ、またその隣の国へ、ましてや大陸中に、いや、世界中にこの会社のポスターを配っていたんだ!」
「へー。どうやって?」
「嘘じゃないもん!どうやったかは企業秘密だけど!」
このラクと言う男は不思議な人間だ。会社を立ち上げる資金をアルトに渡したのは彼だが、彼はその金を食料を売って設けた金だと言っていた。しかし、敗戦後、ラクがそんなに売ったら大金になるほどの量の食料をどこで手に入れたかは不明。それ以外にも謎はたくさんある。カレンはそんなラクを信用していなかった。だが、なぜかアンナは懐いていた。アンナは人懐っこいから不思議ではないが。
「ラク・ヒノミヤ...」
ボソッとリラが呟く。
「いい名前だろ?神話の英雄、自然の神様と同じ名前だ。まぁ、隣の国では邪神の名前だけど...」
ラクはリラの前にしゃがむ。リラの顔をまじまじと見つめ、そしてニッと笑ってリラに握手した。そしてすっと立ち上がる。
「アルト社長、少し話がある。」
廊下で周りに誰もいないことを確認してからラクはアルトに言った。
「あの娘は人殺しだな?」
「鋭いな。なぜ気付いた?」
アルトの返事にラクは「はぁ」とため息をつく。
「僕と同じ目をしていたんだよね。」
「何だ?人殺しは嫌いなのか?言っておくが、今は戦後だ。兵士に駆り出された人間たちはほとんどが人殺しの経験があるぞ。」
「はぁ、知ってるよ。僕もアンタもみんな人殺しだ。僕が言いたいのは、あの娘はこの仕事に向いてないという話だ。あの娘は人殺しだ。その点は僕ともアンタとも一緒かもしれない。だけどあの娘が僕等と一緒で精神が強いとは限らない。カウンセリングってのは人の心に触れる仕事だ。そんなことをあの娘にさせたらあの娘が持たないぞ。」
アルトはラクの言っていることを理解しようとする。おそらくリラはカウンセリングのしごとをしているうちに何処かのタイミングで精神を病んでしまうと心配しているのだ。
「...その点は...俺も少し心配だ。あの娘には荷が重いかもしれない...」
アルトはモゴモゴと口を動かす。ラクはじっと表情を変えずにアルトを見ていた。
「だけど、これは彼女には話したことなんだけどね。彼女はこの会社に入って変われると思うんだ。彼女の心をこの会社で変えれると思うんだ。彼女に人の心を救わせる。そして彼女の心も救う。」
「社長、アンタそれは残酷なことだよ。彼女は必ず自分が人の心を救う資格があるのか迷う時が来る。それはひどく辛く、ひどく苦しいことだ。」
「それでも俺は、あの娘にいろんなことを経験してほしいんだ!」
アルトは少し大きな声でラクに叫ぶ。普通の人間なら少し驚いたり、何かしらの反応を見せるような声だ。だが、ラクは表情一つ緩めずに言う。
「まぁ、社長が決めたことだ。僕が口出しすることではないな。」
ラクはそう言って廊下を歩いていった。
「リラちゃん。君の新しい部屋、家だよ。」
日が沈み、夜になった頃、会社の一室の前にアルトとリラは立っていた。
「ここですか?」
「あぁ。中には今はベッドと机、椅子、クローゼットしかないけど、自由に装飾して構わないよ。」
大体6畳くらいの部屋。一つの窓に、小さめのベッド。その隣に置いてある小さな机と椅子。とても豪華とは言えない。もしこれがホテルの部屋だったら星1.5、良くても星3程度の部屋。アルトも少し申し訳なさそうな顔をする。
「ありがとうございます。」
声色を変えずに、表情も変えずにリラは部屋に入っていった。
「どういたしまして...」
リラは何も喋らない。しばらくしてアルトがまた口を開く。
「じゃぁ、俺は自分の家に戻るから、何かあったら隣の部屋にいるアンナに聞いてくれ。」
「アンナさんもここで寝泊まりしているのですか?」
「あぁ。詳しくはあの娘から聞いてくれ。」
アルトはコートを羽織って部屋から離れていった。
「アルト・ヴェレンティン様。」
会社から出た瞬間に突然女性の声がした。アルトは驚いて振り向く。ガス燈の下、少し照らされたところに一人の女性が立っていた。髪色は青い。
「どちら様ですか?」
アルトはやや警戒して、だがそれを表に出さないように女性に話しかける。
「ラク・ヒノミヤの知人です。あの人がこの会社で働くと聞いて。」
アルトはなるほどと思った。ラクの知り合いだから髪色が変な髪色なんだ。アイツの友達ならそこそこの変人でもあるに違いない。
「それで、私に何の用ですか?」
「いえ。一つだけ言っておきたくて。」
女性はアルトに向かって深く、丁寧にお辞儀をした。
「ラク・ヒノミヤをよろしくお願いします。あの人は子供っぽいところがあって、まだ未熟なところもたくさんあります。ですが、そこもあの人の良いところなのです。あの人は優しいんです。改めて、あの人のこと、ラクくんのこと、ラク・ヒノミヤのことをよろしくお願いします。」
アルトは不意を突かれたような顔をする。驚いた。まさかそんなことを言われるとは。数秒たち、アルトの顔から驚きの表情は薄れ、薄っすらと笑う。
「えぇ。任せてください。」
女性は安心した顔をすると暗闇の中に歩いていった。
「ケッ!お前、同居人かよ。」
アンナはリラの顔を見て嫌そうな顔をする。
「迷惑だったでしょうか?」
「いいや。あたしが気に食わないだけだ。気にするな。」
アンナはリラの目を見ずに答える。
「なぁ、いい場所連れて行ってやるよ。」
会社の屋根の上、町中なので星は殆ど見えない。リラはアンナについて行く。
「な、あたしのお気に入りの場所なんだ。」
屋上から見るリュミナスシティの夜景。特別綺麗というわけでも、見渡しが良いわけでもない。
「なぜ、この場所が好きなのですか?」
「海が見えるから。」
アンナは即答でリラに答える。
「海、ですか?そんなに海は特別なのですか?」
「あぁ。少なくともあたしにとってはな。海って広いんだ。あたしたちが想像も出来ないくらい。海の外はきれいなんだよ。海の外の世界はいっぱい人がいるんだよ。そんな海がここからだと見える。」
「山に登れば、または港に行けばここよりよく見えますよ?」
「ここから見るのが良いんだよ。レンガの間からチラッとだけ見えるのが。」
リラは理解できなかった。
「なぁ、お前に好きなものはあるか?」
「いえ、特に。」
「いいじゃんか、同居人だろ?あたしもお前のこと知りたいんだよぉ!強いて、強いて言うならでいいからさ!」
「なら、小刀です。斬れ味の良い。」
「えっ?」
アンナはしばらく驚いて黙る。
「なんというか、お前、変わってるな...」
「そうですか?」
「あぁ。すごく。」
アンナはそう言うと、リラと共にしばらく海を眺めた。建物の間にチラッとだけ見える大きな世界を。
「なぁ、昼、いきなり怒鳴ったりしてゴメンな。あたし、素直じゃなくて。」
アンナは少し恥ずかしそうに頭をかきながら言う。リラの方をチラチラと見て、また海に目を戻してを繰り返しながらリラの表情を伺う。
すると、リラの口が動いた。
「なぜ謝るのですか?」
昼と同じ返事。
「お前なぁ...」
アンナは謝って損したと思った。少しリラに呆れた。だが、ふふっと喉の奥から何かが込み上げてきた。
「ふふっ...あはは!」
「何が面白いのですか?」
「いや...あはは、なんでもねぇ!フッ!お前、やっぱり変わってんな!」
アンナが何故笑うのかリラは理解出来なかった。アンナは笑い続ける。アンナの笑い声が夜の街に響いていた。
感想等あればコメントお願いします。最近リゼロが面白すぎる!




