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夜の森に輝く希望

新連載です!よろしくお願いします!





 あの日はもう3月だというのに雪が降っていた。リュミナリアでこの季節に雪が降るのは珍しい。雪は激しく振り、あたり一面が白くなっていた。アルト・ヴァレンティンが『少女』と出会ったのはその雪景色の中だった。





「もしっもーし?あのー、ごめんくださーい!」


 朝から良く言えば元気な、悪く言えば騒がしい声がアルトの家に響き渡った。アルトはベッドから起き上がり、顔を洗う。メガネを掛け、長い髪を後ろに束ねる。


「鍵は開いている。勝手に入れ。」


 ギィ、とドアが開く。一人の青年がドアから入ってくる。大きなカバンを二袋ほど抱えていて、手には白い手袋をはめている。黄色混じりの髪で、ヨレヨレの長袖の服を着ている。


「どうも。失礼しまーす!って、うわっ、部屋汚っ!」


 ラク・ヒノミヤはカバンの重さなどまるで感じてないかのように軽快にスキップするように部屋に入ってきた。


「約束の物は持ってきのか?」


 椅子に座ったアルトはラクに尋ねる。


「もちろん。このカバンが目に入らないのかい?」


 ラクは机の上にカバンを2つ置いた。


「3億だ。」


 鞄の中にはリュミナリア紙幣がぎっしり入っていた。


「すげぇな。どうやってこんな大金を集めたんだ?」


「いろいろ売った。たとえば、沢山の敗戦国を巡って食料をとか。」


「お前のことだ。今の時代なんでも高値で売れるのに安く売ったんだろ?」


「基本食料一つ30円。高くても100円。これで3億集めた僕を褒めてほしい。」


「ありがとう。感謝しているよ。」


 アルトは手を伸ばしてカバンを受け取ろうとする。しかし、ラクはその手を防いだ。


「ちょっと待った!!これじゃ僕にメリットがない。僕もタダ働きはゴメンだよ。」


 アルトはカバンからラクの顔に目を上げる。目があったラクはいたずらげにニヤリと笑い、口を開く。


「僕を社員にしてほしい。」


「...それだけか?」


「うん。僕は君の企業に興味を持っている。僕を社員にして君のもとで働かせてほしい。」


「本当にそれだけなのか?」


「もちろん。それで、返事は?」


「もちろん!というか、元々お前が俺に教えた仕事だろ?」


「ありがとう。」


 ラクはニコッと笑ってコートをはおり、ドアノブに手をかけた。


「あっ、会社を立ち上げたら僕に手紙を出してね。それと、今日は雪が降るから気をつけてね。すごい猛吹雪になるかも。」


「どこ情報だ?」


「うーん、虫の知らせ?」


 ラクはそう言ってアルトの家から出ていった。ラクという人間は不思議な人間だ。この金を食料を敗戦国で売って稼いだと言っていたが、そこまで高い値段で売ってはいない。この額を手に入れるまでどれだけの食料をどこで手に入れて売ったのかは不明だ。アルトの知らない職業も知っていた。さらに名前もアルトが幼い頃に読んだはるか昔の伝説について書かれた本に出てくる英雄と同じ名前だ。アルトはたまにラクを本当に伝説の英雄なのではないかと思う。


 アルトはラクが渡してくれた3億円を見つめる。この4分の1で借金は返せる。アルトは大きなレンガ造りの建物を買ったので借金まみれだった。元々銀行だった建物だが、大陸戦争前の不況で潰れ、建物だけが残っていたのだ。アルトはその建物をオフィスにして新しい事業を始めようとしていた。残りの金で人材を探そう。今は戦後。戦争で職を失った人はたくさんいるはずだ。


 アルトは街中に出かけることにした。


 街の路地裏の酒場。アルトの行きつけの店だ。この店には朝でも昼でも夜でも関係なくずっと飲んだくれている一人の青年がいる。ノア・ルーデン。眼鏡をかけていて、右腕は機械義手。まだ19だが、大陸戦争時代に若手の科学者として活躍していて、その名残で白衣を着ている。戦争で恋人を失ったらしく、『もうすぐ20だから』と言って酒に溺れている。


「よぉ、また飲んでるのか。」


「ひぇ?なんだよ、おっさんかよ〜。」


「そろそろ新しい仕事を見つけないか?お前も貯金で飲んだくれていても、いつかは底を尽きるだろ?」


「うっせぇなぁ!俺、ヒッ!俺の勝手だろぉ!」


「お前、このまま行けばアル中で死ぬぜ。仕事見つけてまともな生活をするつもりはないのか?」


「うっせぇうっせぇ!俺みたいなヤツを雇うバカがどこにいるっていうんだよ、おっさん!」


「ここだ。」


「ヒェ?」


「俺の下で仕事をしたくなったらここに電話してこい。」


 アルトはノアに紙切れを渡す。ノアはそれをしばらく空に浮かぶ雲を見るようにぼぅっと見つめ、内ポケットにいれてまた飲み始めた。


 アルトはそのまま店を出ようとした。


「大将、今日は飲まないのか?」


 酒場のオーナーがアルトに話しかける。


「あぁ。新しい事業の準備でね。職員を集めたくて。できれば、俺が自分で探したいんだ。俺が社長するわけだからな。」


「そうかい。でもひと目のつかない場所や、夜には気をつけろよ?」


「何かあるのか?」


「あまり大きな声で言いたくないんだがね。『殺人鬼』だよ。戦争で儲けた商人中心に最近殺害されているらしい。」


「なら俺には関係ない。俺は戦争で儲けてないし、会社を立ち上げるのに使った金は友人がくれたものだ。戦争で儲けたものではない。」


「ならいいのだが。」


 アルトはオーナーに軽く会釈をすると酒場を出ていった。





 アルトはその後も知人の元に訪れ、会社の説明と勧誘をした。ラクが言っていた通り、猛吹雪が昼から振り始めて、夕方にはかなり積もっていた。これは帰るのが大変だと思いながら、アラタは街からすこし外れた場所にある自身の家まで歩こうとした。街から出て、誰もいない真っ白な森の中をアルトは歩く。道も雪でわからないが、なんとなくで進んでいく。


 ガサッ!


 後ろで物音がした。アルトは振り返る。暗くてよく見えない。アルトは目をこらして見つめる。しかし、何も見つからない。聞き間違いだと思ってアルトは再び歩き出した。


 ササッ!


 また音がした。さっきより近い。


「誰かいるのか?いるなら姿を見せろ!」


 アルトが後ろに向かって叫ぶ。誰もいない。音もしない。しかし、先程までなかったのに足跡が増えている。自分の足跡だけではない。アルトは内ポケットに手を突っ込み、銃を取り出す準備をする。


 ガサッ、ゴサッ!


 アルトは警戒し、あたりを見渡す。


 バサッ!


 突然アルトの上から雪が落ちてきた。アルトは上を見上げた。木の上に誰かいる。だが、気付いたときにはすでにその『誰か』はナイフ片手に上から落ちてきていた。


「くっ!」


 アルトは咄嗟に身を転げさせ、落下攻撃を防ぐ。『誰か』はアルトが避けると思っていなかったのか、攻撃後、すこしもたつく。アルトはその隙を逃さない。ピストルを内ポケットから取り出し、その『誰か』の足元に撃ち込む。『誰か』は素早い速度で避け、木の後ろに走っていった。


「逃げるな!」


 ガサッ!


 アルトは咄嗟に音のした方向にピストルを撃つ。しかし、そこには誰もいない。雪が投げられただけだ。他の場所からもガサッと音がした。振り返ってそこにも撃つ。しかしそちらも雪玉。『誰か』がどこにいるのかわからない。弾を使い切りたくない。弾を詰め替えする時に狙われたら避けられない。アルトは敵が錯乱させようとしていることを感づく。その手にはのらない。


 アルトは顔を上に上げる。いた。やはり上から雪玉を投げていたか。しかし、こんな一瞬でよく上まで登れたものだ。


 アルトは引き金を引いた。『誰か』はナイフを投げる。そのナイフと弾がぶつかる。なんというコントロール力。弾にナイフを投げて弾くとは。


 アルトは弾を入れ替える仕草をする。『誰か』はそれを待っていたかのように再び落下攻撃を仕掛けてきた。


「引っかかったな。」


 アルトはそのまま弾を詰め替えずに銃をもとに戻し、構え、『誰か』の足にめがけて撃った。『誰か』の足から血が吹き出す。『誰か』は体制を崩してそのまま落下してくる。血が雨のようになり、雪が赤く染まる。ドサッという音と共に『誰か』は落ちた。アルトが駆け寄ると、それは気絶していた。


「おいおい、マジかよ。」


 『誰か』の正体は銀髪の少女だった。







 暖かな空気により、少女は目を開ける。家の中だ。暖炉に火がついている。


「やっと目を覚ましたか。」


 少女はバサッ!と自信に掛けられていた毛布を投げ飛ばし、体を起こして声のした方向を睨む。そこには20代後半の男がフォークとナイフで鶏肉を食べていた。


「動かないほうが良いぞ。傷口が開く。幸い、少し外れてかすっただけだ。死にはしないから安心しろ。」


 少女は自分の足を見つめる。包帯が丁寧に巻かれていて、少し痛い。


「お話をしよう。君と話したいことがある。」


 アルトは食事をやめ、椅子から立ち上がり少女のいるベッドの隣の椅子に腰掛ける。


「私に何をするつもりですか。」


 少女は怯え3割、怒り7割といった顔をする。


「そうだな。俺の下で働いてもらいたい。」


「私をさらに傷つけるつもりですか!」


 少女は手を握りしめる。


「違う。傷ついた人たちを助ける仕事をしてもらいたいんだ。」


 アルトの言葉の意図がわからない少女は困惑する。アルトは一呼吸してもう一度口を開く。


「カウンセラーっていう仕事だ。」


 カウンセラーという馴染みの無い言葉に少女はさらに困惑した。


「そうだよな、なんの説明も無しにこんなこと言われても困惑だよな。よし、俺が話をしてやろう。」


 アルトは椅子から立ち上がり、少女の隣に座る。少女は先程より警戒していないのか、攻撃はしてこなかった。


「俺が子供の時の話だ。10、11くらいのころの話かな。俺は森の中を一人で彷徨っていた。俺は昔、いじめられていて、一緒に遊ぶ相手がいなかったから森の中に一人で行っていたんだ。そしてら道がわからなくなっちまった。迷子ってやつだ。俺は怖かった。寂しかった。心細かった。そんな時、森の中で二人の不思議な人間と出会ったんだ。片方側は絵本の中の魔女みたいなとんがり帽子で、もう片方側はネコみたいな耳が生えていた。両方女性だ。嘘じゃないぞ。耳は着けものじゃない。本物の耳だ。俺はその人達を警戒したよ。するとネコ耳のほうが俺に向かって『迷子?』って聞いてきたんだ。俺は強がって、『そんなんじゃない。探検していただけだ!』って言ったんだ。するとネコ耳ととんがり帽子はクスクス笑って。」


 少女はその光景を想像する。まるで異世界のような、児童小説のような世界観だ。本当にそれはこの世界での話なのだろうか。


 アルトは話を続けた。


「俺は笑われて、かちんと来たんだ。だけど同時に、怖さと寂しさが押し寄せてきた。俺は少し涙目になってしまったんだ。するとな。今度はとんがり帽子のほうが俺に近づいてきて、『良いものを見せてあげましょう。私のすごさを実感するのです。泣きべそかいているを忘れてしまうくらい面白くて素晴らしいものを見せてあげましょう!』って言ってきたんだ。俺はつばを飲んだよ。するとそのとんがり帽子は杖を構えてなにか叫んだんだ。なんてさけんだか覚えていない。だけど次の瞬間、星空が綺麗に輝いたんだ。これまで見たことのないくらい。そして、キラキラと辺り一帯が輝き始めたんだ。俺はそれを見て感動した。まるで現実では無いみたいだった。俺はそれを見て、いじめられていたこととか、他に自分がかかえていたこととかどうでも良くなったんだ。」


 そこでアルトは一息つく。


「その後、目が覚めると俺はベッドの中にいた。あれは夢だったのかもしれない。だけど俺の心は明るくなった。俺はあのネコ耳ととんがり帽子に救われたんだ。俺はあんなふうに誰かの希望になりたいと思ったんだ。いつか、自分で誰かの心を救う仕事をするんだと。」


 少女はそっとアルトの顔を見る。アルトの顔は笑っていた。夢に溢れていた。


「ところが、俺が23の時、大陸戦争が始まった。俺はその時、あの夜のことなんかすっかり忘れていて、軍隊に入っていた。俺は北の方に攻め込み、雪の中戦った。ある時、雪山を歩いていたんだ。俺達の部隊は壊滅。敵に奇襲されて、逃げてきたんだ。凍えそうな寒さの中、俺は一人で歩いていた。そしてついに力尽きたんだ。俺は倒れた。その時、思い出したんだ。あの夜のことを。俺は兵隊なんか本当にやりたいと思っていない。俺は人の希望になりたいんだと。」


 アルトは強い眼差しで少女を見つめる。


「俺は目が覚めたら洞窟の中にいた。寒いは寒いんだけど、焚き火に火がついていて、一人の青年がその焚き火で料理をしていた。その青年はラク・ヒノミヤという男だ。黒い髪に黄色が混じった変な髪色の青年だ。アイツは酒を持っていて俺にくれた。アイツはおかしな人間でな。酒が嫌いなのに酒を持っていたんだ。あの男は俺に『辛いことがあったんなら酒でも飲んでリラックスしなよ。』と言ってきた。俺はゴクゴクと飲んださ。すると体が内側から温まってな。今思うとアイツが俺に酒を飲ませた理由はそのためだったんだと思う。そして酔った。おれは酔ってアイツにあの夜の話と誰かに希望を与える仕事がしたいという話をしたんだ。するとアイツ、少し笑った後に『なるほど。カウンセリングだね。』って言ったんだ。俺はその時、傷ついた誰かの心を癒す仕事をカウンセリングと言って、その仕事をする人をカウンセラーと言うことを初めて知った。戦後もラクとの関係は続いた。アイツは俺のために資金を集めてくれた。3億もな。俺はその金で自分の会社にするために潰れた銀行の建物を買い取り、少し改築するのに使った借金をさっき返し、あとは人材集めと会社運営に使おうと思う。」


 アルトの話はそれで終わりのようだ。聞き終わった少女は口を開いた。


「なぜ、私を勧誘するのですか?」


「君が人を傷つけてきたからだ。」


 少女は再び困惑の顔をする。


「君は俺を襲った。あの手慣れた動き。俺以外にも襲ったことがあるはずだ。つまり、君は誰かを傷つけてきたことになる。君が人を襲う理由も、傷つける理由も俺はわからない。だからこそ、君にこの仕事をやってもらいたいんだ。人を傷つけてきた君が、誰かの心を癒やすんだ。そしたら君のしてきたことの罪滅ぼしになると思ったんだ。」


 少女は首をかしげる。


「君が変わる絶好の機会だと思うんだ。」


 少女はボソッと口を開いた。


「....リラ・エンバース。」


「えっ?」


「私の名前です。リラ・エンバース。」


「アルト・ヴェレンティンだ。」


 アルトはリラに手を差し伸べる。


「完全に信用はしていないです。だけど、私にそんなことを言った人間は...怯えるのではなく、怒るのでもなく、私を闇社会ではない自身の企業に勧誘した人はあなたが初めてだったんです。だから、面白そうだと思ったので。」


 リラはアルトの手を握ることを拒んだが、従業員になるつもりではあるようだ。


「よし、ありがとう!来週には会社のオフィスを整えて、働ける環境にするつもりなんだ。君の住む場所も会社の一室にしよう。君の部屋を作ってあげるんだ。」


「あの ...ところで、会社名は?」


「あぁ。まだ言ってなかったね。『トリフォリウム・ワークス』だ。」


 アルトはいたずらげに笑った。


「今日は君の歓迎式だ。スープを作ったから飲みなよ。俺も酒を飲む。」


 数時間前、少女に発泡したとは思えない姿でアルトは楽しそうに台所に向かっていった。





世界観は19世紀後半〜20世紀前半あたりですが、実際の19世紀、20世紀では無いです。今後もよろしくお願いします。


2026/01/12 現実にあるのと初期案の会社名が被っていたので、会社名を変えました。

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