こんな世界の隅っこで
世界機密の塊とも言われてる戦艦に
どうして乗っているのだろうと…ふと突然考えては…
こういう時に限って星が綺麗に見えてしまうから不思議に思ってしまう。
地上地域を見守る艦隊の一つ・フィネス。
この戦艦に専属している機体を扱う、
ピットクルーであるキリシマ・ショウジは
移動エリア内で窓越しに写る宇宙空間を一人眺めていた。
窓枠にもたれながら見る真っ暗な世界の星の光は綺麗で
耽っていると今自分が居る場所も忘れてしまう気がするようだった。
キリシマは本当ならばモータースポーツチームのメカニックの一員である。
毎回レースが始まれば他のチームと戦ってきた。
でもそれは、地上でのキリシマの姿。
視界に広がる外の世界は宇宙空間に包まれた暗黒世界の空間では…
レーシングカーからロボットに変わり、
戦う場所もサーキットから宇宙空間に変わり、
未知の生命体相手に戦わなければならなかった。
ここに来れば車から巨大なロボット相手の仕事に変わって、
自分がいつも扱う工具さえもここに来ればロボット専用の工具に変更される。
ここに来れば多くの物がそれ専用になってしまうのは、
制約上しょうがない事だと承知しているが
何処か腑に落ちない気分にさせられるのはどうしてだろう。と
キリシマは窓に映る自分を見て思い耽る。
こんな不安定な気持ちを保って居られるのは…
地上でも身に着けている同じこの耐火服だからだろうか。
現実に起こっているなんて地上の人々は知る筈のない世界で
自分の置かれている現実のせいで
消化不良の気持ちが溢れていたキリシマは溜息を零した。
(これが夢じゃ…ないんだよなぁ…)
チームに入った時から決心して…全て受け居れて数年は経った筈なのに、
こうやってたまに行き場のない気持ちが邪魔をする。
少し一服しようか…確かまだ数本残っていた筈だ。
ここから一番近い喫煙場所を自分の脳内で検索しながら
キリシマは腰ポケットの中にあるタバコへ手を伸ばそうとしたその時――。
「…動くな」
落ち着いた低いトーンの声色と共に背に付かれた硬い先端。
しかしキリシマの鼓動が跳ねたのも一瞬で、
空間に写る後ろの人物が窓越しから視界に入ると
緊張が一気に緩んで安堵と笑みが入り混じった顔だけが残る。
「動くなじゃないよ…誰かと思えば…びっくりした…」
忙しく様変わりするキリシマの顔とは反して、
してやったりな少年のような顔で悪戯が上手く行った様な笑みを浮かべた…
同じチームメカニックのトダ・ケイゴがそこに居た。
「本当…無防備だね。これじゃあパイロットに向いてないなぁキリシマくんは」
「パイロット…て、俺メカニックだし…そんな物騒なもの向けたら監視カメラが勘違いするって」
そうキリシマに向けた銃口は手で除けられたものの…
予想していたのか、キリシマの表情に満足したらしいトダは嬉しそうに
向けていた小型銃を腰元に仕舞う。
以前別の戦艦で誘拐未遂事件があったらしく、
それ以来…この戦艦内でも各自、銃携帯するのは必須になっていた。
攻撃用ではなく、あくまでも護身用だが。
「俺だって、本気を出せば敵なんか一体や二体…っ!」
「それは俺に勝ってから良いなよ」
「う…でも実際撃った事ないのはお互い一緒だし」
「なら今度のシミュレーションでメカニック一位になったら認めてやるよ」
そう言い切るトダにキリシマは口を止めるしかなかった。
彼の射撃の腕は確かで…メカニック内でトダに勝てる人はまだ居ない。
おまけに正確さもあってか、パイロット補佐でも出来るんじゃ…とも
前に言われた事もあるが、当の本人のやる気は無くて。
もしもメカニックにならなかったら何処かの掃除屋にでもなっていそうだ…と
少しだけ思ったキリシマは内緒にしておこう。と、一瞬視線をずらすも
そういえばさ。と、何か思い出したようでトダに問いかけてみる。
「噂…聞いてる?この戦艦に敵と交信したって人が居る…って話」
広い戦艦内でも噂は広がり易い。
こういった自分たちが深く関係するものは尚更だ。
「ああ…パイロットがって言うあれか…チームにも一人居るらしいとか?」
あくまでも所詮噂は噂だ。振り回されたくないけど。そうトダはあっさり言い切る。
「俺さ…」
「ん?何?」
「もしも…もしもだけど、敵と交信出来るなら…この戦いも終わらせられたら良いよなって」
「キリシマ…?」
何処かしら寂しそうな表情のまま窓越しから見える宇宙空間に
キリシマは視線を移す。
「そうしたら誰も死ぬ事はないし…毎回ここで戦わなくても良い…
俺もここで死にたくなんかない…皆も居なくなって欲しくないし…だから」
そう窓越しに写るトダをみては表情はどこか悲しそうな顔を浮かべた。
「だからパイロットも俺たちメカニックも…絶対皆で――いてっ!」
突然、トダに無言で額を軽く指で弾かれ目を見開くキリシマに
「勝手に死なすなっての!何その顔で言ってんだバーカ!」
そんな辛気臭い顔で言うのやめろ。とトダはまたキリシマの額に数回指を弾く。
…今の攻撃より強めな気がするのはキリシマの気のせいだろうか。
「ああもう…何するんすか…本当に手加減厳しいんだから…」
容赦ない攻撃に赤くなった額を摩り…溜息付くキリシマにトダは言い返す。
「俺は自分のチームを信じてるつもりだし…勿論、お前も信じてる。だから帰れる。それだけ」
確信は無いけど俺は自信はあるよ。とトダは笑い返してキリシマの方を軽く叩く。
「自分のチームを信じれば帰れる…か」
「当たり前だ。俺たちは誰だと思ってる?」
「チームのメカニックマンズ…でしょ?」
「そう。だから俺たちが居れば大丈夫だって…ああっ!」
突然思い出したかのようにトダは問いかける
「今…何時だ?」
「え?さっき戦艦内時間で17時ちょい回っていたような――」
「しまった。17時半に急遽ミーティングが決まったからお前を呼びに来てたんだっけ」
「え?ミーティングってちょっとトダさん…」
ミーティング場所…
自分たちのチームの艦隊室はここからどうやって近道しても結構な距離になる。
急に事の真相を伝えられた困惑顔のキリシマを他所に
着けてる腕時計を確認したトダからこれは遅刻確定だな…と続いて更にトドメが。
「遅れて怒られたら今日の夕飯に付いてくるプリン…キリシマの分は俺のな?」
そう不敵な笑みで返されたかと思えば、既にトダは走り始めていて。
「え!待って、なんで俺のせいなんだよ!…って、ちょっと待っ…!」
「ここまで探しに来てやった俺の身にもなれよキリシマ!」
急げって!…そうトダに急かされてキリシマは最後まで言い返す間も無いまま、
続けて駆け出すしか選択肢が見つからなかった。




