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ニヅくん

ニヅくん小説つづき

作者: ほた

「…やっと……いっしょになれた……お兄ちゃん」

「……お兄ちゃんのために……2人でくらせるために、頑張るから……




 だいすきだよ、お兄ちゃん」



 地面の液体がニヅの体を形作っていく。そうして出来たのはいつもより体格が一回り大きく、大人の人間と遜色ない大きさの体だった。

 周りから武装した人間が集まってくるのが見えたがニヅは気にしない。


「…ニヅはお兄ちゃんといっしょにあそびたい。いっしょにご飯食べたい。それに……お外にもいきたい」

「…だから、頑張んなきゃね」

 ニヅはまた地面に溶け込む。

































「…あれ?」

 目を覚ますとそこは自分の部屋。特に気になる事はない。


「……今まで何してたんだっけ………?」

 頭がぼけっとして、うまく働かない。

「あれ…そういえば、ニヅは……?」

 いつも一緒にいたはずの同居人の姿が見えず、頭が更に混乱する。


「落ち着け…最後の記憶を辿って……」

 ちらちらっと頭に浮かんだのは、視界の下に見えた自分の黄色い体毛、前に伸びたマズル。



 そして……泣きそうなニヅの顔。


「……!!」

 思い出した。

 ニヅは家を飛び出していったんだ。

 そしてその後……世間を巻き込んだ騒動になった。

「そうだ、テレビ…テレビを付ければ何か分かるかも…!」

 大急ぎでテレビを付けた。

 が、しかし映ったのは特に変わりのないいつもの番組。

 ニュース番組に変えてみても、ニヅの事やあの騒動の事は全くもって触れられていない。

「これも違う…これも……これも………!くそっ、なんで何もわからないんだ……」

 ニヅの情報が無さすぎる……




 ………もしかして、ニヅは最初から居なかったんじゃないか?

 一つの考えが頭をよぎる。

 …僕はずっと、長い夢を見てたのか……?

 …僕が拉致されたあの施設も。

 …そこで出会ったニヅも。

 …ニヅに振り回されながら過ごしたあの日々も。

 全て夢だったのかも…


「……もうわからない」

 なんだか疲れた。二度寝でもしよう……そう思いベッドに身を投げ出し、眠るように目を閉じた時、




「お兄ちゃん」

 声が聞こえてきた。





 …………はっ?!

 ベッドから飛び起きると、ベッドのすぐそばにニヅが人型を保った姿で立っていて、こちらを覗き込んでいた。

「ニヅっっ!!!」

 僕はベッドから転げそうになるのも気にせず、ニヅに抱きつく。

「わっ、お兄ちゃんっ?!」

 服にニヅの体の液体が染み込んで来るが気にするもんか。僕はもう会えないと思っていた同居人を強く抱きしめる。

 ―――――――が、力が強すぎたのか、ニヅの身体に手が入り、そのまま勢い余って顔にも液体が付く。

 …あ、やばい変わってってる…


「だ、大丈夫…?お兄ちゃん」

 ニヅの慌てた声と共に目が開き、寝返りを打つように上を向くと…心配そうな、しかし呆れと驚きもあるような顔で覗き込まれていた。ニヅの体には僕の体が貫通してる様な形になっている。

「え?別に平気だけど….」


「……ぼくと同じになるの、はやくなってない…?」

 ニヅにそう言われてはっと気付く。前までは僕はニヅに体を変えられる時は、体にある程度馴染むまで動くことや息をすることも出来なかったけど、今はニヅの様子からあまり時間が経ってるわけでもないのに、動けてるし息も吸える。

 いったいどうしてだろう…?

「……どうしよう……」

「…………………うれしい……」


「…え、何で…?」


「…ぼくの生まれたけんきゅうじょのひとが、『液はぼくにおもいをよせたひとほど、すぐに体をかえちゃう』っていってたから………お兄ちゃん、ぼくのこと……すきってこと?」


 一瞬沈黙が流れる。


「はっ!??」


 ちょっと待っ……ニヅのことが好きって言うのは……!?

 …もしかして……「like」の方じゃなくて…「love」の方…なのか…?!


「…いやいや、もちろんニヅのことは……好き、なんだけど………えっと、その」


 僕とニヅの間に再び沈黙が流れる。

 すると……


 ……ぐうぅ。

 大きな腹の音が鳴った。

 本当に恥ずかしい。ニヅも少し驚いた様な、呆れた様な顔をしてる。

「お兄ちゃん……」

「…ご、ごめんって……とりあえず何か頼もう」












「すいませーん」


 気まずくなって話さなくなってしまった僕とニヅの間に、家のインターホンの音が差し込んでくる。

「……あ…やっと来たね、行ってくる」

 ニヅにそう告げて玄関のドアに向かう。

 ニヅから離れる様にそそくさと歩いて行った僕は玄関のドアノブに手を飛ばして…………


 バターーーーン!!!

 ぬるっと足を滑らせてずっこけた。

 しかも、ちょうどドアに体をぶつける様にして。

 更に運の悪い事に、ドアノブに尻尾を引っ掛けてドアが開く様にしてしまった。




 ……ん?尻尾?




「うわっ…!?大丈夫です……か………」

 配達の人の息を呑む音が聞こえた。


 そう。僕はまた体がニヅの様に変わったまま、それを忘れていたのだ。

 しかも、自分から滴る液体に足を滑らせて。

 やべ……これじゃあまた前と同じで変な人に思われ………


「……あ、お兄さん、大丈夫ですか?」

 ところが、目の前の配達員さんは普通に声を掛けて来た。

 なんとか顔を上げてよく見てみると、まさかのこの前と同じ人が配達に来ていた。

「……え?」

 しかしなぜこの状態で普通に話しかけてくるのか分からず、僕と配達員さんが見つめ合ったまま動けずにいると………


「お兄ちゃんだいじょーぶ……?」

 後ろから半分呆れた様な声が聞こえて来た。ニヅだ。

 え、いや、お前は隠れてろよ!!なんで出て来ちゃうの!?

「あ、その子のお兄さんだったんですね」

 …ん?……え??

「お食事置いときますねー」

 そう言ってその人は何事もなかったかの様に行ってしまった。

「いや、どういう事…?なんで僕やニヅの事に何にも言わないんだ…?」

 僕が頭こんがらがって何も理解できずにいると、ニヅが「あのね」と話し始めた。






 ニヅが僕を取り込んだあの後、ニヅは色々な事をしていたらしい。他の人間に、自分の存在が認められる様に。僕と一緒に家の外で……堂々と遊べる様に。

 ニヅは僕と合わさり、なんとか人間に近い体の形を保ちながら、周りの人達と色々やってたみたい。近くの警察とか、住人とか……片っ端から話しに行き、あんまり大事にならない様に丸く納めながら、僕とニヅの事を周りに知ってもらって、普通の住人として過ごしたかったらしい。




「…でもなんで、わざわざ僕をニヅの中に閉じ込める様な事をしたんだよ」

「…それは……ニヅひとりで…がんばりたかったから………がんばって…お兄ちゃんといっしょに…くらせるようになりたかったから…!」

 ニヅが泣きそうな表情で俯きながら言う。

「……ニヅ……」

 ……そこまでして…僕と一緒に居たかったのか……。

 …なんか僕まで、涙が出て来そうだ。……この身体で、涙が出るのかは分からないけど。

 2人の間にまた沈黙が流れる。


「……えっと、じゃあ……ご飯、食べようか?」

 この気まずい沈黙を破るために、とりあえず届いたご飯を食べる事にした。









「………」

「………」

 若干の咀嚼音だけが静かな部屋の中に聞こえる。

 ご飯を食べる時だけはニヅはしっかり形を持った身体になり、普通の人間(?)の様に座ってご飯を食べる事にしているらしい。


「…ねぇ、お兄ちゃん」

「…何?」

「…お外、遊びにいこ」

「えっ…いや、駄目だろ。だってお前は…」

「ううん、もう大丈夫だよ」

 …え…?


「…ほら、早くいこ?」

「あ、おいちょっと待てよっ!」

ご飯を食べ終わったニヅに手を引っ張られて外へと出る。


「もう、ちょっと…待てって…」

この身体で走るのはあまり慣れてないからあんまり無理に連れてかないで欲しいんだけど…!

「ニヅ…待っ……ニヅ…?」

外に出てしばらく走ると、ニヅが突然足を止めた。

どうかしたのかと顔を見ようとすると、ニヅが顔をこっちに向けてくる。


「…お兄ちゃん







  お外って、とっても広くて、きれいで……








         …楽しいね…!」








そこには、今までに見たことの無いほど、無邪気な笑顔を見せてくるニヅの顔があった。


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