koigokoro
街はずれ。
小さな薬局。いつもの処方箋。
お預かりします、と、貴女の頼もしい笑顔と華奢な指。
きれいな貴女は、水を飲み、深呼吸を深く、ひとつ、ふたつ。
俺も、ため息にならないため息を、ひとつ、ふたつ、こぼしてる。
『私、今度、結婚することになりました。今日が最後のお仕事でして』
『東京で暮らすことになりました』
『お元気で』
俺は何を言えばいい。
おめでとうと言ってみる俺には嘘がある。
とても、
きれいな人だから。
彼女の華奢な指には、もうすぐ約束の指輪。
夢で逢えたら。
夢で逢えても。
幸せであれって言えないようで言えてる。
『作品、読みました。良かったですよ』
『私が薬剤師だなんて笑えるでしょ』
東へ行くんだね。
ずっと、ずっと、遠い東へ。
冷めた奴に用はない。
水を一口。
俺は俺になりたくて俺になった。
部屋には猫が右往左往。
猫に問う。
明日、俺が消えたらお前は寂しいか。
猫は答える。
それも生き様。