06 『萌え』の目覚め
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
窓から射し込む光が眩しい……。
「ふぁ~~~あ、……よく寝た……何時?」
ベッドで伸びをすると、私はもぞもぞとベッドから降りる。そして、夜着を脱ぐと昨日着ていた服を今日も着る。着替えを持ってこなかったのだから、仕方がない。
扉の施錠を解除して開くと、廊下の向かい側の壁にアルヴィンが腕を組んで寄り掛かっていた。
「……おはよう、アルヴィン」
「リリアナ、おはよう」
アルヴィンはリリアナに優しく微笑む。
……壁にもたれて腕を組むその姿、さりげなくイイ男なのよね……と『えりな』は思う。
ふと、アルヴィンの目が赤いことに気付いた。
「アルヴィン、目が赤いわ。どうしたの?」
「……え? 実は昨夜はなかなか眠れなくて……リリアナが同じ屋根の下で寝てると思うと緊張して……」
アルヴィンの声が段々小さくなって、俯いてしまった。
ア……アルヴィンが……耳まで真っ赤になって……!
───かわいい!!
何これ? 何コレ!?
もしかして……これが、『萌えキュン』ってヤツ!?
『はわわわ』ってなっちゃうマジで!!
───ハッ!!
リリアナの身体でやっちゃダメよね……。
いけない、いけない。
手を仰いで頭の中の思考を遠くへ飛ばした。
「リリアナ?」
アルヴィンが眉を潜めて不審がっている。
「な、何でもないわ」
「? 朝食にしようか」
フワッと、またアルヴィンが微笑む。
リリアナの中の『えりな』は胸がキュンキュンしっぱなしだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
長期休暇は終わり、グレイグルーシュ辺境伯領を離れる日は、あっという間にやってきた。
「それじゃあ……お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、身体に気を付けてね。また休暇がもらえたら戻ってくるね」
「……リリアナ!」
「お祖母ちゃん!」
祖母はリリアナをぎゅっと抱きしめて背中を撫でる。
グレイグルーシュ家から馬車を出してもらい、2人は王都へ戻ることになった。リリアナは馬車の中から、祖母の姿が見えなくなるまでいつまでも手を振り続ける。
「……別れって、嫌い……」
「僕も、痛いほどに知ってる……」
アルヴィンはリリアナの潤んだ瞳を見つめた。
「この2年間は君の消息が分からなくて僕は何もできずにいた。だけど、これからはどこにいるのか分かってるから、何の不安もないんだ。もう、どこにも行かないで……リリアナ」
アルヴィンはリリアナに優しく笑いかける。
リリアナはアルヴィンの言葉で、瞳に溜めていた涙がつうっと一筋、頬を伝って流れた。
「……アルヴィン、ごめんね」
「もういいよ、終わったことだから」
王宮へは、夜10時過ぎに着いた。
「送ってくれてありがとう、アルヴィン」
「どういたしまして」
アルヴィンはリリアナに優しく微笑む。
『えりな』はアルヴィンの微笑みで何度も胸を刺激されてグロッキー状態だった。
し、心臓に悪いわ……。
リリアナは、アルヴィンの乗った馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。
「……さて、と」
鞄を持ち上げ、自分の部屋に向かって歩いていたら、「リリアナ?」と声を掛けられる。
「誰?」
振り返ると、そこにはレイノルドが佇む。
王子様然とした佇まいに、襟には金の刺繍の施された詰襟の白い服を着ている。
「……レイノルド」
リリアナは1歩、後ろにあとずさる。
「僕が嫌い?」
そう言うと、レイノルドはリリアナとの間を詰めて歩み寄ると、目の前に立った。
「ずっと……会いたかった、リリアナ」
鞄を持っていない方の手をとられると、甲に口づけを落とされる。
リリアナはサッと手を引っ込めた。
「……アルヴィンと、一緒にいた?」
───何で分かったの!?
「昔は僕とも一緒に遊んだじゃないか……アルヴィンは良くて、どうして僕を拒絶するんだよ」
「……王子様だから……私の家は男爵家だから、友達にはなれても、それ以上は……」
レイノルドの顔が一瞬険しくなる。
無言でリリアナの手首を掴むと、レイノルドはリリアナを自分の部屋に引き入れる。
部屋の扉を閉め、リリアナに向き合うと、リリアナに抱きついた。
「……レ、レイノルド?」
「……僕だって……僕だって……王子なんて……嫌だ……嫌なんだ……」
レイノルドの声は震えて、涙混じりの声に変わる。
「……助けて……リリアナ……」
「レイノルド……」
「僕もリリアナが好きだ……! でも、ナシュダールとアルヴィンから敵対視されたくない。僕は臆病者なんだ」
リリアナはレイノルドを邪険にできなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ロイヤル学園中等部も長期休暇が終わり、新学期が始まった。
「「おはよう! ナシュダール」」
アルヴィンとレイノルドはリリアナに会えたことで機嫌が良く、ナシュダールを不快にさせた。
「おはよう……なんだよ2人とも、気持ち悪い……何かいいことでもあったのか?」
「僕は何も……アルヴィンだろ? 浮かれてるのは」
レイノルドは知らん振りして、アルヴィンに話を振る。
「……休暇中にリリアナに会えた。僕ん家の領地に住んでたんだ」
「グレイグルーシュ辺境領にか!?」
ナシュダールは大いに食い付く。
「長期休暇しかグレイグルーシュに帰らないって。それよりも、9月から中等部に入学するって言ってた」
アルヴィンはリリアナの学力なら9月に入学するのは決定事項だろうと思い、敵であるナシュダールに塩を送る。
「9月に……そうか」
ナシュダールは頬を赤く染めた。
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