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40 コンラートと城下町デート


リリアナは両親の離婚でこの邸宅を出て以来───およそ6年半振りに自分の部屋に入る。

「……懐かしい。出ていった時のままだわ」

本棚に並ぶ本は、幼い頃のお気に入りの童話や物語ばかりだった。

埃っぽいことはない。主のいない部屋でも、使用人がマメに掃除をしてくれていたことがわかる。

クローゼットを開くと、さすがにハンガーに掛けられた服たちは小さくて、今の体型に合った服を買い直さないといけないことは一目瞭然だった。


ベッドに腰掛けると、そのままベッドに倒れこみ、天井を見る。

目を閉じると、リリアナは疲れからうとうとして眠ってしまった。


「……リー、リリー? 寝るなら上掛けを被らないと風邪をひくよ」

「───ん……? コンラート……さん? 今、何時?」

寝惚けながらリリアナはコンラートに今の時間を訊いた。

コンラートは胸ポケットからジャラっと金色の懐中時計を取り出すと、「あと2分くらいで新年だよ」と言う。

リリアナはゆっくり起き上がろうとすると、コンラートが腕を引っ張って起きるのを手伝う。

「コンラートさん……ううん、『とーやさん』、今年はたくさん助けてくれてありがとう。来年もよろしくね」

「……リリー」

コンラートの金色の瞳が優しくリリアナを見つめる。リリアナはコンラートを見つめ返し、そのままコンラートの胸に自身の身体を預けた。


その時、深夜0時を告げる鐘の音がゴーン…ゴーンと鳴り響く。


「新年おめでとう」

「新しい年ね、おめでとう、コンラートさん」

リリアナが目を閉じると、唇に柔らかくて温かいものが触れ、リリアナの両の頬をコンラートの手が添えられる。うっすら目を開けると、コンラートの舌がリリアナの口内に浸入し、リリアナは舌を絡めとられる。

「……はぁ」

「リリー、僕はこのままキミを……」

コンラートはリリアナをベッドに押し倒す。顔を真っ赤にしたリリアナの鼻の頭に、(まぶた)に、それぞれキスを落とす。そして、リリアナのぷるっと艶のある唇を優しく()むと、唇を重ねた。


   ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


部屋が朝陽で明るくなっている。

目をそっと開けると、上掛けの中で何も身に着けていないリリアナは、同じく一糸纏わぬコンラートに抱きしめられていることに気付いて、顔が赤くなる。


(だって、二晩連続よ!?)


「……おはよう、リリー」

コンラートはリリアナをギュッと抱きしめる。

「今日は、一緒に城下町を散策デートしようか?」

「……『とーやさん』とデート……行く! 嬉しい……!」


リリアナとコンラートは服を着ると、揃って食堂へ向かう。2人は新年の挨拶をすると、食堂の席に掛ける。座席には、レイノルドと護衛たちの姿だけが無かった。

「レイノルドはどうしたの?」

「朝早くに王宮から迎えがきて、酒が抜けてないままのレイノルドを連れていった」

ナシュダールがやれやれといった様子で説明する。

「あら、でもお兄様も一緒に飲んでいたのでしょう? お酒が残っているようには見えないわよ?」

「俺は自重(じちょう)して程ほどで酒は控えたが、レイノルドは自分の限界を知らずに飲み過ぎたんだ。アレがいずれ一国の王になるとか……勘弁してくれ」

ナシュダールは頭を抱える。


朝食を済ますと、リリアナはローブを羽織り、コンラートと仲良く手を繋いでローズウッド家を出る。その後をコンラートの部下たちが追尾する。

「今日はリリーに服を買ってあげたいと思ってね」

「えっ!」

今着ている服は、セントアルカナ公国のバルへ出勤する際に着ていたものだ。まさか誘拐されて、ほぼ着っぱなしになるとは思ってもいなかった。

「僕も中のシャツは替えているけれど、リリーは着替えも無かったからね。リリーのお気に入りの服屋さんはある?」


じゃあ……と、リリアナが案内したのは、母によく連れていってもらった服飾店だった。この店はリリアナが小さい頃から母が懇意にしていて、服のデザインは20代だった母にどれもよく似合っていた。

大きくなったら私もこの店で服を買って着てみたいと思っていた。

店のドアを開けると、カランコロンと小気味いいドアベルが鳴る。

「いらっしゃいませー」

店の奥から店員が声掛けをする。

コンラートもリリアナと一緒に店に入ったが、コンラートの部下たちは店の外で待機することになった。

リリアナはいろいろ服を見て廻っていたが、コンラートがお店のカウンターで店員と何か話し込んでいることに気付く。

コンラートと話していた相手は年配の男性だったが、店員というよりは店のオーナーかもと思われた。お話の邪魔しちゃ悪いよね、とリリアナは気を回して、コンラートの方を見ないように服を探す。


「リリー、気に入った服は見つかった?」

コンラートがリリアナに声を掛ける。

「コンラートさん、3着の中からどれがいいかと思って、決めかねているの……」

どれか1着に絞れずに困っているリリアナを見て、コンラートはふふ、と笑った。

「……もう! 笑わないで!」

「ごめん、ごめん。悩んでる姿がかわいくて! いいよ、全部買うから」

「えっ! でも……」

「もっと買ってあげるつもりだったから、3着じゃ少ないくらいだけど。リリー、せめてあと3着は選んで持っておいで」

「えぇーーっ」

そこへ、先ほどまでコンラートと話していたオーナーらしき男性が口を挟む。

「ふふふ、お嬢さん、男性が買ってくれると言っているのだから素直に受け取っておきなさい。断るなんて男としての面目丸潰れですからね」

「仰るとおりです」

コンラートが同意する。


時間は掛かったが、リリアナは3着の服を追加で選び、全部で6着をコンラートに買ってもらう。

「リリー、買った服の中の1着に着替えておいで。新年なのだから、新しい服でデートしよう」

「……う、うん」

店の試着室を借りて、古い服を脱いで新しい服に着替えた。試着室を出ると、コンラートが優しく微笑んでおり、リリアナは胸がキュンと鳴る。


その時、店のドアベルがカランコロンと鳴った。

「オーナー? いいデザインの服、入荷してるかしら?」

リリアナはその声にハッとする。


(まさか……まさか、ここにあの人が来るなんてこと……)


リリアナは足がすくんで、その場から動けずにいた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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